NHK札幌放送局

十勝発!“女性に農業は無理”を変えていく

北海道道

2021年11月25日(木)午後0時22分 更新

「4%」―北海道の農業経営主に占める“女性”の割合です。「男性が主体」というイメージが根強い農業の世界を、さまざまな人がチャレンジできる場に変えようと奮闘する女性酪農家がいます。
取材:NHK帯広 川畑真帆ディレクター
11月26日の北海道道で放送します

北海道道
「未来を拓け!北海道農業」
26日(金) 後7:30~[総合]
※再放送 28日(日)前8:00~

地域でただ一人の女性の牧場経営者

十勝の広尾町で牧場を経営する角倉円佳さん(38)。
町に64軒ある乳牛牧場の経営者の中で、ただ一人の女性酪農家です。

角倉さんの牧場では100頭あまりの乳牛を飼育し、毎日朝と夜に搾乳しています。
子牛から母牛になるまで、手をかけて育てられるのが魅力だといいます。

角倉円佳さん
「寝てる牛が並んでるのが好きなんです。朝、搾乳が終わったあとに新しい寝わらを入れてあげるんですけど、入れたらみんなサーッと寝るんですよね。それがまた気持ちいいってなります」

酪農家の家に生まれ育った角倉さんですが、最初から「酪農家になろう」と思っていたわけではありませんでした。

「むしろ幼いころはやりたくないって思ってたぐらいでした。うちの両親も新規就農で始めているのもあって、なかなか子どもと一緒に過ごしたり家族でみんなでどこかに行くという時間がほとんどなかったですし、幼い子どもながらにちょっと寂しいなと思っていたというのもあるから、絶対酪農はやらないって言ってましたね」

そんな角倉さんの思いが変化したのは、普通科の高校に進み、親元を離れて生活を始めてからでした。

「友達の家に遊びに行って専業主婦のお母さんを見たときに、私は将来専業主婦よりは自分のお母さんみたいに忙しいほうがいいなと思って。
それで将来どうしようって思った時に、やっぱり“うちの両親は誇りを持って仕事をしていたな”というのは、子どもの頃に感じていたんですよね。牛が嫌だとかそういうのはなくて。だったら、酪農家になるかは分からないけど、酪農関係の仕事をするのがいいのかなと思うようになりました」


“自分で牧場を経営したい” カナダ留学でできた夢

角倉さんは、帯広畜産大学別科を卒業後、20歳から2年半にわたって牧場の仕事を学ぶためカナダへ留学。
そこで出会った牧場の女性経営者の姿に憧れを抱きます。

「ご夫婦でやっていたんですけど、女性の方が経営者で。牛の仕事もするけど、事務所でお金のこととか、あとこの牛を売る売らないとかっていう話とか、決めるのも基本的に奥さんの方だったんですよね。
ホルスタイン協会の初の女性会長をカナダでやっていたバリバリな人で、ほかの牧場への見学に連れて行ってくれたりしたんですけど、男性の人たちと対等にしゃべってるのがすごいな、かっこいいなと憧れました」

研修先の牧場では、数十頭の牛を夫婦で飼っていました。
分業制で数百頭を飼育する実家の牧場とはまた違い、牛が生まれたときから搾乳するまで一貫して手をかけて育てていける楽しさを知った角倉さん。
「理想の牧場を自分で経営したい」と思うようになります。

実家の牧場は弟が継ぐことになったこともあり、帰国後24歳で、新たに牧場を立ち上げました。


“こんな小娘に何ができるんだ”

しかし、一人での牧場経営は簡単ではありませんでした。

「カナダで学んできたことを生かせると思っていたけれど、やり始めるとそれ以上に不安なことやわからないことの方が多くて。
親に頼ってばかりもいられず、本当に勉強の毎日でした。分からないことは、いろんな人に教えてもらいながら続けて来ました」

さらに、女性が酪農をすることに対し、厳しい声もあったといいます。

「“こんな小娘に何ができるんだ”みたいな感じだったりだとか、“どうせ女なんだから、始めたってすぐ何年かで辞めてどこか嫁に行くんだろう”みたいな感じだったりとか。そういうことは、男性というかおじさんたちに言われていたと思いますね。
毎日仕事することは全然苦じゃなくて、私がいないとこの子たち(牛たち)が生きていけないんだって思ったら、仕事のやりがいというか使命みたいな感じでやれるんですけど、周りからいろいろ見られたりというのが一番嫌でしたね。毎日泣いてましたよ、一時期は」


周りの支え得て 女性一人での経営を達成

そんなとき、角倉さんの心の支えになったのは、近所の牧場で働く女性たちでした。

「同世代の女性の人たちが、ごはんに誘ってくれたり、私が仕事している時に牧場に寄ってくれて“まだ仕事してるのかい”ってジュース持ってきてくれたりとか。そういうふうに気にかけてくれた人がいるから、続けられてきたというのはすごくありますね。
仕事でわからないことや不安なことも聞いてもらったり、みんなの家だったらどうしてるっていうことを聞いたら教えてくれたり。
一人で作業自体はやっていたけれど、やっぱりそういう仲間、人に支えられたなと思っていますね」

仕事の面でも周囲の協力を得ることで、角倉さんは女性一人での経営を成り立たせることができるようになっていきました。
まだ搾乳をしない若い牛は、一定期間育成牧場に預けて育ててもらっています。
牛たちのエサは、複数の農家が共同で運営するTMRセンターで作られたものを使用。牧草の栽培やエサの調合の手間を省くことができます。
搾乳や牛の世話に集中できる環境を整えることで、今では安定した経営を実現させています。

今では、角倉さんは牧場の外にも活動を広げています。
全国の酪農女性を集め、情報交換やつながり作りができるイベントを開催。
地元のラジオ局でも番組を担当し、女性の多様な農業への関わり方を多くの人に知ってもらおうとしています。


「女性は嫁に行くしかないの?」悩む学生の背中押す

自身の経験を、酪農を志す若い人にも伝えたい。
角倉さんは今年から、大学生の牧場への受け入れを始めました。
中には、牧場経営を目指す女子学生もいます。その一人が、帯広畜産大学2年の小野寺麗南(おのでら・れな)さんです。

小野寺麗南さん
「一緒に生きてる感じがして、酪農が好きですね。この子たちがお母さんから牛乳をもらって育って、またこの子たちがお母さんになって。子どもを産まないとおっぱいも出ないから、命の循環がないと成り立たない職業ですよね」

宮城出身で、実家は農家ではありませんが動物に関わる仕事がしたいと入学。
実習などで牛とふれあう楽しさを実感し、いずれは自分の牧場を持ちたいと考えています。

しかし、農業関係者などから「女性が一人で酪農を始めるのは難しい」と言われることも多く、将来に不安を抱えていました。
休憩時間中、小野寺さんは角倉さんに、思い切って悩みをぶつけました。

小野寺さん
「周りから『嫁に行くのが一番簡単だよ』って言われるんです。でもそれって、酪農を始めるのはいいけど、自分の理想とする牧場にはならないんじゃないかなっていうのがあって。後々なるかもしれないけどすべてがそうなるわけではない。それってどうなの?って。最初から選択肢を選ぶ余地がない、それがないと一歩踏み出せないという状況にあって、それがすごい苦しいんです」
角倉さん
「そうだよね。それに悩んでる人めちゃめちゃいるよね。びっくりするくらい。好きな人なんてできたことないのに、結婚しなきゃだめなんですかね、みたいな。
私はこの町をそれで変えていきたいと思ってて。自分が今ここで続けることで、チャンスがみんなにあるんだよってことを、農協の人も地域の人も理解してもらって、次に『私も挑戦したいです』っていう人が出てきたときに応援できるような地域になっていったらいいなって思ってて。男の子がやることを否定するつもりはなくて、一緒なんだよと感じてほしい」


いろんな人がチャレンジできる酪農に

角倉さんは、やりがいを持って酪農に取り組む自らの姿を見せることで、未来の担い手の背中を押したいと考えています。

角倉円佳さん
「このままだと地域から農業の担い手がいなくなってしまうかもしれない。だからこそ、地域の側はもっと柔軟になって、積極的に新しい人を受け入れていく必要があると思います。
酪農をする上で、必ずしも家族じゃなきゃいけないとか、夫婦じゃなきゃいけないってことはない。友達と始めますとか、男性と女性でも経営パートナーとして一緒に牧場を立ち上げますとか、いろんな人がチャレンジできるような酪農になっていかなきゃいけないんじゃないかなとは思ってますね。
そんな大した力があるわけではないけど、地域のためとか今後の若者のために自分ができることは積極的にやりたいなと思っています」

2021年11月25日


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