NHK札幌放送局

過疎地で活躍? AI活用の交通サービス

道南web

2023年2月2日(木)午後4時35分 更新

AI=人工知能を活用した乗り合いの交通サービスは、全国各地の自治体などで活用が進んでいます。時刻表や路線図はなく、利用者の予約に応じて運行するサービスで、道南・江差町でも実証実験が行われました。その可能性とは?

デマンド型交通とは?

函館市にある「はこだて未来大学」で、去年12月、学生などを対象にAIを活用した新たな乗り合いの交通サービスの実証実験が行われました。

学生「アレクサ、デマンドバスを起動して」
AI「ドチラヘ行カレマスカ?」
学生「未来大学へ行きたい」

利用者が音声認識ソフトやタブレットなどで目的地や出発時間を入力すると、予約が完了します。すると、指定した時間に車が迎えに来ます。AIは、複数の利用者の予約状況に応じて最適なルートを判断し、乗り合いで利用者をそれぞれの目的地に送り届けます。「デマンド型交通」とも呼ばれ、時刻表や路線図がないのが特徴です。

利用した学生
「自分の行きたい時間や自分の都合に合わせて使えるというのが、1番のメリットだと思いました。いつも通学に使っているバスだと1時間に1本とかいうこともあるので、1本逃してしまうと、遅刻してしまうことがあるので便利です」

はこだて未来大学では、バスの減便などもあって学生や教職員の通勤・通学が不便になっているという声も寄せられる中で、2か月間の実証実験ではのべ1400人ほどが利用しました。

開発したのは大学発ベンチャー会社

活用されているAIの配車システムを開発したのは、はこだて未来大学発のベンチャー企業です。目指すのは、効率的な人の移動です。

未来シェア 松舘渉 代表取締役
「限られた交通資源と利用者のニーズをふまえて、利用者にとっても事業者にとっても、一番効率的な交通を構築するというところは、なかなか人間の直感でできるものではない。そこをすべてAIに託すというところにメリットがあります」

この会社のサービスは数年で、100を超える自治体などで導入されたり試験的に活用されたりしています。観光客向けにシーズン限定で運行したり、福祉施設の職員の負担軽減のためにデイサービスの送迎などにも活用されているということです。特に公共交通機関による移動手段の少ない過疎地からの引き合いが強いといいます。

未来シェア 松舘渉 代表取締役
「地方では少子高齢化がどんどん進んでいて、免許返納も進んでいる。公共交通で運ばなきゃいけない人が増える中で、使える車両でいかに効率よく動かして、物も人もたくさん運べるかという課題に対して、AIの配車によっていかに効率的にできるかが重要になってくると思います。そういった意味で、過疎地にはAIを活用したデマンド型交通が合ってくるんじゃないかと思います。イメージをするのであれば、『バスより便利で、タクシーより安い』というサービスです」

導入を検討する過疎地域では

道南の江差町では、実際に実用化の検討を進めています。人口7000人ほどで、高齢化率はおよそ4割。主な交通機関は、幹線道路で運行する路線バスで、免許返納者も多く、高齢者の交通手段の確保が課題となっています。

そこで、去年10月からことし1月にわたって町内でAI配車システムを活用して、乗り合いハイヤーの試験的な運行を行いました。利用者の自宅から金融機関やスーパーなど町内の42の場所を結びました。

江差町に住む西川咲美さんです。自動車の運転免許は持っていますが、ペーパードライバーでいつも徒歩かバスで移動しています。この日は、スマートフォンで乗り合いハイヤーを予約し、銀行やスーパーへの買い出しに出かけました。

事前に予約した時間に自宅まで迎えに来ると、さっそく乗車。いつもは数十分ほどかけて歩いているという金融機関などが集まる地区まで、数分で移動しました。さらに近くのスーパーでも買い物し、帰りも乗り合いハイヤーを予約し、重い荷物と一緒に自宅まで送り届けてもらいました。

利用した西川さん
「バスも本数があまりないので、今までは歩いていたんですけど、家から乗ることができて、帰りも家の前まで乗せてくれて助かります。料金にもよると思うんですけど、お手軽であれば今後も利用していきたいです」

江差町では、「自宅まで送迎してくれるのは便利」という声が寄せられている一方、「予約に使うスマートフォンを使い慣れていなく、利用しづらい」といった声も寄せられているということで、今後、住民のアンケートなども行い、実用化を検討していきたいとしています。

江差町まちづくり推進課 滝口朝主事
「町内の路線バスで言いますと、バス停が利用者の近くにないなど、そういった交通空白地が町内にも多く点在しております。特にそういった地域の方々にとっては、自宅近くまで来てくれる交通というのは、やはり必要であるというのは、町内でも一致しているところです。今回の実証実験を軸に住民のみなさんが利用しやすいようなサービスを展開していきたいと考えております」

公共交通に詳しい専門家は

こうしたデマンド型交通は札幌市手稲区や空知の南幌町でもすでに行われています。
北海道運輸局によりますと、バスやタクシーによる乗り合い交通サービスは、
来年度には国の補助を受けて道内の85の市町村で行われるということです。

地域の公共交通政策に詳しい名古屋大学の福本雅之 客員准教授は
デマンド型交通の可能性について、次にように話しています。

名古屋大学 福本雅之 客員准教授
「全国の地方では過疎化して高齢者が増えていて、少子化で子供が減ってる。そうすると広い地域に高齢者だったり、若い高校生だったりが住んでいて、そうした人たちをバスで拾うとあまりにも効率が悪くなります。それをオンデマンド交通というのは、ある程度の効果を発揮します。ただデマンド型交通だけでいいかというとそうではなく、既存の公共交通機関と組み合わせていく必要があります」
名古屋大学 福本雅之 客員准教授
「公共交通の目的は外出支援だということが多いと思います。それに対して、『どんなやり方が一番費用効率的にできるんですか』、あるいは利便性の面から見たときに『どのやり方が自分たちの地域で求められているものなんですか』、あるいは行政が見た時に『いくらぐらいまでの費用なら出せるんだ』というようなところを、議論していく必要があります。結局、交通をどのようにしていきたいかというのは、その地域をどうしたいかということになります。地域の中で合意を形成して選択肢の中からチョイスしていくことが必要じゃないかなと思います」

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