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絵を描いたガザの子どもたちに思い寄せ

  • 2023年12月27日

「天井のない監獄」と呼ばれる場所があります。パレスチナのガザ地区です。壁やフェンスで囲われ、移動の自由も制限されてきましたが、そこで暮らしているのは受刑者ではありません。ただ穏やかに暮らしたいと願う人々です。ガザ地区を繰り返し訪ねて絵画教室を開いてきた室蘭市の大学教員は、激しい攻撃にさらされる現状に心を痛めながらも「絶対に見捨てない」と日本で活動を続けています。 (室蘭放送局  篁慶一) 

23年前に初めて訪れたガザ地区

ガザ地区は面積が鹿児島県の種子島ほどで、約220万人が暮らしています。憲法学者で、室蘭工業大学大学院の清末愛砂教授は、23年前の2000年に初めてガザ地区を訪れました。当時はイギリスの大学院に留学中で、「イスラエルの占領下に置かれたパレスチナで何が起きているのか自分の目で確かめたい」というのが訪問の理由でした。ガザ地区では、抗議のためにイスラエル軍に石を投げようとして銃撃されて亡くなった15歳の少年の家族との出会いなどを通じ、パレスチナの人々の苦しみを知ることになったと言います。

清末教授はパレスチナの人々の力になろうと何度も現地を訪れ、平和を訴えるデモ行進に参加したり、破壊された住宅の修繕などの生活支援を行ったりしてきました。教員として室蘭に赴任した後、2013年には札幌市に拠点を置くNGO「北海道パレスチナ医療奉仕団」に参加しました。この団体の中心は医療関係者で、毎年ガザ地区を訪れて医療や子どもの支援を続けていました。清末教授は、2018年から趣味を生かして現地で出張アトリエ(絵画教室)を開くようになりました。

ガザ地区での出張アトリエ  2022年

出張アトリエは、病院や学校で開いてきました。清末教授によると、ガザ地区の学校では「美術」の科目の時間が少ないため、子どもたちは毎回喜んで参加し、病院では子どもを連れてきた母親たちも夢中になる姿が見られたということです。ガザ地区を訪問する際には、毎回、画用紙や絵の具をたくさん用意していきますが、足りなくなって現地で買い足すことも多かったそうです。参加者にとっては好きなことをしてリラックスできる時間になる一方で、絵からはガザ地区の現状も見えてくると言います。

「自由になりたい」と訴えている女性の絵

イスラエル軍の攻撃で父親を失った子どもと母親を描いた絵

清末愛砂教授
「自分たちがどれだけ抑圧的で自由のない生活を強いられているかを子どもたちはリアルに描きます。絵に『自由がほしい』という思いを込めることが多いです。『自分たちが欲しているのは封鎖ではなく、何よりも自由なんだ』ということを絵で表現するんです。何かしようと思っても、自由が制限されて自己実現の場が狭められているのがパレスチナの現実だからです」

続く攻撃  募る不安

2022年8月にガザ地区を訪れた清末教授は、翌2023年11月に再び訪問し、出張アトリエを開く予定でした。航空券を購入し、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関を通じてガザ地区に入域するための申請も出していましたが、その計画は実現しませんでした。10月7日にガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの戦闘員がイスラエル側に越境して奇襲攻撃を行い、これに報復する形でイスラエル軍が空爆や地上侵攻を始めたからです。パレスチナとイスラエルの双方で多数の民間人の犠牲が出ています。ガザ地区の保健当局は、死者数が2万人を超えたとしています。

ガザ地区の知人から届いたメッセージ

清末教授は、現地の知人に連絡を取って状況を尋ねていますが、伝えられるのは「近くで空爆があった」、「イスラエル軍の戦車が近づいてきたので家から避難した」といった緊迫した状況です。一緒に絵を描いた子どもたちは今、どこで何をしているのか、不安は高まり続けています。

清末愛砂教授
「私が触れ合ってきた子どもたちにミサイルが降り注いでいると想像すると、いても立ってもいられない気分になります。これだけ死者が多いので、亡くなった子どももいるのではないかとやはり考えてしまいます。爆撃だけでなく、飢えや感染症で苦しんでいるかもしれません。非常に悲しく、心が痛いんです。今は住民たちの無事を祈ることしかできません」

「10月7日が起点ではない」

清末教授は、パレスチナに関心を持ってもらおうと以前から講演を行い、現地の状況や自身の経験を語ってきました。今回の軍事衝突が始まってからは、その講演の依頼が一気に増え、全国各地に招かれています。11月には、所属する北海道パレスチナ医療奉仕団の代表を務める医師、猫塚義夫さんとともに本も出版しています。

札幌  2023年12月19日

清末教授はハマスの奇襲攻撃についても「正当化できない」と非難しています。ただ、講演や本の中で強く訴えているのは、「今回の問題を考える際は、ハマスの攻撃が行われた10月7日を起点にしてはいけない」ということです。長年封鎖されてきたガザ地区の過酷な状況が背景にあることを理解しなければならないと言います。

清末愛砂教授
「イスラエルによる封鎖によって、物流や人の移動が抑えられているために、住民の非常に多くの部分が貧困ライン以下の生活を強いられています。つまり、国連機関や大きな国際NGOの援助に頼ることなくして生活が成り立たない家族がたくさんいます。失業率も非常に高く、多くの住民が屈辱的な思いをしてきたのです。まずは停戦が必要ですが、そこから封鎖の解除につなげなければなりません」

現地で出張アトリエを開くことができない今、清末教授はパレスチナの現状についてより多くの人に知ってもらうことがみずからの役割だと感じています。問題の背景に何があるのかを地道に伝え続けることで、人々の関心をつなぎ止め、状況が少しでも良い方向に向かってほしいと願っています。

清末愛砂教授
「爆撃が続いている間は、露骨で生々しい暴力なので注目を集めますが、それが収まると関心がぐっと下がってしまいます。ガザの人たちは長い封鎖の中で本当に孤立しているという感覚を抱いてきました。ここで関心が下がると、ガザの人たちは封鎖から結局逃れられないという絶望的な気分になってしまいます。ですから、私は可能な限りガザに入って活動を続けたいですし、できなかったとしてもさまざまな形で関わりを持ちたいと思っています。絶対にガザを見捨てません」

ガザ地区  2019年

2023年12月27日

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