NHK札幌放送局

「新型コロナと農業」現場で何が

十勝チャンネル

2021年4月8日(木)午後2時42分 更新

今年度からNHK帯広放送局では「十勝農業放送局」という新たなプロジェクトをスタートしました。日本の食を支える十勝の農業を多角的に取材し、農業の未来図を考えていきます。

1回目のテーマは「新型コロナウイルスと農業」です。私たちの社会を一変させた新型コロナウイルス。十勝の農業にも大きな影響を及ぼしています。

(NHK帯広 辻脇匡郎記者)

十勝の全農協「影響受けた」

NHK帯広放送局では今回、十勝にある全23農協に、新型コロナウイルスについての影響を尋ねるアンケート調査を実施しました。このうち、影響を受けたかどうかを尋ねる質問では、23の農協すべてが「影響を受けた」と回答しました。農協から寄せられた具体的な回答です。

「飲食業、土産物需要の低迷から、冷凍・加工製品ならびに農作物の販売に影響を受けた」(芽室町農協)
「農作物直売所の営業日数や営業時間が減少し、販売収入が減少した」(忠類農協)
「各種イベントの中止により、農業の魅力、JAの活動内容等について直接伝えることができなかった」(広尾町農協)

中でも多くの農協が影響を懸念している作物が「小豆」です。小豆は北海道が全国生産量の9割以上を占めていて、十勝は一番の産地です。しかしその十勝では、平成28年の台風被害や平成30年の不作により、生産量が激減。道産小豆は在庫不足に陥り、価格が高騰しました。こうした事態を受け、十勝では小豆の安定供給を目指して、作付面積を増やしていたさなかにコロナ禍が起きました。生産現場は翻弄されています。


「高騰」が一変 十勝産小豆の現場は

取材に向かったのは音更町です。小豆の生産量は十勝でもトップクラスの一大産地です。音更町農協では収穫した翌年の6月にかけて小豆の選別や袋詰めが行われ、倉庫に保管されます。農協の倉庫の中を見せてもらうと、ここ数年とは様子が一変していました。

音更町農協 赤間智吏課長
「新型コロナの影響で消費が落ちたことから、ここ数年の中では倉庫が埋まっている状況だと思います」

土産物需要の減少で、小豆の消費量は減っています。ホクレンによりますと、道産小豆の在庫は、不作などの影響を受けたおととしの9月には1万8000トンにまで減少しましたが、去年9月には2倍近い3万2400トンに増えました。さらにことしの9月にはおよそ4万5000トンにまで急増する見込みです。音更町農協の倉庫でも、このまま消費が落ち込んだままであれば、ことしの秋には倉庫が足りなくなる事態も懸念されているということです。

在庫の増加は、価格にも影響を及ぼしています。素俵60キロあたりの価格は、豊作が続いていた平成27年10月には1万1600円でしたが、その後は台風被害や不作の影響を受け、おととし10月には2万5500円に。4年間で2倍以上にまで跳ね上がりました。しかしコロナ禍で需要が落ち込み、去年10月には1万8000円に。今度は1年間で3割近く急落しました。この状況を受け、農協も不安を隠せません。

音更町農協 赤間智吏課長
「せっかく消費があると思って農家の方々に作っていただいたものですから、価格が下落すると作付面積がかなり減るんではないかと心配しています」


作付け減も 翻弄される農家

農協の担当者が懸念する、作付面積への影響。小豆を生産する農家の中には、実際にことしの作付面積を減らす決断をした人もいます。音更町の農家、長澤省吾さんは64ヘクタールの畑を有する大規模農家です。農協などから小豆の作付面積を増やすよう要請があり、ここ数年、作付面積は増加傾向でした。おととしは4ヘクタール、去年は5ヘクタールで小豆を栽培し、ことしは6ヘクタールに増やす予定でした。しかし価格の低迷を受け、ことしの小豆の作付面積を4ヘクタールに減らし、代わりに大豆を生産する計画です。

農家 長澤省吾さん
「小豆を作りたいなっていう気持ちはあるんですけど、価格が低迷しているので、自分の生活を守るために、ちょっと少なくしようかと思っています」

長澤さんによりますと、小豆は大豆に比べて栽培に手間がかかり、価格の変動も大きいと言います。小豆を安定的に生産するためには、大豆のように国が価格保証をするなど、生産者を支援する仕組みが必要だと感じています。

農家 長澤省吾さん
「小豆は価格変動が激しい作物なのでちょっとリスクがあります。需要と供給がうまくかみあって、価格がもうちょっと上がれば作りやすいなというのはありますね」


「国産回帰」新たな動きも

在庫が増える中、小豆を使った商品を製造する企業では新たな動きも出ています。それが「国産回帰」の動きです。

大手スーパーやパンメーカー、それに和菓子店などにあんを出荷している、千葉県の製あん工場ではあんの原料として、年間数百トンもの小豆を使用しています。以前はすべて道産の小豆を使っていましたが、おととしの在庫不足で道産小豆の確保が難しくなり、3分の2を海外産に切り替えざるを得ませんでした。

的場製餡所 的場茂社長
「もう小豆が完全に無くなってしまったので、輸入のカナダ産小豆を使わざるを得ませんでした」

コロナ禍で小豆の在庫に余裕が生まれたことから、この会社では再び十勝産小豆を確保できるようになりました。会社ではことし3月から段階的に、カナダ産小豆から十勝産小豆に切り替えています。高品質な十勝産の小豆を使用できることは、会社にとっても大きな強みになると考えています。

的場製餡所 的場茂社長
「十勝産小豆は品質面、特に風味や色がカナダ産よりも絶対的に勝るので、お客さんも安心して召し上がっていただけると思います」


「消費に向かうチャンス」

新型コロナウイルスの影響を受ける農業。生産者の団体・ホクレンは、この状況をどう打開しようとしているのか。トップに聞きました。

ホクレン 篠原末治会長
「国産への切り替えが進んでいる中で、この1年間が消費に向かう大きなチャンスだと思っていますので、コロナ禍を機に国産の重要性を理解してもらい、低迷する食料自給率の引き上げにつなげたいと考えています」

小豆についても、引き続き消費拡大に力を入れていく考えを示しました。

ホクレン 篠原末治会長
「最大の需要者である和菓子業界の支援を続ける一方で、小豆を安定供給していくことが北海道産小豆に対する信用を勝ち取ることになると考えています」


【取材を終えて】
新型コロナウイルスが十勝の農業にどのような影響を与えているのか。取材は、農協へのアンケートから始まりました。全国で土産物が売れなくなり、原料となっている小豆や生乳などの需要が減少していることは知っていましたが、農協からは「小豆の作付面積の減少を懸念している」という声が聞かれました。一方、農家からは、小豆を作りたいが、生活のためには減らさざるを得ないという切実な声も聞かれ、難しい問題だと痛感しました。今回は小豆について取り上げましたが、同じような問題はさまざまな作物にも及んでいると思います。新型コロナウイルスの収束が見えない中、日本の食を支える十勝の農業に及ぼす影響を、今後も取材していきます。

2021年4月9日放送

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