NHK札幌放送局

北海道千歳市で作られた28年ぶりのアイヌ伝統の丸木舟

ほっとニュースweb

2022年1月14日(金)午前11時55分 更新

令和3年(2021年)10月、千歳市で、アイヌ民族伝統の丸木舟「チㇷ゚」の製作が28年ぶりに行われました。 原木の伐採から完成までおよそ7か月。製作に参加したアイヌの人たちに思いを聞きました。 

アイヌにとって丸木舟って

丸木舟「チㇷ゚ 」をこぐアイヌの姿。アイヌの生活を記録するために大正14年(1925年)に千歳市で撮影されました。

千歳のアイヌにとって、チㇷ゚は食料となるサケを確保するため、また千歳川などを移動する手段として生活に欠かせないもので、戦後ごろまで使われていたといいます。

千歳川のほとりにある蘭越のコタンで生まれ育った千歳市の小田春次さん(82)は、チㇷ゚は本当に暮らしに身近な道具だったと振り返ります。

小田春次さん
戦後すぐもこのあたりは一家に1そう舟がありましたね。
あまり食べるための魚採ったりとか物を運ぶときに使ったりしてたんですよ。小学校高学年くらいになるとみんな操れるようになって。小さいときに黙って使って親に怒られたりしました。

道路の整備などで徐々に使われなくなっていったチㇷ゚。

千歳アイヌ協会は、28年前にも、サケを迎える儀式アシリチェプノミの復活にあわせてチㇷ゚を製作しましたが、舟が老朽化したことや、高齢化が進む中、次の世代に技術と伝統を引き継ぐには今しかないと、ことし28年ぶりに丸木舟を製作しました。

まずは原木の伐採

チㇷ゚を製作する全ての過程を伝えたいと、伐採前の儀式から、伝統にのっとって進められました。

チㇷ゚は一本の木をくりぬいて作るため、十分な太さの木が必要になります。

道内中を探し求め、新ひだか町の国有林で樹齢250年にもなるかつらの大木を見つけ、国からのアイヌ施策交付金を使って、林野庁から購入しました。

伐採前に山の神に感謝を捧げ安全を祈るカムイノミが行われました。

そして製作作業へ

製作作業は、28年前にも携わったメンバーを中心に、10代から20代の若い世代も加わり進められました。
年輪をしっかり確認して年輪の重なりが多く重い方を下にします。
舟は少しでもバランスが悪いと、転覆してしまうため、高度な技術が求められます。
それぞれの仕事の合間を縫っての作業。かつての資料を参考にしながらの手探りの作業が続きます。

チㇷ゚の完成

7か月かけて全長およそ7メートルと4メートルの2そうのチㇷ゚を完成させました。
そして、令和3年(2021年)10月、メンバーたちは、川の神に祈りをささげ、完成した舟を実際に川に浮かべる儀式、「チㇷ゚サンケ」を行いました。多くの人たちが見守る中、28年ぶりとなるチㇷ゚の進水は成功。

若いアイヌによる伝統的なサケ漁の再現も行われました。

製作に携わった人たちは

責任者であり、28年前にも製作に携わった上野政記さんは試行錯誤の連続だったと振り返ります。

上野政記さん
28年前に、うちのじいさんが作ったときに、私が手伝ったので今回も参加しました。作り慣れた年配の人はみんな亡くなってしまったので。そのときの3人が残ってたんで資料集めながら、ビデオ見ながらみんなで試行錯誤しながら作りました。今回は無事川に浮かんでほっとしました。

一方で今回はじめて参加した若いアイヌにとっても大きな刺激となりました。

西村晃太さん
チㇷ゚は私たちアイヌの人々にとって生業であるサケ漁をするのに欠かせないものだったので今回、チㇷ゚づくりということで携わらせてもらってすごく嬉しい気持ちと、伝えていかなきゃという両方の気持ち感じます。

技術だけでなく精神性も伝承

今回のような取り組み、どんな意味があるのか。大学でアイヌ文化を教えている札幌大学 の本田優子教授専門家は技術だけでなく精神性も受け継いでいくことが大切だと話します

札幌大学 本田優子教授
私はアイヌ文化というのは森の文化であり木の文化と思っています。樹木もまた役割をもってこの世に下ろされてきたカムイなんですよね。いろんな生活用具が木で作られていますし、交易によって、例えば陶器とかが手に入っていた時代でも、やっぱり木を選ぶんですね。大学でアイヌ文化論とかアイヌの歴史とか持っていますけれども、それってどうしても頭の中の知識になるんですね。特にアイヌ文化はそれだけじゃ駄目だというふうに私は思っていて森の中で樹木と向き合うこと、それから、歌うこと、踊ることをそういう身体感覚で文化を学ぶことが特に必要だというふうに思っています。今回、丸木舟を製作するだけじゃなくて、様々な儀式もあわせて行っていますよね。そういう意味でも素晴らしいと思いますね。

背景には交付金の活用

今回のような取り組みは道内で行われていて、釧路市の阿寒湖畔でもおよそ20年ぶりにチㇷ゚が制作されています。こうした動きの背景には、2019年に制定されたアイヌ施策推進法にまつわる国の交付金の活用があります。今回の千歳でのチㇷ゚の制作も、千歳市からの委託を受けたという形で行われました。

アイヌ文化推進法は「アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会の実現」を目的としています。

本田教授は、今後も交付金の活用の過程にアイヌの人たちがしっかりと携わっていくことが重要だと話していました。

次につながる文化伝承

今回、製作された丸木舟は、今後千歳アイヌが30年続けている伝統のサケ漁「マレㇰ漁」の継承活動に使われる予定です。マレㇰ漁を継承していく意味はなんなのか、どんな思いで活動をしているのかについても、今後、取材を続けていく予定です。

(札幌放送局 山口琉歌記者)

伝統を伝承しようとチㇷ゚を製作する動きは道内で広がっています。
阿寒湖畔で丸木舟20年ぶり製作開始

アイヌ関連の情報をこちらにまとめています。
ウピㇱカンタ あちこちで(アイヌ関連情報まとめ)


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