NHK札幌放送局

「もう一度、緑豊かな町に」

いぶりDAYひだか

2020年8月21日(金)午前11時10分 更新

夫が林業をしているという女性にむかわ町の仮設住宅で出会った。2年前の地震で家族の生活は一変してしまったという。自宅は全壊し、慣れない仮設住宅での暮らしが続いていた。「本当にギリギリの生活で、いまも毎日食べていくのに必死です」。誰かに話したところで生活が変わるわけではない。彼女はそう言いながらも、ぽつり、ぽつりと心の内を打ち明けてくれた。

妻の願い、辞められない仕事

夫は山の手入れや伐採を“一人親方”として請け負っている。2年前の9月6日、現場があった厚真町が地震に見舞われ、土砂崩れで仕事には欠かせない重機を失った。1台1000万円以上、それが4台すべて土砂に埋まってしまった。掘り起こしたが原形はとどめていなかった。
リース契約をしていた重機のローンが今も重くのしかかっている。補償のすべがないのだそうだ。林業を続けることは厳しい状況だったが、多額のローンを支払うため、新しい重機を購入し、仕事を再開した。
夫はすでに70代。彼女は夫の体を案じて、できることなら今すぐにでも仕事を辞めてほしいと願っていた。だが、年金生活では毎月20万円以上の重機のローンが支払えない。仕事は、やはり辞められない。

「うちの夫は高齢で足も悪いの。でも働き続けるしか食べていく方法がないんです」

厳しい生活に追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスの影響が重くのしかかる。伐採した木材を運び入れる工場がストップしてしまったり、値段が安くなったり林業への影響も大きいという。

「毎月の返済だけでも苦しいのに、コロナウイルスも重なってしまい生きた心地がしないです。せめて地震の被害のローンの返済など、仕事への復興支援があったらよかったですが・・・とにかくやっていくしかありません」

困難を極める森林復興

胆振東部には広大な森林が広がる。地震による土砂崩れは林業にとって大きな打撃となった。
厚真町の中心部から車を走らせること5分。吉野地区で当時の被害を思い起こさせる光景が目にとまった。民家や生活道路に近い山は、着々とのり面や砂防ダムの工事が進められているが、茶色い山肌がむき出しの斜面も目立つ。砂ぼこりをあげながら走るダンプカーと多くすれ違った。

森林の復興はどの程度進んでいるのか。
道の担当者によると、被害は非常に広大な範囲で、林道なども崩れてしまったため、いまも崩れた場所のほとんどは手つかずのままだという。

「一度なくなってしまった森は、そんなに簡単に緑にはならないんです」

と厚真町の担当者が教えてくれた。木が育つには長い年月がかかる。さらに、土砂崩れで表面が削れてしまった場所に木を植えたとしても、山が元どおりになるとは限らないのだそうだ。町には研究機関が入り、森を回復させるための試行錯誤が始まっていた。

変わってしまった森との距離

町の担当者の話で、印象的な言葉があった。

「あの地震で人と森との距離が変わってしまった」

森林が町の面積の7割を占める厚真町では、森林が昔から身近な存在だった。しかし、今回の地震では、この森林によって多くの命が奪われてしまった。

「怖い思いをしたあの日を境に、“森に近づきたくない、少なくとも立ち入りたくない”と思っている人たちがいる。ただ、そこに少しでもアクションを起こして、森がまた町の人にとって身近な存在になれればいいなと思います」

被災をきっかけに林業や森林の価値をもう一度見つめ直せないか。町では林業に携わる若者たちが新たに動き始めている。明治時代以降、国内最大規模と言われる森林崩壊。復興への長い挑戦は始まったばかりだと感じた。

(2020年8月21日)

浅井優奈 函館局記者
2018年入局。警察・司法担当。

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