リビングでくつろぎながら、ほかの部屋の様子を映像で確認することができる「見守りカメラ」。手持ちのスマートフォンとつなぐことも出来て便利なことから、子育てや介護のほか、ペットの飼育など幅広い用途で普及が進んでいます。
一方で、このカメラを過信するあまり、幼い子どもを自宅に置き去りにして出かけてしまい警察に検挙されるケースも起きています。一つ間違えれば命に関わることだけに、その適切な使用が求められています。
育児や介護に 広がる利用

札幌市内の家電量販店に並べられたいくつもの「見守りカメラ」。こちらの店舗では特設コーナーが設けられ、1年ほど前から売り上げが伸びているということです。売り場の担当者によりますと、手持ちのスマートフォンで映像を確認できる商品が人気とのこと。
買い求めるのは子育て中の若い夫婦がほとんど。炊事や洗濯の音で赤ちゃんの泣き声などが聞こえなくなるのを心配したり、新型コロナの影響で子どもを親族などに預けづらくなったりして購入を検討することが多いということです。
ヨドバシカメラ マルチメディア札幌店 関口雄大さん
「最近は子守歌が流れるカメラも販売されるなど商品の種類が増えました。保護者の方には安定した通信環境の確保や倒れにくい場所にカメラを設置することなど、子どもの様子が常に確認できるような正しい使い方をしてほしいですね」
誤った使い方で事件も
その一方で、間違った使い方をして、子どもを置き去りにするケースも起きています。
ことし6月、釧路市でパチンコに出かけるため生後4か月と2歳の幼い兄弟を自宅に放置したとして35歳の夫と10代の妻(当時)が逮捕されました。2人はスマートフォンと連動した見守りカメラを自宅の居間に設置し、赤ちゃんのための哺乳瓶を置いて外出したということです。しかし、幼い兄弟はおよそ13時間半にわたって放置され、このうち4か月の赤ちゃんは運ばれた病院で死亡が確認されました。

赤ちゃんの死亡と放置に因果関係は認められず、夫は保護責任者遺棄の罪で起訴され、未成年の妻は少年審判で保護処分になりました。夫はパチンコ中に、スマートフォンに送られてくるカメラの映像を通じて、長男がご飯を食べている様子やおもちゃで遊ぶ様子などを確認していました。刑事裁判の法廷で、夫は「見守りカメラで確認することで“命の危険はないだろう”と判断してしまった」と述べました。ただ、カメラは居間のみに設置され、別室にいた赤ちゃんの様子は映っていませんでした。
釧路地方裁判所は今月12日、「わずか2歳の子どもと、首もすわっていない生後4か月の赤ちゃんを置き去りにした危険な行動だ。見守りカメラを設置して、通知が被告に送られる状態にあったものの、そもそも自宅から離れていて保護できない状態に変わりはなかった」と指摘。その上で「パチンコをしたいという動機に酌むべき事情はなく、事件前から同様の行為を繰り返し、規範意識が低下していた」として、懲役1年6か月、執行猶予3年を言い渡しました。

こうした事件は最近、道内で相次いでいます。子どもを家や車に放置したとして保護者が逮捕されるケースは、今年度、警察が発表しただけであわせて5件。このうち札幌市で起きた事件でも、今回の釧路市のケースと同じように、外出先から子どもの様子を確認するため見守り用のカメラが使われていました。札幌市の事件で警察に逮捕された父親は生後7か月の息子をおよそ8時間放置して外出し飲酒していたことがわかっていて、警察の調べに対して「カメラで様子を確認していれば問題ないと考えていた。これまでも子どもを自宅に残して飲みに出かけたことがある」などと話しているということです。
正しく使えば育児の助けにも
今回の取材を通して、私たちは、この見守りカメラを育児に活用しているという女性から話を聞くことが出来ました。
札幌市の中里里子さん(33)は夫と1歳の長男との3人暮らし。ふだんは仕事をしていますが、いまは育児休暇を取って自宅で長男の世話をしています。インスタグラムで紹介されているのを見て見守りカメラの存在を知り、出産から2か月ほどたったころに購入しました。現在はベビーベッドが見えるようにカメラを設置して、皿洗いをしたり、居間で過ごしたりする間に子どもの様子を専用のモニターで確認するようにしています。

中里里子さん
「リビングと子どもの寝室が離れているので、モニターがあることで子どもが泣いているのに気づくことができるし、すぐに駆けつけられるのでとても助かっています。寝返りを始めたときは、うつぶせになってしまうこともあり、モニターで確認してすぐに戻してあげることができました」
中里さんは、見守りカメラの誤った使い方が社会問題化していることに、同じ親として心を痛めています。カメラがあるからといって、家を空けて外出したり、モニターから離れて作業したりすることは絶対にしてほしくないといいます。
中里里子さん
「見守りカメラは、家にいながら子どもから少し離れるときに安全を確認するために使うものだと思うので、誤った使い方はしてほしくないと思います。幼い子は自分では何もできないので便利なツールに頼りすぎないことが大切だと思います」
専門家 「近くにいることが使用条件」
育児と切っても切れない関係になりつつある見守りカメラ。正しく使うためにはどのような点に注意すればいいのか、専門家にも聞きました。新生児医療や家族支援を専門に扱う北海道大学病院周産母子センターの古瀬優太助教は、すぐに駆けつけられる場所にいなければ、見守りカメラがあっても育児には何の役にも立たないと指摘します。

古瀬優太助教
「特に赤ちゃんなどの幼い子どもは寝返りをしてうつ伏せになると戻れなくなったり、ミルクを吐いて窒息したりするなど、ちょっとしたことでも命を落とす危険性があることをまずは ちゃんと認識してほしい。その上で、例えば、夜間に寝室にいる赤ちゃんを隣の部屋から観察するなど、近くにいて、緊急時でもすぐに駆けつけられる状況で利用してほしいと思う。見守りカメラはあくまで育児をサポートする補助的な役割であり、過信してはいけない」
仕事と育児の両立が当たり前となった現代。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などで子どもを外に預けづらくなったり、自宅でテレワークをしながら育児をせざるをえなくなったりして、育児を取り巻く環境は日々、厳しさを増していると感じます。そうした中、見守りカメラが重宝され、普及が進むことはむしろ当然のことかもしれません。一方で、子どもの健やかな成長を“見守る”のであれば、やはり正しい使い方を理解した上での活用が求められると思うのです。
札幌局記者 小柳玲華、髙山もえか
釧路局記者 牧直利
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