NHK札幌放送局

五輪マラソン、その日 (2)札幌・北区

番組スタッフ

2021年8月26日(木)午後5時59分 更新

8月8日(日)、札幌でおこなわれた五輪マラソンを、人々はどんな思いで見つめていたのか? 2回目は、コース沿いにある老舗ビアホールから見たマラソンです。

■コロナ禍の五輪

8月8日、午前6時30分。男子マラソンスタートの30分前。
今回のコースで、三たび、選手が走ることになる「宮の森・北24条通」沿いで、ある男性と待ち合わせをしていました。北24条で老舗ビアホール「MASUYA」を経営する吉野正人さん(64)。この日、店内から、家族でマラソンを観戦すると、お聞きしていました。

この店を開いて33年になる吉野正人さん

現在、店は休業中。8月2日、札幌市に「まん延防止等重点措置」が適用され、時短営業と酒類の提供を控える要請が出たことがきっかけでした。

「コロナ以降、テイクアウトをメインにして、ランチも始めてみたりしました。ただ、中心部だと、お客さんも多いのでいいんですが、このあたりだと、メニューを変えないと飽きられてしまうんです。そのために、新たな調達をすると、結局利益が出ない。なので、もう今回はやめようと。やっぱり、アルコールがあるとないとでは、うちのような店は全然違うんです」
「銀行から、全部で3000万円の追加融資をもらって、やってきました。とりあえず、借りられてはいるので、続けられるのかなとは思っています。ただ、アルバイトは、春先で、全員やめてもらいました。本当は、この8月から、新しいアルバイトを募集して、実際に採用もしたんですけど、それも、今回の「まん延防止」で、いったんストップしています」

かつて「北のすすきの」とも呼ばれた、札幌有数の繁華街・北24条。吉野さんの店は、「宮の森・北24条通」に面した2階にあり、斜めにとられた大きな窓からは、東側から走ってくる選手たち、各国の国旗が記された給水ポイントがよく見渡せます。コロナ以前には、嵐が出演するNHKの五輪関連番組で、「マラソン観戦の特等席」として、取材を受けるほどでした。

「「まん延防止」が出て、アルコールの提供が禁止されるまでは、お客さんをいれて、特別に早朝営業しようとしていたんですよ。立食にして、間をとって。でも、全部ダメになりました」

選手を待つ沿道を眺める吉野さん

■家族で見るマラソン

店に、吉野さんの息子・太基さん、太基さんの妻・明穂さん、二人の長女で3歳の由愛ちゃんたちがやってきました。東京で料理の修業をして、札幌に帰ってきたという太基さんは、いま、吉野さんとともに一緒に店に立ち、徐々にその跡を継ごうとしています。

7時、いよいよマラソンがスタート。店内のテレビは、吉野さん家族がよく知る札幌の街並みを次々と映し出します。大通公園、すすきの、中島公園、豊平川…。北24条へやってくるのは、8時少し前の予想です。

「北24条は、小さい、個人経営の店が多いんですよ。うちは、元々、この店の1階にある市場で、親父が肉屋をやっていたんです。そのお肉を使った料理を出す店が出来ないかと思って、自分がここを開いたのが、31歳のときでした。いま、そっちの肉屋は兄が継いでいます」
「これだけやっていると、もちろん、店はいいときも悪いときもありました。今は、バブルが崩壊して、拓銀がつぶれた90年代以来の、ひどい状況です」

選手たちがテレビ塔のそばを北上する頃になると、店の窓から見える沿道の両脇にも、人があふれはじめました。

Q「すすきのには、時短営業や酒類提供禁止が要請されていても、それをきかずに、自由に営業している店もあります。吉野さんが、店を開かないのは、なぜなのでしょうか?」
「すすきのだけじゃなくて、この近くにもありますよ。開けている店はすごいです。中に入れないくらい、人がいっぱいで。他の店が開いていないものだから、すごく賑わっています。うちも開ければ、人は来てくれると思います。でも、もし何かあれば、自分だけじゃなくて、息子にバトンタッチしたあとになっても、何か言われ続けるかもしれない。それがいやなので、できないんですよ」


Q「店を開けたくなる気持ちもわかりますか?」
「そうですね。補償が少なくて苦しい、だけど銀行からも借り入れができないっていうところは、開けちゃいますよね。要請に従わないことに対する過料が20万円だったら、みんなやりますよ」


Q「そういう中で、オリンピックが開かれることは、どう思いますか?」
「選手の人は、まったく悪いわけじゃないですから。応援したい気持ちはありますし、だから今日はここに来ました。ただ、国として、やったほうがいいのか、やめたほうがいいのかは、難しいところです。やってもいいけど、徹底してほしい。今、結構新規感染者が増えてきているじゃないですか。人の行き来が増えていることと、無関係だとは言えないですよね」

選手たちが近づくにつれて、沿道には人だかりが出来た

確かに、沿道で声援を送る人たちに話しかけてみると、東京や大阪など、札幌以外からやって来たと、教えてくれる人も多くいました。コース沿いでは、黄色い服を着た2000人の「自粛ボランティア」が「観戦自粛」のカードを掲げていましたが、効果は薄そうで、その「自粛ボランティア」のひとりに声をかけてみると、実のところ、ボランティアではなく、時給制のアルバイトだとのこと。これだけの人混みに立つことになりましたが、ワクチンは接種できていないと話してくれました。

7時50分。北24条に、次々と選手たちがやってきます。YouTubeに夢中だった由愛ちゃんも、目の前を駆け抜ける選手たちに、手をたたいて、「がんばれ」と声をあげはじめました。

それからは、あっという間。吉野さんたちは、信じられないスピードで周回する選手たち、とくに最後の3周目、前を追いかける大迫傑選手に、ひときわ大きな声援を送っていました。

「パパのお店から、オリンピックを見たこと、覚えていてね」(母・明穂さん)

ガラス窓越しのオリンピック

■再びコロナの日常へ

マラソンは、ケニアのキプチョゲ選手が優勝。その後、大通公園のゴールに、続々と選手が駆け込んでいく頃、吉野さんたちは、はるかに後方を走る選手たちにも、応援を続けていました。最後に通ったのは、リタイアした選手たちを乗せた大型バス。沿道に設けられた柵や幕が片付けられ、交通規制が解かれはじめるのを見て、吉野さんたちも、帰り支度をはじめました。

Q「この夏、どう過ごされるご予定ですか?」
「出かけるとしたら、お墓参りくらいです。人混みを避けるようにしているので、もうずっと、どこにも行ってないんですよ。空港はもちろん、札駅(札幌駅)にも、1年くらい、近寄っていないです。何かあれば、お店も休まなきゃいけないですから」

吉野さん親子が閉めたシャッターには、8月いっぱい休業の貼り紙があった

取材の最後、吉野さんに、「営業を再開されたら、ビールを飲みに来ます」と約束をしました。しかし、この記事を書いている途中で、北海道に対して3度目となる「緊急事態宣言」の発令を政府が決定。その約束を果たせるのが、いつのことになるのかは、わかっていません。

2021年8月26日

五輪マラソン、その日(1)札幌・厚別区

ほっかいどうが #1 きょうは、マラソンの日。トップへ

関連情報

安倍昌彦さんマル秘取材ノート

番組スタッフ

2021年10月4日(月)午後0時21分 更新

第6回 ホタテ貝の温製サラダ ウニとトマトのドレッシング …

番組スタッフ

2020年8月3日(月)午前10時00分 更新

ドグーが行く!縄文体験編

番組スタッフ

2021年5月14日(金)午後6時24分 更新

上に戻る