福島第一原発にたまる処理水の海洋放出を受け、8月24日、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表しました。こうした中、道南の漁業関係者からも懸念の声が上がっています。特に打撃を受けているのは、中国への輸出が多いホタテ漁業者です。「ホタテの養殖をしないからといって、魚をとるというわけにもいかない」。聞こえてきたのは、道南のホタテ養殖を営む漁業者の切実な声です。

6割から7割を中国輸出
ホタテの養殖がさかんな噴火湾沿いに位置する、森町の砂原漁港。噴火湾沿いのホタテの水揚げの最盛期は3月から4月。ことしの漁に直接的な影響があったわけではないとしていますが、漁業者からは強い懸念の声が上がっています。その理由が、近年、この港で水揚げされるホタテの6割から7割が中国に輸出されているからです。

ホタテの養殖は、大きさ1センチにも満たない小さな貝から育て始め、出荷できる大きさのホタテが育つには、2年の時間がかかるといいます。このため、中国の輸入停止が続けば、来年出荷できる大きさに育ったホタテの出荷先が見つからず、水揚げしたホタテが余ってしまう可能性があるというのです。この港で、40年近くにわたって、ホタテの養殖を営んでいる小川政浩さんは、今回の中国の輸入停止に、これまでにない強い懸念を持っています。

ホタテ漁業者 小川政浩さん
「ホタテは、2年かけて育ててから出荷をする訳であって、それが一気に需要が落ち、次の年も、その次の年も同じ状況が続けば、本当に商売が立ちゆかなくなるのでは無いかと思っている。さらに、この先、ずっと中国が輸入をしないとなったら余ってしまうのです。私たちは、ホタテ漁師ですから、『ホタテを養殖しないから魚を取ろうか』と言う訳にはいかないんです」。
ホタテ加工業者にはすでに影響が
中国の輸出停止の措置による影響は、ホタテ養殖に携わる漁業者だけのものではありません。

函館市内のこちらの水産加工会社では、東南アジアなどに向けてイナダやブリの加工・輸出を手がけてきました。一方で、近年、輸出が好調だったことから、中国向けのホタテの加工なども手がけてきました。

しかし、中国による日本産の水産物の輸入停止を前に、ことし7月に中国が発表した輸入規制の強化によって出荷が滞り、本来、中国向けに出荷するはずの数十トンの冷凍ホタテが、いまも出荷できない状態になっていると言うのです。このため、現在はホタテを加工する生産ラインも稼働させるメドが立っていません。

会社では、対応策として、9月4日に独自にインターネット販売用のサイトを立ち上げ、日本の消費者に向けて販売を行ないながら、状況が変わるのを待つとしています。

水産加工会社「きゅういち」餌取達彦 取締役
「中国の措置はすごく厳しい対応だと思いますし、足元、影響が出ているというのは、認めざるを得ないと思っている。改めて国内市場に目を向けて、販売に力を入れていこうと考えているが、早く元の形に戻ってほしいとも思っている」。
影響は水産業以外にも
水産業はすそ野が広い産業だと言われています。今回取材を進めると、ホタテの漁業者や水産加工会社のみならず、出荷の際に使う、段ボールなどの包装資材を扱う業者からも、すでに少なくない影響が出ているという声や、輸送業者などからも不安の声も聞かれました。さらに、ホタテ漁業者以外にも、道南で生産されているナマコの漁業者からも、中国向けの輸出が減っていて、先行きを不安視する声が聞かれました。
政府や道は、対応や支援を行うとしています。さらにホタテを基幹産業と位置づける道南の自治体の中には、聞き取り調査を始めたところもあります。今回取材した人の1人は、「いま、この瞬間も影響は出ている。国など行政機関がいち早く支援をすることは必要だが、私たちは、ピンチはチャンスだと思ってやるしかない。」という声も聞かれました。
道南でも大きな影響が出ている中国による輸入停止措置というピンチ。これをチャンスに変えられるのか。今後の行政の支援のあり方、そして、みずからの力で逆境をはねのけようとする漁業関係者たちの努力。引き続き取材を続けていきたいと思います。
