NHK札幌放送局

ローカル情報充実で未来をチェンジ

ほっとニュース北海道

2021年5月12日(水)午後3時54分 更新

地域情報の充実を掲げてことし1月に開局した「くしログ」。動画投稿サイトユーチューブで番組を生配信しています。プロデューサーは大野良太(43)さん。釧路市で飲食店を経営しています。飲食業界の人がなぜ地域情報発信を始めたのか。その原点を探ると、この1年あまりのローカルでの新型コロナウイルスとの闘いが見えてきました。

「くしログ」とは

写真は5月11日(火)の正午から生配信された番組の様子です。ローカルインターネット放送局を掲げる「くしログ」は、こうした昼の生配信(隔週火曜日)を主軸に、夜にはトーク番組を配信。さらにバラエティー番組やドキュメンタリー番組などのコンテンツも制作し、動画投稿サイトYouTubeの「くしログ」のページに掲載しています。ことし1月から配信を始めました。

地域の「知っている」と「知りたい」がつながり、地域にイノベーションをおこすことを目指した取り組み。番組の配信のほか「くしろCOTO」という地域の総合情報サイトも開設しました。こうした事業の費用には、国の商店街活性化を目的とした補助金を活用しました。

現在、こうした情報発信事業の収益はありません。偏りなく地域の実情を伝えるために特定の企業をスポンサーとしない考えで、今後、クラウドファンディングの活用も検討しているということです。

仕掛け人は飲食事業者

WEBサイトの事務局長で、「くしログ」プロデューサーの大野良太さん(43)。釧路市で飲食店を経営する飲食事業者です。新型コロナウイルス感染拡大前は8つの店を経営していましたが、この一年余りで5つを閉店。残る3つの飲食店も予約がなかなか入らず、厳しい経営が続いています。

配信で力を入れているのは繁華街末広をはじめ、和商市場やホテル、福祉窓口などコロナ禍の釧路の様子を記録したドキュメンタリーシリーズです。大野さんが伝えたいのは「店主がどのような対策をとって営業を続けているのか」「状況を打開しようとどのような取り組みを行っているのか」などです。

私たち飲食事業者は感染対策を行いながら営業を続けています。検温、座席配置、アクリル板、消毒、換気などできる限りのことを行っていますが、そうした対策状況も店舗に足を運んでもらわないと知っていただくことすらできません。しかし、全国各地に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出されたり、感染拡大の情報が伝えられる毎日のなか、店に足を運ぼうという気持ちを持ってくれる人は限られています。そうした社会状況や心理はよく理解しています。だからこそ「来てください」や「割引します」ではなく、「私たちはこのような準備をして、みなさんのお帰りを待っています」ということを伝えていかなければと思ったんです。既存のメディアの情報発信では、そういう思いや取り組みよりも感染状況に多くの時間が割かれています。それがいい、悪いではなく、私たちの目線から見て足りないと思うローカルの情報をみずから発信しようと考えて、このシリーズを始めました。情報量の格差を埋められるのは、そこで生きる自分たちしかいないと思って取り組んでいます。

地域の助けになりたい

このコロナ禍、大野さんは数々の経営判断を迫られました。過去にない困難に向き合いながら、創業した当時の原点に立ち返ったという大野さん。それは「人に必要とされる仕事をしたい」「助けになる仕事をしたい」というものでした。

そこでまず取り組んだのが、地域の飲食店を支援するためのクラウドファンディングでした。去年3月から4月にかけて「店には行けないが、何かできることをしたい」という人たちの思いを表す場所になりました。

次に取り組んだのはタクシー事業者の支援でした。

ある時、繁華街を歩いているとタクシーの運転手さんが集まって、「暇だね」と話しているのを見かけたんです。その時に大変なのは飲食店だけではなく、繁華街のインフラともいえるタクシー事業者も同じなんだということに気がつきました。その結果、飲食店のデリバリーをタクシー事業者に担ってもらう「ごちそうタクシー便」の発想が生まれました。少しでも助けになればという思いからでした。

飲食店を中心に「自分にできる支援の輪」を広げてきた大野さん。取り組みながら、だんだんとコロナ後の釧路の姿をイメージするようになったといいます。そこで新たに意識するようになったのが、地域の商店と、イベント事業者の存在でした。「終息後に釧路に人を集めるうえで欠かせない商店やイベント事業者のみなさんがいない未来を想像した時に、まずいと思ったんですよね。人を呼ぶためには絶対に必要なので。一方、いまは開催中止で仕事が減っていると。何か手を打たなければと思ったんです」。その危機感の結果、大野さんが始めたのが補助金を活用した情報発信「くしろCOTO」と「くしログ」でした。

情報発信を始めるにあたり、大野さんはこのようなメッセージをホームページに掲載しています。

生活者目線のローカルメディアとして努力を重ねながら「つながり」を大切にした情報をお届けしていければと考えています。身近な人に聞いた商店で買い物をし、家族や友人と行きつけのお店で団欒を過ごし地元の事業者が希望を持って商売に励み、手と手を取り合い営みを続けていく。そんな少し昔の「あたり前だった日常」を、前向きな「あたらしい日常」にできるよう今の時代に合わせた方法で、わたし達は歩みを進めています。情報に触れ、そして新たな情報を、地域の皆さんで共に発信していけるメディアとして皆様のご協力をいただければ幸いです。(ホームページより一部抜粋)

意識の変化をおこしたい

こうしたローカル情報の発信を通じて何を変えたいと思っているのか。大野さんに尋ねると、「ローカルの人の意識」という答えが返ってきました。

続けていくこと自体に意義があるわけではありませんが、続けることで少しずつ変化は出てくると思っているんです。仕掛ける側の私たち、取材を受けてくれた事業者の人たち、そして情報を受け取った地域の人たち。それぞれが今よりもつながることで、一歩踏み出すと何かが動くんだ、変わるんだと実感できると思うんです。思いが重なりさえすれば新しい挑戦や取り組みも生まれ、地域の未来が変わると考えています。地域のことを思っている人はたくさんいます。少しのきっかけがあれば、そうした人たちが何かしらの行動を起こしはじめると信じているんです。釧路で暮らす人たちの思いを刺激して、意識の変化を促していきたい。それがこの取り組みで変えたいことですね。

釧路で生きる若者を増やしたい

大野さんは、配信事業の他にも、先月から新たな情報発信も始めています。それは釧路地方の就職情報です。「くしろしごと」という冊子を製作した他、同じ内容をWEBでも展開。WEBではテキストだけではなく動画で企業の魅力や職場の雰囲気を伝えています。コロナ禍にあって、対面での企業訪問や就職活動が難しくなっていることが背景にあります。この就職情報サイトへのリンクは「くしろCOTO」のホームページにも掲載されています。

大野さんが就職情報の充実に力を入れているのは、ここにも埋めたいギャップがあるからです。それは「20代をの若者に来てほしい地域の企業」と、「地域には魅力的な仕事がないと思い込んでいる学生」の間にある溝です。

釧路で働く喜びや楽しみを知るひとりとして、「判断するための情報」を学生に届けたいという思いと、企業には判断に必要な情報をもっと積極的に、魅力的に発信してほしいという思いを持っています。それを形にしました。必要な場所に必要な情報を届けることで変えられる未来がある。いま、大野さんは一貫してこの思いを表現しています。

取材を終えて

新型コロナウイルスの感染拡大でローカルへの関心の高まりが急激に加速している一方で、地域で暮らす、働く、豊かに生きるための情報は大きくは増えていません。情報を求める人がいるいま、地域の情報を魅力的にまとめ、欲している人に届けきることができるかどうかは、地域の未来を占ううえでも重要なポイントだと感じています。大野さんのような地域に根差した人が熱量をもって発信する情報と、ローカル情報を求める人たちとがしっかりとかみ合った時にどのようなイノベーションが起きるのか。挑戦は始まったばかりですが期待を持てる取り組みだと感じました。ローカルの未来のために、まずはこうした取り組みが行われていることが広く知られ、支援者、理解者が増えていくことが次への一歩につながります。超ローカル宣言を掲げる私たちの放送やWEB発信が、その一翼を担うことができれば幸いです。

取材担当 札幌拠点放送局 
ほっとニュース北海道キャスター 瀬田宙大

2021年5月12日

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