高齢者や体の不自由な人が災害時にどのように避難するかを決める「個別避難計画」の策定が、全国の自治体で努力義務になっています。函館市でも計画策定の動きが進む中、思うように制度が広まらない課題も見えてきました。

道の想定によりますと、日本海溝・千島海溝沖の巨大地震による津波によって、最悪の場合、函館市では、8メートル以上の津波が押し寄せ、2万9千人の死者が出ると予想されています。東日本大震災で犠牲者の6割が60歳以上だったことなどから、おととし災害対策基本法が改正され、「個別避難計画」の策定が全国の自治体の努力義務になりました。個別避難計画とは、体の不自由な高齢者など自力での避難が困難な人、一人ひとりの避難計画をあらかじめ決めて自治体で把握するものです。

函館市では個別避難計画を策定する際に、避難の支援が必要な人に対して申請書類を送ります。そして、支援をしてくれる人の同意を得た上で、名前や連絡先などを記入し、市に送り返すことになっています。
函館市はことし6月、津波の浸水域など被災のリスクが高い地域に暮らす、およそ3500人に申請書類を発送しました。しかし、書類の返送は、8月末までに、1470人分と、半分にも達していません。
なぜ計画策定が進まない

函館市北浜町に住む泉谷和子(83)さんは一人暮らしで、近くに親族が暮らしておらず、ふだんは杖などを使って生活しています。また海に近い北浜町では、津波による浸水が最大で5メートル以上と予想されていて、泉谷さんは一番近くの避難所まで歩いて10分ほどかかることから、災害時の避難に不安を抱えています。
「足腰悪いし荷物持って、避難する場所まで歩いて行って間に合うものなのかどうか」

防災活動に取り組む北浜町会の酒井道子さんは、定期的に泉谷さんの元を訪れ、健康状態や不安なことがないかなどを聞いています。
酒井さんは、泉谷さんのように支援が必要な独り暮らしの高齢者、6人を定期的に訪問していますが、酒井さん1人で災害時の避難を支援するのは限界があると言います。

「支援する人は本当に見つかってないです。なるべく町内会でも頑張って助けるような感じで協力しようと思ってはいますけれども、災害の時に逃げる人たちを助けるっていうのは、すごく非常に難しくて、人を集めるっていうのはすごく難しい段階ではあります」
市は町会に協力を求める
個別避難計画の策定を進める函館市の災害対策課です。

計画策定を急ぐために、市は町会に協力を求め、いざというとき避難を支援する人を町会が探すよう求めています。
また函館市は避難の際に支援してくれる人が見つからない場合でも、現状を把握するために記入できるところだけ記入し、送り返してほしいとしています。

「優先度の高い方なので、できる限り全員にご返答いただきたいです。場合によってはもう一回お声掛けをするとかいう形で、返答を向上させていきたいと思っています」
専門家「地域のつながりを活発に」
高齢者の避難を円滑に実行するために、今後何が必要なのか。専門家は地域のつながりを活発にすることが重要だと話しています。

「災害・減災の大切なのは、やっぱり『共助』なんですよね。全国的に地域コミュニティが弱体化しているのは確かです。そこをどうこう活性化させて、地域で防災ができる体制、共助ができる体制を作り上げていくかが、今後の課題になると考えます」
2023年9月26日

<吉本記者が書いた過去記事>
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