NHK札幌放送局

邪神ちゃんと自治体コラボの"謎” web

ほっとニュース北海道

2020年11月5日(木)午後5時05分 更新

2019年度、北海道全体のふるさと納税の受け入れ額は660億円あまりと、全国最高となりました。その返礼品をみると、かにやイクラ、ホタテなど北海道が誇る特産品が人気を集めています。 しかし、いま道内ではふるさと納税を活用して「ある映像作品」とのコラボを売りにする自治体が増え始めているんです。 (札幌局 臼杵良)

ふるさと納税でアニメを

ことし、全国で深夜放送されたアニメ、『邪神ちゃんドロップキック』は、去年、千歳市が全国で初めてふるさと納税を使い、特別編が作られました。アニメでは主人公たちが支笏湖などの千歳市内の観光名所を訪れます。

中には主人公の邪神ちゃんが支笏湖に生息するチップ(ヒメマス)の姿に変身するシーンも。千歳市の山口幸太郎市長も出演して一役買いました。

その反響は大きく、作品に登場した「道の駅サーモンパーク千歳」のスイーツ店では期間限定のキャンペーンが行われ、コラボ商品を求めて、休日だけでなく平日も大勢のファンが訪れました。

アニメとのコラボキャンペーンを展開した店の店員は、

「コラボ商品全種類買ってくれたりだとか、 すごく邪神ちゃんへの愛が感じられる方が多いですね」

ファンの反応は、

「最終話がちょうど千歳に関連してた放送だったので、ちょっと行ってみたいなと思って来ました」
「市長さんのシールもきょうで13枚目になります。市長さんを一番推しています」
「邪神ちゃんのおかげで千歳自体を楽しもうという気分にもなりました」

自治体とコラボなぜ受け入れ?

今回の仕組みです。千歳市は、「地元を舞台にしたアニメの製作費」として、ふるさと納税による支援を募りました。これにより、続編を待ち望むファンは千歳市に納税するようになったのです。

また、市はファンを引きつけるさまざまな工夫をしました。

たとえば、

1、返礼品には地域の特産品ではなく、千歳編を収録したブルーレイディスクを用意。

2、5万円以上の納税者はエンドロールに名前を掲載。

その結果、最終的な納税額は製作費の2000万円を超え、1億8000万円にのぼりました。製作資金を超えた資金はいわば「臨時収入」として、市の観光事業費に使われることになりました。

WinWinの関係

この仕組みのメリットについてアニメの宣伝プロデューサーは、

柳瀬一樹さん
「アニメをつくっている側からすると次の作品をつくりたいっていう気持ちでいっぱいなんですが、製作費は明らかに高騰していっています。しかも昔はブルーレイやDVDの売り上げを製作資金に回していましたが、いままで1万枚売れていた物がいまや何百枚しか売れない時代になってしまいました。そうした中で、自治体からお金をもらって自治体が自分でやるよりも、アニメを通じて多くの方に自治体の魅力を伝えることが出来たら、我々としては新しいアニメが作れますし、自治体さんとしては『いい宣伝役が来てくれた』というような形でWinWinの関係になるんじゃないかと思いました」

柳瀬さんは年間200本以上のアニメが放送され、消費されていく時代だからこそ自治体と協力することには、資金調達以上の魅力があると話しています。

柳瀬一樹さん
「自治体と取り組みをしていくということは、1年間を通して、ポスターになったり映像をつくったりイベントをやったりという形でこの作品を長く使っていただける。そうすると作品が、より長い時間をかけていろいろな人に届いていくというところがあります。そのあたりが、単にお金をいただくということよりもずっとメリットと感じています」


道内から新たな参入も

さらにことし10月、北海道から新たに帯広市、釧路市、富良野市の3つの自治体がコラボに加わり、東京で記者発表が行われました。

帯広市・米沢則寿市長
「アニメを通じて世界中に発信することで帯広のファンになっていただきたい」
釧路市・蝦名大也市長
「邪神ちゃんに来て頂いて、そこで遊んで頂いて、 もしくは色んなことをしていただいて、これがまたPRになる」

「観光の町」富良野は

参加した自治体のうちの一つ、富良野市。「ふらのワイン」に国際的なスキー場と観光資源に恵まれた富良野市がなぜアニメ製作に踏み切ったのか。

実は、北海道ではふるさと納税で70億円以上も稼ぐ自治体がある一方で、富良野市は平均額の3分の1以下、およそ6000万円だったのです。

市が狙うのは、ふるさと納税の増額だけではありません。アニメは、動画配信サイトを通じて、中国で再生数がおよそ6000万回にのぼるなど海外でも高い人気を誇ります。こうした魅力を活用して、放送予定の2022年を見据え、世界に向けた観光PRの効果を期待しているといいます。

北猛俊市長
「市の事業を進めるときには、自治体にとっても財源というのが大事になってきま。今回『邪神ちゃんドロップキック』の取り組みの話を聞いた際に、市にとって課題のふるさと納税も組み込まれているということだったので、検討するというよりは、すぐにやってみようと思いました」
北猛俊市長
「新型コロナウイルスの流行が収束した後の観光に向けての取り組みは、いまさまざまな手を打って行くということが大切だと思っています。放送予定の2022年は富良野市でのワインの醸造開始から50周年です。近年、中国のお客さんが増えてきている中では、2022年の北京での冬季オリンピックに向けて、中国の方々の関心もスキー場やスキーに向いているということがあげられるので、2022年の『ワインの50周年』、『北京冬季オリンピック』という2つのテーマを生かして富良野の情報発信に弾みをつけたいと思います」

専門家は?

今回の取り組みについて専門家は、ふるさと納税の可能性を広げるものだとして評価しています。

北海学園大学 西村宣彦教授
「今回のケースは、地元の産品ではないものを返礼品にすることで、縁の薄い都市部の若年層を地域につなげられるようになったのが大きな特徴です。新たな方法で都市部の方を地方につなぐ開拓ができたという点を評価できると思います」
北海学園大学 西村宣彦教授
「ふるさと納税はアイデア勝負ですので、特産品や今回のアニメへの投資に限らず、『新しいふるさと納税の形』を模索していくことで地方への興味を持ってもらう余地はあると思います」

取材を終えて

地方自治体の財政状況が悪化の一途をたどる中で、期待が高まるアニメ作品の強いPR力。取材を通して、自治体にもこうした柔軟な発想と理解が求められているということと同時に、各自治体の財政状況や自治体としてのあり方。その危機感も取り組みに表れていると感じました。だからこそこうした「投資」が一過性の「納税」だけでなく、新たな人の流れにつなげることを期待したいと思います。

(札幌局 記者 臼杵良)

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