国産のナチュラルチーズの5割以上を占めているとも言われる「チーズ王国」十勝。世界的にも高い評価を受ける新得町の農場が今、新たなチーズ作りに挑んでいます。カギを握るのは地域独自の「乳酸菌」です。
(NHK帯広 小川祥)
世界に認められたチーズ
熟成されたうまみたっぷりの十勝産のチーズ。生産しているのは新得町の共働学舎新得農場です。
世界各国で高い評価を受け、数々の賞を受賞しているチーズは多くのファンをひきつけています。

チーズ作りへのこだわりは牛の搾乳から始まります。飼育する牛はスイス原産の「ブラウンスイス」。ミルクのタンパク質と脂肪分が、ほかの牛に比べて高くチーズに適しています。

ミルクのおいしさを最大限引き出すために、搾ってすぐに加工します。牛の飼育からチーズの熟成までを一貫して行うことで高い品質を維持しています。

新たなチーズ作りに挑戦
40年以上チーズを作り続けている農場の代表、宮嶋 望さんは今、新しいチーズづくりに挑戦しています。

それは、飼育している牛のミルクの中にいる乳酸菌を使ったチーズです。
共働学舎新得農場 宮嶋 望 代表
「ここの環境にあった微生物(乳酸菌)を生かすって考えたほうが 環境に合ったおいしさが作れるんじゃないかと」

チーズに必要な乳酸菌はほとんどが輸入品
チーズを作るにはまずスターターと呼ばれる乳酸菌を入れて発酵させる必要があります。実は国産のナチュラルチーズのほとんどは海外から輸入した乳酸菌を使って作っているのです。安全性や安定した風味が出しやすいことなどが理由です。この農場でもこれまでフランス産のものなど海外の乳酸菌に頼ってきました。それを今、変えようとしているのです。

農場由来の乳酸菌でチーズを
飼育している牛のミルクから乳酸菌を植え継いで培養し、スターターとして使い始めています。チーズの風味は乳酸菌が決めるとも言われています。1年前から試行錯誤を繰り返し、ここでしか作れない新しいチーズ作りに取り組んでいます。

チーズ商品開発担当者
「土地の個性だったり風土に一番適したチーズがあると思うので、それを形にして表現できればいいなと思いますね」

商品化への手応え
オリジナルの乳酸菌を使っても消費者がおいしいと思わなければ商品にはできません。この日、スタッフが集まり4か月熟成させた試作品を試食しました。

その結果、日本人の口に合う、深い味わいになっていることが確認できました。

新しいオリジナルチーズとして来年の春までに商品化し、販売を目指すことが決まりました。
宮嶋代表
「地域ごとに環境微生物は違うから味が違って当然、その違いを楽しみましょうという食文化に変わってきている。それをチーズで表現したいと思います」

地域の乳酸菌を使った、ここでしか作れないチーズ。新しい取り組みが始まっています。

【取材後記】
代表の宮嶋さんはゆくゆくは技術をオープンにして、ほかのチーズ工房とも連携しながら、乳製品の消費拡大につなげたいと話していました。
地域の乳酸菌を使ったチーズ作りは、国内ではまだ珍しく、今後こうした取り組みが広がれば日本酒やワインのように個性豊かなチーズがさまざまな場所で楽しめるようになり、地域の活性化にもなると感じました。
(取材担当 NHK帯広 小川祥)
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