NHK札幌放送局

たった3人で花火大会を中継 元テレビマンたちの挑戦

番組スタッフ

2021年1月15日(金)午後1時04分 更新

北海道の道東エリアに元テレビマンたちが移住し、インターネット放送局を設立。「たった3人で花火大会を中継」「地域発のバラエティ番組」など画期的なコンテンツを次々と配信しています。その舞台裏を取材したところ、テレビ局が培ってきたノウハウがインターネット放送局を通じて地域社会に還元されていく姿を目の当たりにしました。  

(取材:NHK札幌放送局 ディレクター 大隅亮)

この記事は 1月15日(金)19:30 NHK総合・北海道エリア「北海道道 20代が見つけた“充実ライフスタイル”」の取材をもとにしています。

クリスマスイブの“贈り物”

きた~! すごい! 

2020年12月24日の夜6時、北海道の東に位置する弟子屈町に花火が上がりました。コロナ禍で軒並みイベントが中止になった一年の終わりに、商工会青年部が町の人に贈ったプレゼントでした。

その様子は「弟子屈町の公式YouTubeチャンネル」でライブ配信されていました。人口7000ほどの町ですが、ネット中継には約300人がリアルタイムで参加し、コメントが途切れることなく届きました。

元気が出たー ありがとうございます!
来年はみんなで夏に見たいよね~!
ばんざい弟子屈がんばれ弟子屈

画面越しに同じ花火を見上げる。町の人たちの気持ちがつながったことが実感されるひとときでした。

「たった3人」の衝撃

この花火大会の配信は、実況中継あり、インサートVTRあり、視聴者からのメッセージあり、さらに別会場からの映像も入るというテレビの花火中継に近い充実した内容でした。

驚くべきは、この花火大会の中継をたった3人で配信していたことです。道東テレビというインターネット放送局の関係者です。

▼写真左 実況やVTRの制作を担当した川上椋輔さん
▼写真中 別会場のカメラを担当した崎一馬さん
▼写真右 撮影など技術面を担当した立川彰さん

3人で2拠点同時中継。これが実現していることに私は現役のテレビマンとして大きな衝撃を受けました。

テレビ局と比べてみると・・・

この驚きを理解してもらうため、テレビ局が中継車を出した場合と比べてみたいと思います。私の試算では、制作系で6名、技術系で7名、別会場に1名を配置する必要がありそうです。

<制作系> アナウンサー、ディレクター、フロアディレクター、制作統括、編集、マイクロバスドライバー
<技術系> 送出、テクニカルディレクター、スイッチャー、音声、照明、カメラ、中継車ドライバー
<別会場> カメラ

それに対してインターネット放送局の中継では、<制作系>の6つの役割を川上さんが担当。<技術系>7つの役割を立川さんが担当。<別会場>の1つの役割を崎さんが担当していました。

もちろんテレビとインターネットでは、求められる安定性やクオリティに違いはあります。それにしても3人でこの充実した中継を行ったことは画期的です。

そして3人のうち2人は元テレビマン。いったい何をめざして、このような中継を行ったのでしょうか?

「コロナ禍の当事者」を選んだ元アナウンサー

川上椋輔(かわかみ・りょうすけ)さんは、配信の3か月前まで民放のアナウンサーでした。テレビ局を辞めたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、取材者の立場にいることに疑問を感じたからでした。

川上椋輔さん
「この先がどうなるかは誰にも分からないですし、ただ、その過程にちゃんと当事者としていたい」

コロナ禍を取材者としてではなく、当事者として迎えたい。その思いから、弟子屈町の地域おこし協力隊に転職しました。(詳しい経緯についてはこちらのウェブ記事で書いています)。そこで道東テレビの協力を得て、町のプロモーション事業を担うようになったのです。

川上さんは25歳。彼と話していて感じるのは、若い世代の価値観が変わって来ていることです。彼自身、自分たちの世代のことをこう表現しています。

川上椋輔さん
「同世代と話して感じるのは…、大きな企業に入ったり出世をするよりも、人間としての親密さとか、自分がどう社会に還元されているのだろうかと、そういうところ」

アナウンサーから地域おこし協力隊になったことで、川上さんの収入はおよそ半分になったそうです。それよりも優先したのは、コロナ禍という困難な時期に、地域の中にいて地域に貢献することでした。

アナウンサーを辞めてからの猛勉強

川上さんは、実は弟子屈町に来てから、カメラの撮影やVTRの編集をはじめて本格的に学んだといいます。また、これだけ長い中継の構成を考え、寄せられるコメントを自らリアルタイムに選んで読むようになったのも、ここに来てからだそうです。これらの支援をしてくれたのが道東テレビでした。

川上さんを見ていると、地域の役に立ちたいという情熱が、あの驚くべきマルチタスクを実現しているのだと教えられました。

花火の実況を終えた川上さんの表情は晴れ晴れとしていました。

川上椋輔さん
「言葉にならないですね。こういうことをやりたくてこのキャリアを選らんだ自分もいたんで。これができることに感謝したいですね。素敵な町ですね。弟子屈町は」

”テレビ”で町を元気にする 元ディレクター

北海道の道東エリアでインターネット放送局「道東テレビ」を立ちあげたのが立川彰(たちかわ・あきら)さんです。

もともと「所さんの笑ってこらえて」など日テレ系列のバラエティ番組などを手がける制作会社につとめていました。

立川さんは"テレビ番組に似たコンテンツ”を作ること自体が地域の人を元気にすると考えています。その代表例が、道東の津別町を拠点に50回以上もネット配信を重ねるバラエティ番組「つべらない話」です。

この番組のMCをつとめるのは、農家や料理人、木工会社など町の人たちです。そしてゲストの多くも町の人です。

毎回、配信後には次回の企画をめぐって真剣な議論が交わされます。

立川彰さん
「次何やる?」とか「こんな企画がやりたいよ」 って…。みんなで番組つくろうぜって感じになるじゃないですか。そういう雰囲気、なんでもやってやろうぜ。ってそういう土壌ができる。

コンテンツを作ることによって、町の人たちが積極的になり、ゆくゆくは町全体が元気になる。そのことを知った立川さんは、最新の機材を駆使して、テレビ局のノウハウを町の人に提供していました。

時代の流れが変わっていく

町の人がテレビをつくる。それは、デジタル機器が発達した今、可能になっています。

今回、花火を中継するにあたって、立川さんは近年開発された「モバイル中継装置」を使っています。これは4Gやwifiなど複数のインターネット回線を束ねることで安定して映像を配信する機材です。
下の写真はモバイル中継装置を使って、YouTube動画を生配信している様子です。装置を肩にかけているのですが、気づかないほど小さいです。

また、ワイヤレスマイクやLEDの照明、カメラの映像を切り替えるビデオスイッチャーも安価なものが発売されており、立川さんはそれを利用していました。

弟子屈町での花火の中継を終えて立川さんは言いました。

「時代の流れ、変わっている感じする」

今後、デジタル機器はますます一般化し、多くの人がテレビ局のノウハウを手元で再現することができるようになっていくことは間違いありません。

そんな時代になれば、地域はもっともっと元気になる。元テレビマンたちは、そんな未来を、大輪の花火の中に見ていました。

(写真提供:崎一馬さん)


2021年1月15日

取材後記

「白鳥と混浴ですね」。川上椋輔さんが毎週通っているというお気に入りの場所に連れていってもらいました。屈斜路湖の湖畔、「コタンの湯」という町の人が管理している無料の露天風呂です。隣では白鳥がにぎやかにおしゃべりしています。ここに来ると、いろんなことをフラットに考えることができるそうです。

▼一緒に取材した瀬田宙大アナウンサーの取材記はこちら 
「北海道道」のHPはこちら 


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