道内では住宅地などに出没するクマの情報が相次ぎ、人が襲われる事故も起きています。
昨年度の道内の死傷者の数は14人にのぼり「過去最悪」となりました。
被害を減らすためにはどうしたらいいのか?
夏のこの時期に私たちが特に注意すべきことは?
専門家にポイントを教えてもらいました。(三藤紫乃)
相次ぐクマ出没 住宅地を歩く親子グマも
札幌市には、住宅地などに出没するクマの情報が相次いで寄せられています。
ことし7月6日には、札幌市南区豊滝の住宅地で、クマの親子が歩く様子が撮影されました。

去年6月には、札幌市東区の住宅地にクマが出没し、4人が重軽傷を負う事故も起きています。
道内の死傷者の数は昨年度14人にのぼり(4人死亡 10人けが)、統計が残っている1962年度以降で最も多くなりました。
●なぜクマが住宅地に出没するのか?
ヒグマの生態に詳しい専門家は、緑が豊かな札幌のまちのつくりに要因があると指摘しています。

酪農学園大学 佐藤喜和教授
「クマが住宅地に出没する要因としては川沿いの緑地や水路など、“緑の連続性”が、クマの住む森とまちの中心部までつながっているという景観的な構造が関係しているとみている。
ここ10年以内の間に札幌市の近郊の森には、いつでもクマがいるような状況ができている」
●夏場ならではの要因は?
酪農学園大学 佐藤喜和教授
「ちょうどこの時期は春から夏にかけて食べている草が固くなり、秋に熟す木の実はまだ早いということで、非常にエサが少ない時期だ」
この季節はクマにとってエサが少ない時期ゆえに、エサを求めるクマが人里におりてくる可能性があるということだそうです。
酪農学園大学 佐藤喜和教授
「クマが街なかに入ってしまうと駆除以外の対策が、なかなかできないため、クマが身を隠しながら移動するルートになるような草や木を刈り払っておく対策は効果が期待できる。
場合によっては電気柵を設置するなど、地域の特徴に応じてクマが侵入しにくい対策をしていくことが重要だ」
●被害を防ぐために、わたしたちができる対策は?
酪農学園大学 佐藤喜和教授
「家庭菜園では、例えば、そろそろとうもころしが熟したり、スイカやメロンもおいしくなったりするほか、木の実が熟してくるという時期にこれから入っていくので、そういったものがクマを誘引してしまう可能性があることを理解してほしい。
それぞれのご家庭で、注意していただけることをきちんとやっていただくことが大事ではないか」
クマ対策 動き出した地域も
住宅地へのクマの侵入を防ぐため、住民みずから取り組みを進めている地域があります。
札幌市南区の石山地区では、8月4日、この地区を流れる豊平川の河川敷に地域の住民や大学生などおよそ50人が集まり草刈りを行いました。

9年前、この地域を流れる豊平川の川沿いの雑木林を歩いていたヒグマがそのまま住宅地に入り込んだことがありました。
この出来事を教訓に、この地域では豊平川の河川敷の草木を刈り取って見通しをよくすることで、クマの侵入を防ごうという取り組みが毎年行われています。
酪農学園大学の佐藤教授によりますと、草刈りをすることで2つの効果が期待できるということです。
(1)クマは姿を見られるのを嫌がるため、草刈りを行った場所を避けるようになる
(2)見晴らしを良くすることでクマが出没したとしても遠くからでもすぐに気づくことができる

この日の活動に参加した人たちは、グループに分かれて、人の背丈ほどに生い茂った草木を電動草刈機や専用のはさみなどを使って刈り取っていました。
市によりますと、草木を刈り取った場所では、この9年間クマの目撃情報は無いということです。
毎年参加しているという男性
「草刈りをすることで石山地区にはクマが出てこないと思っている。
毎年やることで地域の皆さんも『やらなきゃ』という気持ちがわく。
これからも続けていきたい」

9年間欠かすこと無く続いてきたこの取り組み。
回を重ねるごとに、参加した高校生や大学生など若い世代と地元住民との交流が生まれるといった波及効果もあるといいます。
住民と一緒に活動を続けてきた佐藤教授は、参加者たちが「あまり頑張りすぎないこと」「参加して楽しかったと思えること」が活動を長続きさせるコツだと話していました。
市民の意識も高まる
札幌市は、公式ホームページやLINEを通じて、ヒグマの出没情報を発信しているほか、家庭菜園へのクマの侵入を防ぐための電気柵の購入の補助や、無償貸し出しを行うなど、対策を進めています。
市によりますと、今年度、46台用意した電気柵の貸し出しは、昨年度と比べておよそ3週間早く受け付けを終えたということで、クマに対する市民の意識が高まっているのではないかとみています。
札幌市は、住宅地にヒグマを寄せ付けないよう、ふだんの生活でも、ごみを家の外に放置せず、ごみを出す時間を守るよう呼びかけています。
(札幌放送局記者 三藤紫乃)
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