牛や羊などの家畜を放牧して牧草のみで育てる飼育方法「グラスフェッド」。
穀物を与えないことで脂が少ない赤身の肉質になるのが特徴です。
十勝の足寄町ではこの「グラスフェッド」の和牛を町の新たな特産にしようという取り組みが始まっています。
(NHK帯広 小川 祥)

新たに開発した和牛メニュー
風味豊かなヒレ肉のグリルと歯ごたえを楽しめるハンバーガー。
これまでの和牛とはひと味もふた味も違う「グラスフェッドの和牛」を使った新たなメニューです。

取り組みを始めた和牛農家
足寄町で和牛の繁殖牧場を経営する 兼古 照夫さん。
50ヘクタールの放牧地でおよそ130頭の和牛を飼育しています。
兼古さんは3年前から「グラスフェッド」に取り組み、去年から出荷を始めました。

きっかけはお産を経験した経産牛と呼ばれる高齢の雌牛の存在でした。
肉質が硬く食べにくいイメージが強いことから食肉としての評価が低かったのです。
兼古牧場 兼古 照夫さん
「一応お肉にはなりますけどけどあまり表には出てこない、安いお肉として使われるんです」

そこで兼古さんは海外ではグラスフェッドで育てた赤身の牛肉が人気になっていることから足寄の広い放牧地を生かして、牧草だけで育てれば経産牛でも付加価値の高い牛肉になると考えました。

兼古 輝夫さん
「足寄の豊富な牧草資源を生かして何かできないかと考え、始めた取り組みです」

地元の飲食店も協力
次の問題はこれまでの「霜降りで柔らかくて甘い和牛」とは違う味を認めてもらうことでした。
グラスフェッドの脂が少ない赤身の価値を高めようと協力したのは地元の飲食店を営む仲間でした。

ハンバーガー店を営む鈴木 義徳さんは赤身の濃厚な味を楽しんでもらうために適度な歯ごたえを残す工夫をしました。

ハンバーガー店経営 鈴木 義徳さん
「普通の和牛と違って脂分が少ないので、カットを大きくしてしまうとどうしても硬くなってしまうのであえて機械でミンチにせずに、手切りでミンチ状態にしています」

ダイニングバーを経営する伊藤 隆之さんは豊かな風味を残すためにじっくりと時間をかけて焼き上げたヒレ肉のグリルを考案しました。


ことし3月から店での提供を始めていて客からの評判も上々です。
鈴木さんと伊藤さんは今後もメニューを増やし「グラスフェッド和牛」を足寄町の新たな特産にしていきたいと考えています。
ハンバーガー店経営 鈴木 義徳さん
「みんなで知恵を出し合ってやれればいいのかなと思います」

次のステップは完全なグラスフェッド
和牛を飼育する兼古さんは新しい取り組みも始めています。
それは「完全なグラスフェッド」です。
牧場で産まれた子牛を乳離れしてから穀物などの飼料を一切与えずに牧草のみで育てています。

配合飼料を与えた場合に比べ体の成長はやや遅く、出荷できるまでには5年以上かかる見込みですが、兼古さんは経産牛以外のグラスフェッド100%の若い和牛も少しずつ増やしていく計画です。

兼古 照夫さん
「和牛は“さしが入ったほうがいい”と言う人もいますし、“赤身がおいしいね”って言ってくれる方もいます。私は両方あっていいと思います。どんな時代でも和牛が皆さんに支持してもらえるようにさまざまな可能性を考えていきたいと思います」
取材後記
兼古さんは放牧して牧草で育てる飼育方法は、飼料高騰の影響を受けず経営コストを大幅に抑えられるため、手ごろな値段で和牛を提供できるところも大きなメリットだと話していました。
国内ではグラスフェッドの認証基準を明確にしようという動きがようやく始まったばかりです。
土地の確保という課題はあるものの広い放牧地で牛本来の自然に近い形で育てるグラスフェッドは動物福祉「アニマルウェルフェア」の観点からも今後ますます注目が集まる取り組みだと感じました。
(取材担当 NHK帯広 小川祥)
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