道は先月、東日本大震災を踏まえて見直しを進めていたオホーツク海沿岸の新たな津波浸水想定を策定しました。想定した津波の高さは最大10メートルで、今後、具体的な被害想定を作成する方針です。これまで大きな地震や津波の被害を経験してこなかった沿岸地域では、新たな想定に基づいて対策の見直しを進めていくことになります。
(NHK北見放送局 大谷佳奈)
道が公表した津波浸水想定は北海道の沿岸各地で発生するおそれがある最大クラスの地震をモデルに策定しました。前回は東日本大震災が起きる前の2010年度に公表していて、より大規模な地震や津波に備えるために見直されました。
今回の想定ではオホーツク海沿岸の市町村ごとに津波の高さや到達時間、浸水面積を示しています。沿岸で最も高い津波が想定されたのは雄武町の最大10メートルで、次いで興部町の9.3メートル、紋別市の7.9メートルと、オホーツク地方の西側の地域で高くなっています。
一方、最大津波が到達する時間は東側の地域の方が短く、網走市と斜里町で13分、北見市で14分とごくわずかしかありません。

最大津波10mの雄武町は
津波の高さが最大10メートルと想定された雄武町は、2010年度の想定では津波がはい上がる高さを表す遡上(そじょう)高で最大9.2メートルとされていました。雄武町はサケや毛ガニ、ホタテなどの漁業が盛んで、海岸沿いに市街地や集落が広がり、町民からは今回の想定を受けて驚きや不安の声が聞かれました。
「まさかそんなに来るとは思わなかった。逃げる所もどこに行くかも分からない」
「心配になってきた。海沿いに工場があり、まず来たら逃げることしか考えてない」

災害時に地域住民の力で助け合おうと、海岸沿いにある沢木地区では去年、自主防災組織が発足しました。大津波の時にはこの組織を中心に自力避難が難しい約20人のお年寄りを車などで避難させることを計画しています。
ただ、これまでに津波を想定した避難訓練を行ったことがなく、沢木地区の自治会長は今後の課題をこう話しています。
雄武町沢木地区 加賀雅司自治会長
「これまで10メートルの津波を経験したことがないので、地域の人たちも想像できるのか心配なところがあります。役場職員が来る前にどうやって人を集めて避難させるのかが一番先に考えなければならない課題です。できれば年内にも訓練を行いたいと思っています」

今回の想定を受けて、雄武町は住民にいち早く注意を促そうと、浸水範囲などを示したハザードマップを新年度中に修正することにしました。町全体で避難訓練も行って、実際に避難ルートを確かめてもらう方針です。町の防災担当の大水寛仁住民生活課長は「いま一度、津波のリスクがある海岸沿いに住んでいることを再認識してもらうために訓練を実施したい」と話しています。

“避難しやすく”進める地域も
大津波に備えて具体的な対策を進めている地域もあります。網走市は最大津波高が5.4メートル、到達時間が13分と想定されています。市内の海岸沿いにある海岸町にはおよそ200世帯が暮らしていて、津波の時にはいち早く避難する必要があります。

海岸町の近くには東日本大震災の後、50メートル余り上の高台に逃れる避難階段が設置されています。住民の多くはこの階段を使って避難することになるため、去年8月には住民が参加した訓練が行われました。

町内会長によると、この訓練の参加者からは「階段が急だ」「夜間でも避難できるように電灯をつけてほしい」といった意見や要望が出されたと言います。この声を受けて、網走市はことし3月に残りの段数が分かる看板を設けたほか、新年度には太陽光発電の蓄電池を備えた照明を設置する方針を決めました。

海岸町では今後も町内会の青年部と協力して訓練などを行い、津波への備えを進めていくことにしています。町内会長はより実践的な対策を進める思いを次のように話しています。
網走市海岸町 菊地正彦町内会長
「東日本大震災の後、私たちは津波にどう対処したらいいのかと考え、避難所や避難階段などに対してものすごく気を配るようになりました。犠牲者を1人でも少なくするためにという気持ちで対策を進めています」

今回想定された大津波では、市内の中心部を流れる網走川を遡って周辺の市街地にも被害が広がるおそれがあると懸念されています。被害を最小限にとどめるには、これから幅広い対策が求められることになります。

網走市の防災担当者は今後の対策のポイントとして、“避難環境の整備”を挙げています。
網走市総務防災課 八百坂則勝参事
「やはり避難しやすい環境づくりが大事だと思っています。今後、津波避難ビルやハザードマップの更新などの整備に努めたいと思います。その上で地域住民にはどのように避難するかや日頃の備えなど、改めて防災意識の向上につなげてほしいと思います」

オホーツク海の津波では巨大な流氷が津波と共に押し寄せて被害を広げる「流氷津波」など、地域特有の災害も懸念されています。今回の想定を基に道は今後、各地の被害想定や減災計画をまとめることにしています。東日本大震災で目の当たりにした津波の脅威に備えて、改めて自分の地域の状況を知り、被害を減らすために何ができるのかを考えていくことが大切になっています。

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