NHK札幌放送局

「近くにいたのに何もできなかった・・・」 ~4年前の教訓を胸に 災害救助犬ハンドラー・小野寺里絵さん~

ほっとニュースweb

2022年9月12日(月)午後7時15分 更新

「北海道で起きた災害なのに。近くにいながら何もできなかった・・・・」
災害救助犬と行方不明者を捜索するハンドラー・小野寺里絵さんは、4年前の胆振東部地震を振り返り、悔しさをにじませます。当時の経験を教訓に、命を救うための活動を続けています。
(室蘭放送局・上野哲平) 

被災地はすぐ近く、それでも行けない

犬の訓練士をしている小野寺里絵さん。11年前の東日本大震災をきっかけに、人の役に立つことをしたいと、災害救助犬のハンドラーとしての活動をボランティアで始めました。ハンドラーは、災害救助犬に指示を与え、一緒に行方不明者などの捜索を行う役割を担い、日々、訓練を重ねてきました。

平成30年9月6日午前3時7分、最大震度7を観測した胆振東部地震が発生しました。登別市内の自宅にいた小野寺さんは、車に荷物を積み、すぐに出動する準備をしました。しかし、すぐに現地へ向かうことはできませんでした。当時、小野寺さんは個人で活動をしていたため、自治体などとのネットワークがなく、救助を求めている場所や現場の担当者といった必要な情報をすぐにやりとりすることができなかったのです。小野寺さんが現地に入れたのは、地震の翌日。十分な捜索を行うことができませんでした。

小野寺さん
「民間の人がただ『救助犬です、入れてください』って言っても、それは現場では、正直言って邪魔なだけで、何者ですかっていうことになります。相棒(の救助犬)は、捜索が得意で現場でもきっと役立つだろうと思っていましたが、実際、捜索することはほぼできない状況でした。北海道で起こった災害なのに、一番近くにいながらっていう思いがあります。」

すぐに捜索を行うために

この教訓を胸に、小野寺さんは次に災害が起きた時には、すぐに捜索活動を行えるよう、早速、動きました。最初に行ったのは、道内在住のハンドラーたちに声をかけ、災害救助犬の団体「北海道災害救助犬」を立ち上げたことです。胆振東部地震から9か月後のことでした。北海道で災害救助犬の団体ができたのは初めてのことでした。多くのハンドラーが集まることで、より認知度を高め、自治体などからの要請を受け付ける窓口にするのが狙いです。

訓練のために、自費で、北海道最大の訓練場も作りました。広さおよそ3000平方メートルの施設には、土砂やがれき、廃車などが置かれています。これらの資材のほとんどは小野寺さんが知り合いから譲り受けたものです。災害救助犬にも、それぞれに得意、不得意があります。土砂の上を歩くのは上手でも、がれきのを上を歩くのは苦手など、それぞれに特徴があり、最初から完全な災害救助犬はいません。訓練場では、小野寺さんみずからが重機を使って、資材の配置も変えながら、さまざまな状況に対応できるよう訓練を重ねています。

また、この訓練場を使って、小野寺さんが力を入れているのが、ハンドラーと災害救助犬の育成です。北海道全域をカバーするためにも、各地にハンドラーと災害救助犬がいる環境を整えることができれば、救助活動に参加するだけでなく、ハンドラー同士で必要な情報をやりとりすることにもつながると考えています。「大好きな犬と一緒に、人の役に立つことをしたい」、こうした共通の思いを持って、ハンドラーたちが力を合わせているのです。

小野寺さん
「仲間たちがいて、一緒に協力してもらえて、全然4年前とは違います。何か起きたときに、有事の時に人助けの役に立つというところが一番のみなさんのモチベーションじゃないかなと思います。私もそうです」

命を救う連携強化を

小野寺さんたちの地道な活動は少しずつ実を結びつつあります。
ことし7月下旬、小野寺さんたち「北海道災害救助犬」のメンバーは、登別市が主催した防災訓練に初めて招待され、自衛隊や消防などとともに捜索・救助の訓練に参加することになりました。この貴重な機会をいかそうと、小野寺さんは積極的に声を掛けていきます。

訓練は、自動車に乗った人が土砂崩れに巻き込まれたという情報があるという想定で行われました。はじめに自衛隊が倒木などを取り除き、安全を確保すると、災害救助犬の出番です。

2人のハンドラーと2頭の災害救助犬が1つのチームとして捜索活動に参加しました。人のにおいを頼りに行方不明者を捜します。両方の災害救助犬が吠えたところで、生存者がいると判断し、近くにいる消防や自衛隊に報告。救助活動が始まりました。迅速に作業を進めるために、お互いの動きを確認し、連携を深めました。

訓練が終わった後、小野寺さんと災害救助犬は多くの人たちに囲まれていました。自治体や消防、自衛隊の関係者などからかけられたのは、災害救助犬に対する期待の声でした。災害時の対応を事前に決めておこうと、今後、自治体との協定の締結も進めていく方針です。4年前、たった1人で無力感にうちひしがれていた小野寺さん。今は、多くの仲間と協力しながら、災害に向き合い、命を救うために準備を進めています。

小野寺さん
「どんなに優れた災害救助犬がいても、連携がないと、とっさの時にスムーズに活動できないです。行政と協定を結び、消防や自衛隊と一緒に練習する機会を多くして、連携を進めていきたいです。」

小野寺さんの仲間、災害救助犬たち

小野寺さんが立ち上げた団体「北海道救助犬」には、現在、12頭の犬が所属しています。最後にこのうちの3頭を紹介します。

ラブラドール 『ジーグ』

ラブラドールのオス3才、ジーグ。
今、小野寺さんが一番育成に力を入れている災害救助犬です。
人が大好き、捜索訓練も大好きだということです。

ブリタニースパニエル 『アクセル』

ブリタニースパニエルのオス10才、アクセル。
運動神経がとても良く、2メートルの柵を軽々と越え、捜索も得意です。
胆振東部地震の時に小野寺さんと被災地へ行きました。

ウェルシュコーギー 『こうちゃん』

ウェルシュコーギーのオス8才、こうちゃんです。
小型犬ながら、真面目で物怖じしない性格です。
体が小さく、登れない瓦礫があっても、自分が登れるルートを探し目的地に向かいます

このほか、8頭が災害救助犬を目指して、訓練に励んでいます。
小野寺さんは、犬の性格をよく見て、災害救助犬に向いているかどうか、判断しています。どんな現場でも物怖じしない犬や人懐っこい犬が災害救助犬に向いており、真面目で集中力が高い犬は訓練がしやすいそうです。

小野寺さんたちは、災害救助犬がどんな人にでも対応できるよう、できるだけ多くの人と接する機会を設けるようにしていて、訓練に協力してくれる人も募集しているということです。

2022年9月12日

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