NHK札幌放送局

知床の知恵でヒグマ対策 0755DDチャンネル

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2022年11月18日(金)午前0時00分 更新

北海道各地で多発するヒグマトラブル。人とヒグマの営みの均衡を保とうと取り組む自治体が増えています。注目されているのは、知床をかかえ、長年ヒグマと向き合ってきた斜里町の知識や経験です。そのノウハウを吸収してヒグマ対策を始めた大空町と、知床ウトロ学校の子どもたちを追いました。
再放送:2022年11月5日(土)あさ11時31分〜
初回放送:2022年10月29日(土)あさ7時55分〜

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高さ15センチでヒグマを止める

「15センチでないと、ヒグマには効かないんです」

大空町でヒグマ対策を担う役場の水野正樹さんが、電気柵の一番下の電線の地面からの高さを説明してくれました。

電気柵
畑などに張り巡らせたワイヤーに電気を流して、触れた動物に野生動物に電気ショックを与えて中にいれないようにする柵。自治体によっては、家庭菜園のヒグマ対策のため市民に貸し出している。

藻琴山のふもとに広がる大空町東藻琴地区のビート畑に、2022年5月、大空町内で初めての特別な電気柵が張り巡らされました。
町内ではこれまでもエゾシカ対策の電気柵は導入されてきましたが、今回は「初めて」の特別仕様、ヒグマ対策用です。
シカ用の電線の貼り方では、ヒグマは、一番下の電線の下を掘って、簡単に畑に侵入してしまいます。15センチは、ヒグマが穴を掘ろうとしても、体が触れてしまう高さなのです。

知床流対策を導入中

対ヒグマの電気柵の張り方を指導したのは、知床世界自然遺産をかかえる斜里町で、ヒグマの保護と管理を担っている知床財団です。大空町がヒグマ対策を依頼し、対策の普及や人材の育成を進めています。
大空町では、ヒグマの目撃件数が、2021年33件であったものが、2022年は10月までに50件と大幅に増え、より効果のあるヒグマ対策が必要になっています。

ヒグマ用の電気柵を張り巡らせた畑の6月。知床財団からやってきた村上拓弥さんが、エンジン草刈機で電線の下の雑草を刈り取っていました。
雑草が電線の高さまで育つと、漏電して、電気柵の威力が発揮できなくなってしまうからです。

6aの畑を囲う総延長400メートルの電気柵の下の草を、1時間ほどかけて刈り切ったところで、村上さんと大空町の担当者・水野さんが電流をチェックしました。

知床財団村上さん
「2.5kvほどあがりましたね。8.6kvです」
大空町役場 水野さん
「いいですね」

大空町では、町内のモデルケースとして、ヒグマの被害に悩む農業者にこの電気柵を見てもらい、効果的な貼り方と、草をこまめに刈り取る管理方法を広めることにしています。

大空町 産業課耕地林務G 水野正樹さん
「もう少し広い畑でも、こういう風にできることを実証して、広めていきたいと思います」

となりのヒグマを知る

夏の藻琴山の山麓はササやイタドリが生い茂ります。大空町の水野さんと知床財団の村上さんは、その深いヤブをかき分けて、森の中に見つけた「ヒグマが通りそうな場所」を目指していました。
その湿地は、沢沿いにあって、ミズバショウの群落があり、ザゼンソウが生える場所。ヒグマが利用しやすい場所です。
2022年5月、大空町は、この場所を含めて町内の9カ所にセンサーカメラをとりつけました。ヒグマがどんな場所を移動しているのか確かめるためです。

6月、畑のそばにある林においたカメラが、ヒグマの親子の様子をとらえました。この林は、ヒグマの生息域の大きな森どうしをつなぐ、通路の可能性がありました。その予想を、画像というデータで確かめることができました。
ヒグマを知る最初の一歩として、通り道をつきとめた瞬間でした。

知床財団保護管理係 村上拓弥さん
「私たちがしれとこで取り組んでいるヒグマ対策をほかの地域でも広めていっててヒグマと人が共存できればいいと思う」


知床で生活し学んできたからこそ伝えたい

知床の玄関口、斜里町ウトロの高台に、知床ウトロ学校があります。義務教育の小学校の児童と中学校の生徒にあたる、1年生から9年生まで81人が共に学ぶ義務教育学校です。

このウトロ学校ならではのカリキュラムが、ヒグマ授業です。毎年、知床財団から講師を招いて、ヒグマの生態や遭遇したときの対処法、そしてヒグマがなぜ人里におりてくるのかを学んでいます。

次の年の3月に卒業を控えた9年生8人は、2022年の修学旅行先の札幌で、「ヒグマレクチャー」をすることになりました。
札幌市では、市街地へのヒグマの出没が人身事故になるなど、トラブルが増えています。生徒たちは、これまで学んてきたヒグマの知識を札幌市の人たちにぜひ知ってほしいと考えました。

「住宅街にヒグマが出たらどうする」にどう答える?

レクチャーの準備のなかで、生徒たちがもっとも時間をかけて話し合ったのが、「住宅街にヒグマが出たらどうする」にどう答えるか?ということでした。

今からおよそ20年前、ウトロ学校の校庭で「ソーセージ」と呼ばれた1頭のヒグマが駆除されました。観光客がソーセージを与えたことで人になれ、市街地に出没するようになったと考えられています。
学校では、人の身勝手なふるまいがヒグマの行動を変え、ヒグマを駆除せざるを得なくなることを学んできました。

生徒たちは問題を起こすヒグマについては駆除する事が必要と考えていますが、なぜヒグマが駆除されることになっていくのか、丁寧に伝えなければならないと考えました。

伝わった?ヒグマレクチャー

8月、ウトロ学校9年生8人は、札幌駅前から続く、地下歩行空間「チカホ」で、ヒグマレクチャーを開催しました。

控えめに用意した座席は、すぐにいっぱいに。生徒たちが予想していた以上の市民が立ち寄ってくれました。

生徒たちは、小瓶に入ったヒグマのふんのサンプルを示して、ヒグマは木の実や虫を食べていることを説明。そんなヒグマが、人間の食べ物を食べてしまったら、どうなってしまうのか、自分たちで作った動画を上映しました。

動画では、腐った人間の食べ物をポイ捨てするところから始まります。
その食べ物を拾って口にしたヒグマはその味を覚えて、住宅街のゴミ箱を荒らすようになる、という物語です。

生徒たちはヒグマが駆除されることについてこう市民に訴えました。

「ヒグマは人に危害を加えてしまうことあります。しかし、その原因を人が作っていることもあります。安全を守るためにクマが殺されてしまうこともありますが、クマが住宅街に下りてこないような努力を僕たち人間がする必要があります」
札幌市民
「クマと身近に接していて、子供の問いから教育を受けているという人たちのお話なので、実感を持って聞けました」
知床ウトロ学校 住吉さん
「みんなうなずいてくれてたりして、勉強になったといってくれた方もいたので、心に響いた部分はあったのかなと思います」
知床ウトロ学校 石本さん
「みなさん反応をしてくれたので、少しはクマに対する見方が変わっていただけたかなと思います」

取材後記

ヒグマはそもそも警戒心が高く人に近づかない。こうした習性を私が知ったのは北海道生まれなのにこの仕事についてからでした。北海道で暮らしていてもヒグマを意識して生活している人は私のように少ないのではないでしょうか。この無意識が現在のヒグマとのトラブルを招いたのかもしれないと知床でのヒグマ対策を取材するたびに痛感します。
(帯広局 五十嵐 菜希)

2022年10月29日

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