牛や豚などの家畜を育てるのに欠かせない飼料。いま、その飼料の価格が上がり続けています。背景にあるのは中国国内の需要の増加や南米での不作の影響。そして穀類の一大産地であるウクライナの混乱が続くなか、価格高騰にさらに拍車がかかると懸念されています。こうしたなか、酪農が盛んな十勝の音更町では、これまでほとんど栽培されてこなかった「ライ麦」に注目が集まっています。
(帯広放送局記者 米澤直樹)
飼料輸入大国、日本
そもそも日本は飼料のほとんどを輸入に頼っているのが現状です。飼料には大きく分けて牧草などの繊維質が豊富な「粗飼料」と、トウモロコシや大豆などのたんぱく質が豊富な「濃厚飼料」の2種類があります。いずれも道内の酪農経営には欠かせない飼料です。しかし、農林水産省のまとめでは、令和2年度の日本の自給率は粗飼料が76%、濃厚飼料はわずか12%で、飼料全体の自給率は25%と、輸入に大きく依存しています。
農水省によると、海外市場での値上がりを背景に1トンあたりの配合飼料価格は、おととし(令和2年)秋ごろには6万円台半ばでしたが、ことし2月には8万3000円台まで高騰しています。

わずか1年で、飼料代4000万円増
音更町で620頭の牛を育てる酪農家の山田哲義さん(41)が経営する牧場では、去年1年間に飼料代として1億6000万円を支出しました。おととしと比べて、およそ4000万円の負担増です。そしてウクライナ情勢の影響が追い打ちをかけ、飼料価格はさらに上がると懸念されているのです。さらに、今年度は新型コロナウイルスの影響で生乳の需要が落ち込み、生産抑制も行われていて、極めて厳しい状況だといいます。

山田哲義さん
「飼料代が上がるのも、国際情勢の中で仕方のないことだと思いますが、販売価格に転嫁することもできない。これだけ八方塞がりになるとどうにもならず、このまま酪農を続けていける自信はないです」
ライ麦に注目集まる
酪農家にとって厳しい状況が続くなか、音更町では、これまでほとんど栽培されてこなかった「ライ麦」に注目が集まっています。実は、町と地元のJAおとふけでは、4年前から、ライ麦を新たな飼料として栽培できないか、検討を進めてきました。去年秋には畑作農家の畑でライ麦の種をまき、5月下旬に初めての収穫作業が行われました。

空いた畑で自給飼料を
なぜ、ライ麦なのか。実はライ麦は寒さに強く、秋に畑にまくと、翌年の5月下旬に収穫することができます。そのため、6月以降に別の作物を植えて、その年のうちに収穫する「二毛作」が実現できるのです。このため、冬の間畑が空く畑作農家の畑で栽培することができ、新たに土地を用意する必要がありません。道内では牧草用の畑をこれ以上増やすことは難しいのが現状で、既存の土地を有効活用しながら新たな飼料を確保できる可能性があるのです。酪農家にとっては自給飼料として活用できるうえ、畑作農家にとっても新たな収入源となる「耕畜連携」の取り組みです。

畑作農家 石川隆久さん
「そんなに手間もかかることもなく収穫までこれたと思います。お互いにメリットがあるなら、こういう事業がどんどんあったらいいなと思います」
嗜好性高く、栄養も豊富
ライ麦の可能性にいち早く着目し、研究してきたのが、道総研=道立総合研究機構、畜産試験場です。ライ麦は繊維質が多く、牧草と同じく粗飼料としての役割が期待されています。畜産試験場では、牧草とライ麦を同時に与えて、牛の嗜好性を調べる実験を行いました。この写真は、エサを与えてから1日が経った様子を撮影したものです。牧草はほとんど手つかずの状態ですが、ライ麦に牛が群がっているのが確認でき、嗜好性の高さがうかがえます。


道総研畜産試験場 今啓人 研究職員
「ライ麦は牛の嗜好性が高く、分析の結果、一般の牧草と比べても良質な粗飼料になると考えています。畑作農家の畑で飼料を得られるというのはとても大きなことで、取り組みが拡大することで酪農家の経営の安定につながると考えています」
地元でとれる飼料で“脱輸入依存”
収穫されたライ麦は、町と農協からの補助金を受けて、牧草とほぼ同じ価格で町内の酪農家に販売されます。酪農家の山田さんも地元で自給できる貴重な飼料になると考えています。

山田哲義さん
「国産に置き換えられるなら国産に置き換えるというのは、理にかなっているのかなと思います。地元でとれるものを少しでも活用できたらと思っています」
今回、音更町内で生産されたライ麦はおよそ37ヘクタール。作付けにかかる労力やコスト面などを検証し、町と農協では今後、さらに面積を拡大できないか検討しています。飼料高騰が続くなかで、自給飼料の確保に向けた取り組みが広がるか、注目されています。
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