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WEBニュース特集 激変する香港 北海道から思う

北海道WEBニュース特集

2020年12月8日(火)午後4時16分 更新

日本の音楽やアニメが好きで、独学で覚えたという日本語を流ちょうに話す彼女は24歳。ことし北海道を訪れる予定で、同世代の若者たちと自由や民主主義について語り合うことを楽しみにしていました。しかし、その願いはかないませんでした。

香港の民主活動家・周庭(アグネス・チョウ)さんは12月2日、香港の裁判所から無許可の集会への参加をあおった罪などで禁錮10か月の実刑判決を言い渡されたのです。 政治活動に対する中国の統制がますます強まる香港の姿に、私は言いようのない不安を感じています。
(取材:篁慶一)

北海道大学「フェロー」に就任

周庭さんは6年前の香港で民主的な選挙の実現を求めた大規模な抗議活動「雨傘運動」の中心メンバーの1人でした。その後、香港の状況を日本語を使ってSNSで発信したり、日本を訪れて民主化運動への支援を呼びかけたりもしていて、メディアにもたびたび取り上げられてきました。

去年6月に来日した際、私も都内で開かれた記者会見に出席したことがあります。当時、香港では容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例の改正案に対し、大規模な抗議デモが起きていました。
すべて日本語で行われた会見で周さんは「中国で人権は守られず、公平な裁判は受けられない」と活動への理解を訴え、どんな質問にも自分の主張を明快に説明する姿が印象的でした。

実は周さん、去年10月に北海道大学公共政策大学院の「フェロー」という役職に就任しています。大学院の研究や教育事業に協力することが役割で、任期は来年3月までです。
公共政策大学院の院長、遠藤乾教授はその狙いをこう話してくれました。

「15歳の時から政治活動に参加し、世界的にも知られた周庭さんに、学生たちと自由や民主主義の大切さについて議論をしてほしかった。学生たちには大きな刺激になると考えた」

来日した当時、周さんは日本についてこう語っていました。

民主活動家 周庭さん
「私たちがどれだけ頑張っても、20年、30年闘っても、手に入れられない民主主義を持っている。だけど、民主主義や自分の権利を大切にしていない人が多いと思う」

周さんが就任の要請に応じた背景には、“日本の若い人たちの政治意識が高まれば、香港で起きている問題にもっと目を向けてくれるのではないか”、そんな思いがあったのかもしれません。

断たれた北海道訪問の願い

遠藤教授によると、周さんはことし北海道を訪れる予定でした。しかし、去年6月に大勢の市民が警察本部を取り囲んだ大規模な抗議デモに関連し、無許可の集会への参加をあおった罪などで起訴され、出国できなくました。

その後、香港の裁判所で有罪が認定され、12月2日に禁錮10か月の実刑が言い渡されました。同様の罪で民主活動家の黄之鋒さんと林朗彦さんの2人にも禁錮刑が言い渡されました。
去年起きた政府への一連の抗議活動には明確なリーダーがいません。多くの市民がそれぞれの意思とやり方で参加してきたことが大きな特徴でした。周さんたちは起訴内容を認めていますが、活動を組織したり主導したりしたとはみられていません。
遠藤教授は今回の判決を強く非難しています。

北海道大学公共政策大学院 遠藤乾教授
「見せしめのような形で厳罰を科している。周庭さんがやってきたことは平和的な集会で、自分の政治的な意見をはっきり表明するといった、ごく普通の権利の行使だ。これに対して厳罰を科すことは言語道断だ」

民主派圧勝からの“激変“

香港はこの1年余りで劇的に変化してしまいました。私は去年11月、4年に1度の区議会議員選挙の取材で訪れた時の光景が忘れられません。
現地では民主的な選挙やデモ隊への警察の強硬な取り締まりに対する調査などを政府に強く求め、デモ活動が続いていました。香港で最も民意を反映しやすいとされる直接選挙の区議選は、政府に批判的な立場の民主派が8割以上の議席を獲得する歴史的な圧勝。投票率も過去最高の71%に達しました。

投票日当日、午後になっても途切れない投票を待つ人たちの長い行列。当選が決まった民主派の候補者と支援者が涙を流して喜び合う姿。香港の人々が自由や民主主義を求める切実な思いを感じずにはいられませんでした。
「中国や香港の政府に対して大きなプレッシャーになると思う」と話した周庭さん。この選挙結果は香港政府、そして香港への統制を強める中国政府に明確な「ノー」を突きつけたと言えました。私自身も選挙直後は政府が民主派の声に多少なりとも耳を傾けるようになるのではないかと予想していました。
ところが、その見通しは大きく外れました。

国家安全維持法で強まる統制

象徴的な動きがことし6月の香港国家安全維持法の導入です。法律では国家の安全に危害を加える犯罪行為として、政権の転覆や外国の勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為などの4種類を規定し、いずれも最高刑は無期懲役です。この法律によって、中国共産党や政府に批判的な政治活動や言論は事実上、封じ込められることになりました。

反発する人々はことし9月に予定されていた香港の議会にあたる立法会の選挙で、自分たちの意思を再び示すことに望みをつないでいました。ところが、香港政府は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に選挙を1年間延期。さらに11月には立法会の議員について、中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会が外国勢力に香港への介入を求めた場合や香港政府に忠誠を尽くすという要求に従わない場合などは、ただちに資格を失うという決定をしました。
これを受けて、香港政府は4人の民主派議員の資格を取り消し、ほかの民主派議員たちは抗議の意思を示すため一斉に辞職を届け出ました。
1997年に香港がイギリスから中国に返還された際、中国は香港に高度な自治を認める「一国二制度」を導入し、「50年間は変えない」と約束していました。しかし、返還から23年で、一国二制度の形がい化がいっそう強まっているのです。

“民主主義の国”からの願い

周庭さんはことし8月、国家安全維持法に違反した疑いでも逮捕され、警察の捜査が続いています。周さんは保釈された後、「警察は逮捕の理由として7月からSNSを利用して外国勢力と結託したとしているが、日時や内容については何も言っておらず、漠然としている」と話していました。
香港の政治に詳しい立教大学の倉田徹教授はこう懸念を示しています。

「政府は発信力がある周庭さんを警戒している。起訴されるかどうかは分からないが、仮に有罪となれば、刑期はさらに長引くことになってしまう」

香港の現状に影響を与えられるのは、もはや国際社会の圧力しかないのではないか。北海道大学の遠藤教授はほかの研究者や弁護士と共同で香港の民主活動家たちへの政治的弾圧に強く抗議し、日本政府に早急な対応を求めるための署名活動をインターネット上で続けています。

                    <署名活動を展開しているサイト>

北海道大学公共政策大学院 遠藤乾教授
「香港で自由や民主主義のために闘っている人たちに対し、香港政府や中国政府が何をやっているのかをしっかりと見続け、そこに関心を持ち続けることが大事だ」

去年6月以降の抗議活動に関連した逮捕者は1万人を超え、2200人以上が起訴されています。周さんたちが禁錮刑を言い渡された翌日には、中国に批判的な論調で知られる新聞の創業者も身柄を拘束されました。
遠く離れてはいても、“民主主義の国”日本に期待を寄せる香港の人たちは決して少なくありません。困難な状況に置かれてもなお闘い続ける彼らに思いをはせ、いま何ができるのか、私も北海道から考え続けたいと思っています。

(室蘭放送局・篁慶一 2020年12月2日放送)

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