脱炭素社会の実現に向け、国は再生可能エネルギーの普及に力を入れています。
中でも海の上の風力発電、洋上風力発電の建設計画が道南で相次いでいます。
実は道南は、せたな町で全国でも初めて洋上風力発電が稼働した地域でもあり、いわば「先進地域」でもあります。
導入がすすめば私たちの電気代も安くなるとされる洋上風力発電。
道南での状況について取材しました。
国内初の洋上風力
年間平均で風速7メートル以上の風が吹くせたな町。
港の湾内には高さ約65メートルの洋上風力発電が2基設置されています。
実はこれ、18年前に「国内で初めて」稼働した洋上風力なんです。
風の強い地域特性を生かそうと町が国の補助を受けて約7億円をかけて建設しました。

発電量は最大1200キロワットと、現在各地で建設が検討されている洋上風力に比べると小規模ですが、発電した電気は北海道電力に売電していて町の収入となっています。
建設費用を差し引いても黒字だということです。
「全国初」ということもあり、町には自治体からの視察も増えたほか、全国各地から講演の申し込みが合いつぎ、町の認知度があがったということです。
せたな町 神田昌 まちづくり推進課長
「年間で約3700万円の収入があります。発電した電気は町の人が使っていて、この規模でおよそ1000世帯分の電気をまかなえるぐらいの発電量があります。日本で初ということで、「せたな」という名前を日本全国に知ってもらえたというのが一番のメリットかなと思っています。町では洋上風力発電による騒音、震動、魚類への影響を調査していますが、これまで特に問題は発生していません」

道南でも建設計画相次ぐ
せたな町では町が洋上風力発電を建設しましたが、今各地で計画されているのは大手電力会社など民間企業によるものです。
道南では▼桧山沖▼松前沖▼奥尻沖の3か所で洋上風力発電を建設しようという動きが出ています。

このうち桧山沖で具体的な計画が明らかになっている「電源開発」の建設計画は、せたな町から上ノ国町の沖合およそ120キロにわたって、75基前後の風車を建設するもので、泊原発の1号機の出力を上回る最大72万キロワット規模の発電を見込んでいます。
沿岸の町や漁協などは協議会を組織して、国が洋上風力発電を優先的に整備する「促進区域」への指定を目指しています。
しかし去年、協議会のメンバーだった乙部町が環境への影響を懸念して離脱するなど足並みは揃っていません。

このほか道南では松前沖でも松前町などが洋上風力の導入を検討していて、桧山沖と同じく国から「一定の準備段階に進んでいる区域」に指定されていますが、「促進区域」に選ばれるのは早くても2年かかります。
「促進区域」になると民間の公募者が決まり、最大で30年間海域の利用が認められ、建設に向けて大きく前進することになります。
このほか奥尻町は商工会や漁協などと協議会を設立して沖合での洋上風力の導入を検討しています。
私たちの暮らしへの影響は
大規模な洋上風力の導入が進むと私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのか。
専門家は次のように指摘します。

「長期的に見ると電気代が安くなるなどのメリットがあります。電気料金が5年以内に安くなるというのは微妙なんですけども10年経過すれば間違いなく安くなると思います。洋上風力を先進的に行っているヨーロッパはすでに安くなっています。また、洋上風力発電所の維持管理などで新たな雇用が生まれるなど地元にとってメリットがあります」。
(東京大学 石原孟教授)

国は洋上風力発電の導入量を「2030年までに北海道で少なくとも124万キロワット」を目標に掲げています。しかし、北海道では発電した電力を札幌や東京に送るための送電線の容量が不足しているので解決する必要があります。また、事業を進めるためには地元の理解も欠かせません。道南各地で検討が進む洋上風力発電ですが、実現にはまだしばらく時間がかかりそうです。
取材:奈須由樹(NHK函館)
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