NHK札幌放送局

冬眠しないヒグマを警戒 北海道東部の冬の工事現場から

ヒグマ情報

2022年2月10日(木)午後3時43分 更新

冬の間、「ヒグマは冬眠していて雪の森の中では活動していない」はずなのでは? しかし、この冬、北海道東部の厚岸町の山中の工事現場を訪ねると、ヒグマの出没に備えながら作業をする人たちと、変わるヒグマの生態が見えてきました。(川畑直也 釧路放送局)

冬眠しないヒグマに戸惑う現場の人たち

冬眠しないヒグマに戸惑う工事現場があるという情報を聞き、2022年1月、厚岸町の工事現場を訪ねました。

現場は、2021年夏までに放牧中の牛50頭以上が、ヒグマ “OSO18”に襲われた場所からおよそ15キロの山の中です。国道の津波対策のために真冬も地下調査を行っています。

あさの気温はマイナス15度。息でまつげも凍る寒さの中、作業前のミーティングが始まりました。

工事の打ち合わせに加えて、欠かせないのがヒグマ対策の確認です。
鈴や大きな音が鳴るクマよけのホーンは、近くにいるヒグマに人間の存在を気づかせるために必ず持ちます。

クマスプレーは、万が一、ヒグマに遭遇したときに身を守るため、唐辛子の成分が入った液体を噴射して、撃退するためのものです。

現場付近では、トドマツの幹にヒグマの爪あとが見つかっていました。

現場の安全対策の責任者 舘山誠さんに、ヒグマについて聞きました。

太平洋総合コンサルタント 舘山誠 さん
「見通しの悪い現場でうなり声が聞こえてきて、作業を中止したことがあります。 ヒグマがいる、危険性の高い場所では基本的な安全対策をしていますが、 やはり恐怖はあります」

冬でも起きているヒグマによる人身事故

北海道庁によると1962年以降、12月から3月の間のヒグマによる人身事故はあわせて9件発生しています。
北海道東部の厚岸町と標茶町では、2015年の1月と2月に、山の中で作業をしていた林業関係者がヒグマに襲われ、2人が死傷しました。


専門家「冬眠は必ずしなければならないものではない」

そう話すのは、知床で15年以上にわたってヒグマを研究してきた石名坂豪さんです。 石名坂さんは、真冬の1月2月は、ほとんどのヒグマは冬眠するとした上で、ヒグマにとって冬眠とはどういう行為なのか、説明してくれました。

知床財団保護管理部長 石名坂 豪さん
「冬眠は必ずしなければいけないものではなくて、あくまでエネルギーを節約して、ヒグマが生き残るための戦略なんだと思います」

ではなぜ、ヒグマは冬に活動するようになったのでしょうか。考えられるのはエサが確保できることです。 

北海道東部ではエゾシカの数が20年前に比べて約5万頭増えています。 シカが狩猟で傷ついたり、自然に死んだりすることで、 ヒグマのエサになると考えられています。

知床財団保護管理部長 石名坂 豪さん
「エサが豊富にあれば冬眠入りが遅れるということは普通に起こります。 シカのざんしなどが豊富に手に入るのであれば1月などに活動するヒグマが割合的に増えるということは十分起こりえます」

石名坂さんが研究している知床では、秋にエサとなるドングリが豊作で、雪の少なかった2014年と2019年に、冬眠入りが遅れるヒグマが確認されています。

冬の現場にもハンター同行

厚岸町の山の中で続く、津波対策のための地下調査の現場。2年前から、冬もハンターに同行してもらうようになりました。
取材で訪ねたこの日、現場では2人のハンターが対応していました。

現場作業にあたる人たちは、黄色やオレンジ色の、ヘルメット・ベストを身につけて仕事をします。雪の森で目立つ服装をすることで、ヒグマが出没した際、銃での誤射を防ぐためです。
一方、同行するハンターには高度な経験と技術が求められています。

ハンター 根布谷 昌男さん
「厚岸町のハンターのうち、ヒグマに対応できるのは1割いない。今まで何十頭とヒグマをとってきた自分でも、毎回怖い」

根布谷さんによると、現在、厚岸町でヒグマに対応できるハンターは3人。そのため、隣町に応援を求めざるをえない状況だということです。

必須になってきた冬のヒグマ対策

こうした冬のヒグマ対策について、作業をする現場の責任者は、考え方が変わってきたと言います。

太平洋総合コンサルタント 舘山 誠さん
「以前は冬であればヒグマは冬眠しているという意識がわりと強かったですが、いまは季節にかかわらず安全対策が必要だという意識に変わってきています」

さらに、ヒグマ研究者の石名坂さんは、冬眠中のヒグマに対しても注意が必要だと指摘しています。

知床財団 保護管理部長 石名坂 豪さん
「冬眠しているヒグマも、刺激をすると、起きてしまうことがあります。真冬であっても場合によっては山の中ではヒグマと出会って攻撃されるという意識を持ってほしい」

変わってきた冬のヒグマの生態。私たちは今までの常識を見直して、変化する現実に対応することが必要になっています。

文・映像  川畑 直也 カメラマン(NHK釧路放送局)


道東地方の酪農家の飼料作物と乳牛のヒグマ被害についての記事はこちらです。

牛を襲うヒグマ「OSO18」と酪農地帯の環境変化

北海道のヒグマに関する記事のまとめページはこちらです

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