NHK札幌放送局

狂言の魅力を伝えたい 北海道から狂言を発信

道北チャンネル

2022年12月26日(月)午後4時26分 更新

室町時代から演じられてきた古典芸能、狂言。北海道唯一の狂言師が上富良野町にいます。芸能文化に触れる機会の少ない地方で、狂言という芸能の存在を少しでも知って欲しいと取り組む男性の思いに迫りました。
(旭川放送局  伊勢谷剛史)

北海道ただ1人の狂言師

狂言の2大流派のうちの1つ、大藏流に属する狂言師、榎本元さん(50)です。
上富良野町在住で、北海道唯一の狂言師です。
芸歴31年、全国で1000回以上の舞台に立った経験があります。

狂言は能とともに室町時代から演じ続けられてきた古典芸能です。中世の人間模様を対話中心で演じる喜劇で、時代を超えた普遍的な人間のこっけいな姿を描いています。

榎本元さん
「700年近く続いている芸能、700年続いてきた意味を考えると、すべてが決まっていることを忠実にやることが、狂言が続いていくことにつながる奥深さはすごく魅力に感じます」

千葉県出身の榎本さんは東京の大学に入学後、サークルで狂言を始めました。700年続いてきた伝統の芸を繰り返し演じることで、自分の中にしみこませていく。その感覚が魅力に感じた榎本さんは、大学卒業後に現在の師匠である2世大藏吉次郎に弟子入りしてプロの道へ入りました。


東京から上富良野へ

平成18年、榎本さんたちは上富良野町で地方公演を行いました。初めて本物の狂言に触れて感銘を受けた町の人たちは、自分たちも狂言を習ってみたいと感じるようになりました。そこで榎本さんは2~3か月に1度、東京から上富良野を訪れて狂言教室を開くことになりました。

その中で榎本さんは上富良野出身の妻・佳香さんと出会い結婚。一度は東京で生活を始めましたが、長男の誕生がきっかけで子育てのため上富良野へ10年前に移住しました。
公演のたびに東京と北海道を行き来する生活を送っています。

榎本元さん
「やっぱり子育てをするなら東京よりも北海道の広いところがいいよねっていうので、こちらに住むことに対しては全く違和感なくすんなり移住は決まりました」

榎本さんは自然豊かな上富良野町で生活することが、狂言の芸にもよい影響を与えていると言います。

榎本さん「北海道に住むようになってちょっと狂言変わったよねっていうふうに言ってくださる方もいた。今まで何か窮屈そうに見えていた芸がちょっと穏やかになったとか伸び伸びしてるように見えると」。

現在、佳香さんと息子2人の4人暮らしの榎本さん。
長男の朔太郎くん(10)はお父さんから狂言の稽古を受けています。
先月(11月)には東京で初舞台を踏みました。
息子の目から見ても、狂言を演じる父親の姿は大きな存在です。

朔太郎くん
「(お父さんの舞台はどう?)いつもよりも何かピシッとしてる感じ」

このことばには榎本さんも照れ笑い。

榎本元さん
「普段の父親の姿と舞台の上の姿は、やっぱり違って見えた方がいいかなと思います」


上富良野に狂言の文化を広めたい

榎本さんが始めた狂言教室は今でも続いています。これまでは公民館や神社を借りて稽古を行っていましたが、榎本さんは先月(11月)引っ越しを行い、自宅の1階部分を稽古場として使い始めました。

地元の女性3人が小舞と呼ばれる踊りの練習をしに来ました。
3人とも上富良野町で行われた舞台を見て狂言に興味を持ち、自分でも演じてみようと教室に通い始めたといいます。

狂言を習っている女性
「狂言とか能っていうのは高尚なものだっていうイメージがずっとあって、まさか自分が始めるなんて思わなかったんですけど、やってるうちに自然とそういうものは払拭されたような感じがします」

700年続いた伝統芸能を次世代に伝えるため、榎本さんは若い世代への普及活動にも力を入れています。この日は富良野市の中学校で、狂言のワークショップを行いました。

狂言が代々受け継いできた喜怒哀楽の型を、子どもたちに披露します。
榎本さんが芯の通った大きな声で笑ってみると、子どもたちはその迫力に少し驚いた様子を見せました。

狂言の演目に出てくるキノコの役を体験してもらうなど、ユニークな方法で子どもたちの興味を引いていきます。

中学生
「初めて狂言というものに触れてみて、やっぱり生で見るのは迫力があって何か心にぐっとくるのが伝わってきました」
榎本元さん
「狂言やらない?って押しつけると、逃げちゃうっていうのは自分の子どもでわかっているので。日常の中に狂言があるのが一番理想かなと思う」


狂言に興味がない人にも

狂言に興味がない人にも日常の中でさりげなくアピールする方法。榎本さんは夫婦で新たな試みに取り組んでいます。
稽古場として使っているスペースでカフェをオープンすることです。

カフェではあえて狂言を強くアピールせずたくさんの人に来てもらい、お客さんの中の一部でも狂言に興味を持ってもらえる人が現れるのを待つ作戦です。

榎本佳香さん
「これまでは、北海道で唯一の狂言師です。ぜひ皆さんに狂言を!狂言を!ってなってたんですけど、そうなると敷居が高くなってしまっていたので」

町内には小さな子どもと一緒に利用できる飲食店が少ないと感じた榎本さん夫妻。板張りの稽古場にちゃぶ台や座布団を敷いて、赤ちゃん連れの若い人からお年寄りまで、誰でものんびり集えるスペースにしたいと考えています。
カフェではお菓子作りが得意な佳香さんが、手作りクッキーやハーブティーなどを提供することを想定しています。

調理機器などをこれから搬入して、カフェとしてのオープンは来年春の予定です。

榎本元さん
「お客さんで来た人の1%でも狂言ちょっとやってみたいって言ってくれれば、それはそれで成功だと思います。新しい伝統芸能の残し方の形にもなるかなと思います」

多くの人にとって狂言や能というのは教科書で習ったことのある程度の知識しかなく、なじみのない古典芸能というイメージが強いかもしれません。
しかし、榎本さんが上富良野に移住して10年、これまで行ってきた取り組みは徐々に活動の幅を広げています。いつか「上富良野に行けば狂言が見られる」と言われるように、狂言が文化として地域に根づくことに期待したいと感じました。

伊勢谷カメラマンの取材です👇
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