夏休み、家にいると宿題のやる気が起きない…。いつもと違うことをしてみたいけど、なかなか機会もない…。そんな子どもたちが普段出会わない“ちょっと年上のセンパイたち”と過ごせる居場所が、期間限定で開かれました。
(帯広局 キャスター 江連すみれ/ディレクター 川畑真帆)
※放送:8月11日(水)「ほっとニュース北海道」JIMOTO情報
地元の中高生×町外の若者
やってきたのは、畑作や酪農が盛んな十勝の上士幌町。
生涯学習センターを訪ねると、地元の中学生や高校生が集まっていました。
町の教育委員会が夏休み中の10日間を利用して開催している「上士幌町まなびの広場」です。

中高生と一緒に勉強したり話したりしているのは、学校の先生や地域の大人たち…ではありません。町の外からやってきた、大学生や20代、30代の社会人です。
シェアハウスを運営する学生、フィリピンとインドでスラムの子どもたちにサッカーを教えていた社会人、東京のコンサルティング会社を経て札幌に移住した社会人など、経歴もさまざまです。

※大学生・社会人は多くが札幌から、一部は関東から訪れています。全員が2週間前から検温し体調管理を行い、PCR検査を受けて陰性を確認した上で訪問。
会場では、ソーシャルディスタンス確保・マスク着用・検温・消毒・換気など感染対策が行われています。
活動の中心を担っているのが、札幌で教育関連の会社を立ち上げた嶋本勇介さん(28)です。

あしたの寺子屋 社長 嶋本勇介さん
「学校と家庭以外の様々な大人や大学生に出会えるような場所にしたいと考えました。そこで一緒に勉強したり、いろんな大学の話を聞いたり、こんな生き方があるんだっていうのを一緒に考えたり、体験してみたりという時間を作っています」
活動には、上士幌町が人口の少ない町だからこその“ねらい”があるといいます。
嶋本さん
「人口5000くらいの町ということもあって、いろんな大人や大学生に町で出会うことがあまりない環境だと聞いた時に、子どもたちの世界を広げていくような場所が作れるといいなと思って。札幌や道外も含めたいろんな大学生に来てもらって、子どもたちと接点を持ってもらうという場づくりをするようになりました」
それぞれの過ごし方ができる場所
会場では、勉強でわからないところを聞いている子、おしゃべりしている子、中には学生に教わりながらプログラミングをしている子もいたりと、子どもたちが思い思いに過ごしています。

実は、それも工夫しているポイントだといいます。
嶋本さん
「ひとつの場所の中でいろんなことが行われていて、それぞれの居心地の良い過ごし方ができるような空間作りを特に意識しています。
勉強している子もいれば、大学生とお話ししている子もいれば、ワークショップに参加している子もいる、それでいいという形で。それぞれが居心地の良い過ごし方を決めてできるようにしていく、そういう環境を作ることを心がけていますね」
そんな中で、子どもたちにちょっとした変化も出てきているようです。
嶋本さん
「単純に話を聞いてもらえて嬉しかったとか、褒めてもらえて嬉しかったという子ももちろんいます。大学生と一緒にプログラミングでゲームを作るっていう体験を初めてして、すごく好きになったから毎日それがやりたくて来るというような、ここでの出会いによって新しい可能性が芽生えた子もいれば、自分は自分でいていいんだと気づいて毎日安心して通ってくれてる子もいて。
ほんとにひとつだけじゃない、いろんな子どもたちの気づきや学びを作れているんじゃないかなと感じていますね」
“センパイ”と一緒に将来を考える
さらに、「まなびの広場」では毎日、学生や社会人の“特別授業”が開かれます。

多様な経験談を聞いたり、ワークショップを受けたりしながら、これからの学びや仕事など“将来”について中高生に考えてもらおうというのです。
この日は、ドローンのユーザー向けサービスを提供する会社を立ち上げた大学4年生の辰巳怜さんが講師。起業した経緯やアイデアの考え方などの話に、子どもたちは興味津々です。

北海道大学工学部4年 辰巳怜さん
「進路も仕事も、何かを考えるためには、ステップを踏むのが大事だと思います。
まずはステップ1、テーマに関する情報を集める。それからステップ2、集めた情報を整理する。そしてステップ3、整理したそれぞれの情報をしっかりと深堀っていく。自分はそういうふうに考えるときの道筋をたてるようにしています。
ドローンの会社っていうとドローンを飛ばしてるんじゃないかと言われるんですけど、自分たちはちょっと違うフィールドでドローンに関わっています。ドローンに対してしっかりと向き合って考えたから、ウェブサービスっていう形でドローンに関わるようになりました」
そして、中高生たちみずから、ドローンをどう活用できるか考えて発表しました。

高校生
「世界のアートやカルチャーにふれたいけど機会がないという課題の解決策を出しました。1つは美術館とか博物館にドローンを飛ばして、館内を撮影したものを飛ばしてもらう。2つ目は、見たいものがある国の人に人脈を作って、その国の人にドローンを飛ばしてもらって映像をもらう」
辰巳さん
「いいですね。ドローンって空を飛んでるから地上の状態がどうであれ飛べるわけですよね。これをロボットでやろうとすると難しい、でもドローンだとできる。ドローンのいいところを使った解決策かなと思います」
子どもたちにとって、特別な経験になったようです。

中学生
「普段学校では習わないことも少し深く習うことができて面白いです。起業って大人になってからするものだと思っていたけど、学生のうちから起業することもできるんだと思いました」
高校生
「身近にいる社会人って学校の先生とか自分の親とかなので、こうやって普段は周りにいない人たちとしゃべれたので、すごく新鮮な気持ちでした」
高校生
「自分が知らなかった世界も知ることができるし、人としての勉強にもなると思いました」
“居場所”を日常にも
嶋本さんは、大学生や社会人にとっても気づくことが多いといいます。
嶋本さん
「学生や社会人どうしでも毎晩いろいろ話し合って、ここはもうちょっとこうできたよねとか、学生によってこのテーマは話せるけどこれは苦手だとか、こういうコミニケーションは得意だけどここは苦手だというところもお互い共有しあって、どうすればもっといい場になるのか考えています。
大学生にとってもなかなかコロナでオフラインの交流がない中で、かけがえのない時間になっているんじゃないかなと、僕ら社会人側も含めて感じているところです」

今後は、冬休みにも「まなびの広場」を開くほか、より日常に近いところでも同じような機会を作りたいと嶋本さんたちは考えています。
嶋本さん
「私たちはいま非日常空間を作っているんですけど、それをどう子どもたちの日常につなげていくか。学校の先生や保護者の方々、地域の大人の方々とも連携しながら、より良いものにしていきたいなと思っています」
2021年8月11日
札幌の大学生がつくる居場所についてはこちらの記事も↓
幼い頃の私へ―居場所づくりを始めた大学生
