「北海道の翼」を掲げる「エア・ドゥ」。ことし5月、突如、九州の航空会社「ソラシドエア」と経営統合することで合意した。「北海道の翼」としての存在価値にこだわってきたエア・ドゥが九州の会社と統合するというのは、新型コロナウイルスの影響に直面する中、急場を乗り切るための苦肉の策にも見える。道民第一のサービスは維持されるのか。利用者にはどんなメリットを示せるのか。疑問をトップにぶつけた。
まずはコスト削減で実績を
エア・ドゥ 草野晋社長
「現在、グループ協業プロジェクトとして14の分科会を立ち上げて、ソラシドエアとの具体的な協議を開始した」

エア・ドゥ 草野晋 社長
7月13日に行った、NHKのインタビュー。その開口一番、草野はプロジェクトチームを立ち上げ、14の分野でソラシドエアと共同で取り組む具体策の協議に入ったと説明した。
その目的は、まず、コストの削減だ。
14の分野ごとに設けられた分科会には、両社の社員、およそ100人が参加して、財務、人事、総務から、運航など本業に関係する分野まで網羅。共通化や連携で、コストを削ることができないか、検討している。
エア・ドゥが、来年10月をメドに宮崎市に本社を置くソラシドエアと共同持ち株会社を設立し、経営統合することで基本合意したと発表したのは、ことし5月。新型コロナウイルスの影響による利用客の激減で、昨年度の赤字は121億円に上った。その際の記者会見で、草野は統合の理由について「自助努力では限界」と強調した。
エア・ドゥ 草野晋社長(5月31日の記者会見で)
「コロナ禍の影響の強さやその後の事業環境の変化などを踏まえると、個社の自助努力では限界があると判断し、組織の共通化によるコスト削減、あるいは協業による増収効果を得られる体制として、共同持ち株会社化が最適だという結論になった」
北海道の利用客のメリットはどこに
エア・ドゥは「北海道の翼」を自認し、道民に愛される航空会社を目指してきた。
そこに降って湧いた、九州の航空会社との統合。コストの削減だけで北海道の利用客のメリットがなければ、「生き残りありきの統合」だという批判も起こりうる。この点について改めて聞いた。
エア・ドゥ 草野晋社長
「両社のポイントプログラムやビジネス顧客向けのシステムを共通化すれば、旅行あるいはビジネスの両方の客にとって魅力が高まる。さらに我々にはなかった、九州・沖縄地域に根ざしたソラシドエアが発信する観光情報やイベント情報などを共有することで北海道のみなさんにも魅力的なものになると考えている」

こう述べて、それぞれの航空券を購入した際に得られるマイルの共通化を目指す考えを明らかにした。北海道から東京、それに九州を移動する利用者にとって、利便性向上につなげるという。
コロナ収束後の戦略は
それに加えて気になるのは、コロナが収束したあとの戦略をどう描いているのか、という点だ。
草野は「たまっていた旅行ニーズの存在などを考えれば、来年度には国内需要は感染拡大前の水準に戻る」という見通しを示した。
そして、その際の戦略の方向性として、次の3つを挙げた。
①地域に根ざした航空会社連合の強みを生かす
②首都圏での知名度向上
③海外旅行先に代わる国内旅行先としての魅力の発信
両社は、今年度中に持ち株会社の名前や体制などを決め、来年6月の株主総会での承認を経て、来年10月に新会社を発足させ、3つの戦略に基づいて、来る需要回復に臨む考えだ。
「地域に根ざす航空グループ、ほかにはない」

とはいえ当面は、感染拡大の懸念は消えず、需要の落ち込みが続くと見込まれる。さらにコロナが収束して需要が回復したとしても、日本航空、全日空という大手だけでなく、LCC=格安航空会社の攻勢も予想される。
「前門の虎、後門の狼」とも言える状況の中で、生き残りに向けて、今回の決断が「吉」となるのか。草野は、統合によって、より独自性を発揮できると自信をにじませた。
エア・ドゥ 草野晋社長
「北海道、あるいは、九州・沖縄は域外からの移動における航空の利用割合が非常に高い地域で、そこに両社で路線を持っていて、それぞれが地域に根ざしているという航空グループはほかにはない。大手はもちろん、LCCも地域色はない。路線への思い入れは我々の方が強く、それはこれからも変わらないと思っている。それぞれが切磋琢磨しながら各地域の魅力を発信して、各地域にあった機内サービスなどを磨いていけば、存在感を出すことができる」
(千歳支局・岡﨑琢真)※敬称略
2021年7月15日

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