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加入率ほぼ100% 室蘭の新たな町内会とは

  • 2023年6月6日

災害が起きたとき、住民の安否確認などで大きな役割を果たすことが期待されているのが町内会です。しかし、若い世代を中心に敬遠され、各地で「町内会離れ」が進んでいます。室蘭市では、こうした状況を改善しようとデジタルを活用した町内会が新たに誕生しました。 (室蘭放送局  篁慶一) 


町内会加入率は60%割れ

室蘭市では、去年(2022年)4月時点の町内会の加入率が58.3%でした。
20年前の平成15年(2003年)には80%を超えていましたが、その後、年平均で1ポイント以上低下しています。
背景には、回覧板を届けたり、役員を任されたりすることを負担に感じる人たちが多くなっていることや、オートロックのマンションなどが増えて住民への接触が難しくなっていることがあると考えられています。

室蘭市は、この加入率の低下が地域の防災力を弱めることになると危機感を強めています。災害が起こった際には、近隣住民の安否確認をはじめ、救助や避難においても、町内会が果たす役割が大きいからです。

室蘭市地域生活課  西村博恵さん
「特に、若い世代の方の『町内会離れ』というのが残念ながら進んでいるような状況です。防災や防犯には地域の力が非常に重要になってきますので、加入率の低下をなんとか食い止めなければいけないと思っています」


「デジタル町内会」誕生!

室蘭市知利別町

今年(2023年)4月、室蘭市知利別町の新興住宅街に新しい町内会「知利別テラスタウン自治会」が誕生しました。
子育て世帯を中心に約60世帯が暮らしています。
この町内会の運営方法は従来と大きく異なります。
通信アプリのLINEに町内会の公式アカウントを作成し、すべてのやりとりをこの中で行っているのです。
回覧板を近所に持っていく必要もありません。
このアカウントに表示された「回覧板」のボタンをタッチすれば、すぐに最新の情報が確認できるのです。
また、「防災情報」では、近くの避難所やそこまでの行き方を調べられます。
町内会の役員に相談がある場合には「個別相談」のボタンを押して、チャットで会話することもできます。
市は、この取り組みを「デジタル町内会」と呼んでいます。

知利別テラスタウン自治会のアカウント

この地区では、町内会を作るかどうかを決めようと、去年、アンケート調査を実施しました。その結果、回答した世帯の65%が「町内会は必要」と回答しました。
さらに、回覧板を見る方法については、回答世帯の96%が「デジタル化」を希望しました。そこで、室蘭市や市民団体が協力し、「デジタル町内会」が誕生することになったのです。

知利別テラスタウン自治会  福原潤二会長
「ゴミステーションの管理をはじめ、防災や防犯を考えた時には、やはり町内会があった方が良いと考える方が多くいました。ただ、働いている人も多いので、回覧板を直接回そうとすると不在の方がいたりして、なかなか回せないこともあると思います。デジタル化して情報共有すれば、そうした苦労や負担はなくなるので非常に便利だと思います」


デジタルの効果を実感

この「デジタル町内会」の効果を実感する出来事が5月に起きました。
室蘭市内で相次いでクマの目撃情報が寄せられ、その中には近くの場所も含まれていました。
町内会長の福原さんは、市からの情報を受けてすぐにLINEからメッセージを一斉送信し、注意を呼びかけました。

福原さんが一斉送信したメッセージ

知利別テラスタウン自治会  福原潤二会長
「住民の皆さんにとっては気が気でないところもあったと思います。その中で即座にクマの目撃情報を伝えられたので、デジタル化の取り組みをやってよかったと思いました」

「デジタル町内会」に対しては、地区の住民からも好意的な声が多く上がっています。
子育て中の父親は、「町内会には集まりがあったりするのでマイナスイメージもありましたが、今の運営方法は楽になっているので参加しやすいです」と話していました。
また、町内会では会費も無料にしています。
会での行事などもないため、市からの支援金や廃品回収の収益で、今のところは賄えているということです。
役員の数も減らし、できるだけ住民の負担を少なくすることで、町内会の加入率はほぼ100%に上っています。

室蘭市では、この「デジタル町内会」の導入をさらに後押ししようとしています。
今年3月に「町内会・自治会活性化基本方針」を策定し、「デジタルを活用した活動の促進」を盛り込みました。
今後は比較的若い世代が多い町内会に対し、それぞれの事情に応じた形でデジタル化を進めたい考えです。

室蘭市が策定した「町内会・自治会活性化基本方針」

室蘭市地域生活課  西村博恵さん
「デジタルの一番の良さは情報伝達のはやさで、防災にも活用できると思います。特に若い世代の方々に興味を持ってもらって、町内会に参加してもらい、防災力が向上するような取り組みになることを期待しています」


デジタル町内会の課題は?

一方で、課題も指摘されています。その1つが住民どうしの交流の減少です。
実際、デジタル町内会の住民からは、「回覧板を回す煩わしさがないのは楽だが、その分、近所とのつながりが少ない」という声も聞かれました。
この点について、町内会長の福原さんも、どのような形であれば住民が交流する機会を持てるのか、これから考えていくと話していました。
また、市の担当者は「まずは町内会に加入してもらうことが重要で、そこから顔を合わせた交流が始まっていってほしい」としています。

さらに、高齢者などデジタルに不慣れな人たちが置き去りにならないかも課題です。
こうした人たちのために、室蘭市では、今後、「スマホ教室」を開催していくことにしています。
利便性を高めながら、幅広い世代が参加しやすく、地域のつながりも維持できる町内会の模索がこれからも続きます。

2023年6月6日

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