NHK札幌放送局

農業×演劇  森崎博之さんインタビュー

ほっとニュースweb

2023年3月9日(木)午後2時48分 更新

人気演劇ユニット「TEAM NACS」のリーダー、森崎博之さん。この15年間、テレビ番組の企画で、のべ700軒にのぼる農家を訪ね歩いてきました。その森崎さんは、先月から、農業をテーマにした演劇「AGRIman SHOW」の全国公演に臨んでいます。 道産食材を使ったスープカレーの料理実演や、これまでの苦悩を語る酪農家、さらには農作物をテーマにした歌を披露する歌手など、舞台では、北海道の農業をテーマにしたさまざまな劇が展開されていきます。
それらを1人で演じる森崎さんに、この演劇への思いを、札幌での公演を前に聞きました。
(札幌放送局  飯嶋千尋) 

なぜ、農業×演劇を?

ーーーどうして農業をテーマにした演劇を作ろうと思ったのでしょうか?

今回「TEAM NACS Solo Project 5D2 ーFIVE DIMENSIONS Ⅱー」というプロジェクトで、「TEAM NACS」の5人組がそれぞれ好きなことをやりましょうということになったんです。これは、5つの異次元があるっていう意味なんですよね。僕らは5人で舞台に上がる集団「TEAM NACS」なんですけれども、それぞれのソロ活動っていう意味合いです。

ほかの4人は今は全国区のドラマとか映画とかね、紅白歌合戦とかで活躍しているメンバーですから。私がその中で何ができるのかなと思った時に、僕はずっと、彼らが全国のドラマに出てる時に、僕は畑にいたわけです。北海道の畑で農家さんのお話をずっとうかがってた。僕はこれを演劇と融合したかった。「農業×演劇」、そしてそこに、料理とか、マジックとか、歌とか、そういったものもふんだんにいろいろ混ぜ込みながら、何かこう野菜盛り合わせみたいな、豪華なカラフルサラダみたいな感じにして、もう各種違う歯ごたえを楽しんで頂こうっていうような、ショーを作りたかったんですよね。

ーーー農業をテーマとする上で難しさはありましたか?

それはもう、教科書となるものがないっていう難しさがありました。僕がこれまでやって来たのは、時代劇だったり、恋愛ものとか、戦争ものとか、そういったものを「TEAM NACS」でいろいろと手がけてきました。そうなると、やっぱり時代劇が好きな人がいる、あるいは恋愛ものが好きな人がいる。こういうふうに、ある程度みる人を限定してしまうんですけど、今回は、食、食べることがテーマ。これは皆さんにかかわりがあることなので、だから全くみる人を選ばないものができて、そこはよかったなと思います。ただ、これまで前例がないから、難しいことではありました。でも自分がその第一人者になれれば、こんなにうれしいことないなと思って。ただみんなも、みたことないから戸惑うんです。「AGRIman SHOW」、「食の舞台です」と言っても、いやそれはみるべきなのか、ちょっと分からないぞっていう方が多かったんですけど、勇気出してみに来ていただいた方々が、これ口コミで、SNSなどの発信でみんなで評価してくださって。それで2週間の東京公演では、どんどん動員が上がってきて、売り切れの日も多くなりました。

ーーー北海道公演の反応はどうですか?

北海道はね、まだ売り切れにはなっていないんです。北海道はね、「TEAM NACS」5人であがるような舞台なので、まず会場が大きいんです。今回は僕一人です。でも、大丈夫。僕には周りに野菜たちという共演者がいるので、さみしくないっていうことと、あともう1つ大丈夫だと思えるのは、客席も広くて結構遠くから見てもらうことになるかもしれませんが、この「AGRIman SHOW」は、まず映像がたくさんあるということ。あと私、遠くからでもよく見えるプロポーションしてますので、顔が大きいっていうことが、ここに来て大いに役立つんです。私だったら、最後尾の列だとしても、見えます。それはなぜなら舞台に立つのが、顔デカの私だから。本当によかったなと思って。もう舞台にぴったりな男ですよ私は。


あふれる農業への愛を演劇に

ーーーどんな思いでこの舞台に臨んでいますか?

そうですね、まずはやっぱり野菜に対する愛をすごく込めてやらせて頂いてます。作品作りってやっぱり愛情だと思うんですよね、どんな作品だとしても。物語とか、登場人物にしっかり愛を込められるか、このあたり、私もやっぱり誰にも負けないぞという思いがあります。例えば、源頼朝をやらせたらあいつ(大泉洋さん)が上手かもしれません。ただ私は今回、北海道の農業従事者を演じます。となると、僕は負ける気がしない。うちのメンバーの中で言っても、農業者を一番上手に演じられるのは、私、森崎だなと思います。

ーーーこれまでテレビ番組の企画でも農業を伝えてきた森崎さん。テレビと舞台の違いはありますか?

テレビはあくまでも自分にインプット、勉強させていただく場であって、そのアウトプットっていうのはよく、実はあちこちでしてまして。僕は、道内道外もあわせて、年間30から40の講演会をやらせていただいて、そこで農業と食についてお話しさせていただいています、スーツ着てね。結構、壇上で偉そうに講師として、1時間半ぐらいの公演を行っています。それは大人だけじゃなくて、高校生とか中学生の子どもたちもそういう講演をすることがあります。あくまでも北海道のテレビ番組で農業について教えてもらいますが、農業をよくしようとか、そういうことはまた別の、農家の皆さんや農協の皆さんとか、いろいろな団体がありますので、その人たちにお任せする。
私がやりたいのは、消費者目線での農業への応援なんです。農業というものは、どうしてもなんか暗く見られがちというか、高齢化や後継者不足などの問題がありますよね。でもこれってどの社会でもそうだと思うんです。今、どんな業界見ても、人手不足だったりまあ人材がいない。それも、これから少子化だからもっと拍車がかかると思います。だから農業にとりたてて言うことじゃない。でも、農業がニュースになるっていう時に、どうしてもちょっと暗いニュースが多いです。やれ家畜がね病気だとか、あとは円安の影響で物価が上がってそれが野菜の価格が上がって家計を逼迫してるとか、いろいろ話があります。何かその、野菜の価格というものが、悪いみたいな感じで見えたりするんですよね。でもそういうのはしょうがないと思います。ネガティブな部分ももちろんある、我々に欠かせないものですから。
ただそことは別で、ちゃんとポジティブな話、この野菜が今ものすごくおいしいとか。この時期はこの野菜がうまいんだとか、北海道のこの地域のこの野菜を食べましょうみたいな、明るくおいしい話題っていうのをしていかなきゃならないなと、思ってます。それが私の役割であるし、これは北海道だけじゃなくて全国の番組でやりたい。例えばマツコ・デラックスさんの番組で、私がいろいろとマツコさんの知らないことを話すとか、世界一受けたいといわれている授業の中で、私が家庭科を担当して、いろいろと北海道の農産物について語るとか、今度は北海道で得た知識を、全国でお話しさせていただく。私が勝手に広報隊長みたいな感じで、広く北海道野菜をお話をさせていただくというようなことが、ひょっとしたら、僕がやらせてもらえるお仕事なのかなと思うんです。
その中にこの「AGRIman SHOW」というのもあって、演劇という舞台の上で、農産物をしっかりと応援する『絶対的農産物感謝祭』、これを僕だったらエンタメにできるっていうふうに何か変な自信がありましてね。それでみんなが笑ったり泣いたり、普段のようにショーをみてもらいながら、「あ~、やっぱり食べることって自分大好きだ」って、ショーを見ていただいた後に、それまで食べてきたものが、「あれなんかちょっと、食べる事が楽しく感じてきたぞ」とか「おいしくなったぞ」っていうような、こう見たあとにずっと効く、調味料になりたいなっていう、思いがあります。


将来の夢に“農業”を入れてもらうのが目標

ーーー子どもたちにはポジティブな農業を伝えたい?

もちろんです。あと僕が今の子どもたちに伝えたいのは、農業というものはしっかりと稼げる仕事であり、みんなに喜ばれるお仕事であるんだと。だからその農業というものを、君たちの将来の夢に組み入れてもらいたいなと思っています。面と向かっては言わないですけど、ちゃんと感じてもらえたらなって。一緒に農業体験をしている子たちの中で、みんなじゃなくてもいいんです。何人かが、「わぁ農業って楽しい」「かっこいい」「みんなが喜ぶ生産者さんってすごいやりがいのある仕事だろうな」ってこう思ってもらう。農業というのが稼げないって思われてるこの現状を変えたい。だから僕は、SDGs17項目ありますけど、僕の中のSDGsとしては1つ、「北海道で未来ある子どもたちが農業というものを志すんだ」、これが、私はやっぱり北海道が今後ずっと、持続可能になっていく、大きな大きな事柄なんじゃないかなと思ってます。

しかも、これまで15年間、テレビの農業番組をやって来て、中にはご褒美のようなエピソードがありました。何回も何回も番組に来てくれた子が、農業を志して農業高校に行って、酪農大学に入って、いま農協の職員として生産者さんと一緒にタッグを組んで、その地域のブランド野菜を育てているんです。あとは北大で、農業の交配、品種改良の研究している子もいるんです。もうそんな話を聞けてうれしくてうれしくて。15年もやってると、もう当時来てくれた子どもたちと、お酒が飲める年齢なんですよ。もうあとしばらくすると、実は私のお母さんも番組に行ったことがあるんですっていうような、2世の子たちが来てくれる。それが長寿番組をやってきて、私へのご褒美でもあるし、やりがいでもあるような気がします。


野菜をなってるままかじった子ども時代

ーーーそもそもなぜ森崎さんは農業に興味を持ったんですか?

僕は北海道の東川町というところで育ってまして、富良野や美瑛の近くで、山に囲まれたもう米どころ、水のいい場所なんです。じいちゃんばあちゃんがコメ農家を営んでいて、僕は遊び場がなかったんで、田んぼとか畑とかで、農作業の合間にじいちゃんに遊んでもらうみたいな感じで、毎日泥だらけになってたんです。おやつなんて戸棚にスナック菓子が入ることもなかったですから、自分で調味料を畑に持って行って、なっているきゅうりをもがずに、そこにぴぃーっと味噌とかマヨネーズつけて、それをそのまま食べてました。その味を知ってるのは、虫か、森崎か、ぐらいですかね。もぎたてはおいしいけど、もぐ前はもっとおいしい。こういうのを体験してたもんで、初めて農業の番組を頂けた時は、すごくうれしかったし、じぃちゃんに報告しましたし、なんか向いてるなっていう気持ちがしてました。畑とか田んぼっていうのは、僕の遊び場なんです。

いまだに取材に行っても、そこが仕事場だと思ったことがなくて、私は僕にとってはおいしいものがたくさん実っている、遊び場。農家さんにとっては仕事場だと思うけど、僕はやっぱり応援団なので。応援団の人って例えば野球の応援団だったら、その球場を仕事場とは思わないですよね。とっても楽しい夢を見に行く場所だったりするじゃないですか。僕にとっては、まさに畑がそうで、僕は農家さんというプレーヤーに、スタンドから大きい声でエールを送るんです。「ありがとう」って感謝しながら、「頑張ってね」って、応援するんです。たくさんの番組をご覧の方とか、今回の芝居をみてくださる方をサポーターズメンバーとして、僕の後ろにいてもらいながら、一緒に応援したいんです。それが大きな大きな目標なんです。

ーーー農業の“応援団”である森崎さんが、この舞台から伝えたいことは何でしょうか?

このショーの面白さってどう言えばいいんだろうと、本当に困りながら、ここまできています。なので、実際にお芝居見に来ていただいた方々に、みんなの口コミの力を借りたいんだって、みんなで広げてくれないかってお願いしてるんです。その結果、みんなが広げてくれて、たくさんの人が見に来てくれるようになったんですが、その皆さんも「どうやってこの舞台を伝えたらいいんだろう」って困っていました。だからひょっとしたら、「AGRIman SHOW」は、世界で初めてのショーなのかもしれません。食というものを、エンタメとしてみせている、唯一で初めてのショー。だから2回目以降は、もうちょっと宣伝しやすいと思うんですが、こんな言い方は絶対だめだと思ってるんですけど、今回言うなれば、「みた人にしか分からない」おもしろさはあると思うし、それは絶対裏切りたくないですね。東京公演で2週間やって来て、自信と励みをいただけたので、それを糧に、大阪公演、北海道公演と乗り切るつもりではあります。でもやっぱり僕がみてほしいのは、北海道が舞台なので、ここ北海道の方たち。もちろん農家さんにみてもらえたらこんなにうれしいことないですし。食というものを愛してる方々、ひょっとしたら食にそんなに興味がないんだよっていう人にこそ、見てもらうべきなのかもしれません。だから対象者は、全員なんです。全員が「AGRIman SHOW」を、みるべきと言えるのではないでしょうか。


農業を照らす存在になりたい

ーーー森崎さんは農業のためにどんな存在になりたいですか?

農業を、照らす存在になりたいです。だから、将来の夢は“太陽”なんです。大きくなったら太陽になりたい。別番組ではね、大きくなったら北海道になりたいって言いましたけど。ちょっとそこからまたの夢が膨らみました。大きくなったら太陽になりたい。植物がしっかり光合成をしてくれるような、太陽になりたい。

ーーー森崎さんの、北海道の農業はこうなってほしいという願いは?

僕がこれまでずっと見てきた生産者の方々って、本当にどれだけ我々消費者のことを考えて下さってるんだろうと思うぐらい、ものすごいそこはラブがあります。ご自身の仕事をきつくしてまで、でも消費者にこれを食べてもらいたいんだ、この鮮度のまま食卓に届けたいんだっていうラブがあります。でもこのラブが、生産者さんの片思いだと、実らないんですよ。私たちも愛情を込めて、あの野菜がおいしい、あの農家さんは間違いない、もっと言うと、北海道の農産物は間違いがないんだって、そうみんなで思いたい。でも、実はもうやってる人がいるんです、北海道外に住んでる方々です。道外の方々は本当に北海道の農産物、それからやっぱり酪農製品、もう牛乳なんてやっぱり北海道と名前が付いたらもうたくさん牛乳の種類がある中で、北海道って書いた牛乳から売れていくんだと、スーパーの方が言ってました。だから間違いないんです。道外の方が認めているんだから、やっぱり北海道にいる私たちが、北海道産の野菜をもっと愛しましょうよって。農家さんと両思いの気持ちになって、毎回おいしいおいしいってラブを遠慮せずに発揮しながら食べれたら、僕は北海道の農業って絶対、永久に不滅のものになるなと思います。

ーーー消費者がそのラブを発信するにはどうしたらいいでしょうか?

まずは私に言ってくだされば、私があの全農家を代表して御礼申し上げます。ただ、もしかしたら、示し合うものでもないのかもしれません、それは。やはりお金を出して買う商品ですから。ただ、それこそSNSの口コミのようなもので、「きょう買ったニンジンはやたら味が濃くてうまかった」、「甘みが強い」とか、そういったことってちゃんと伝わりますよね。間違いないラブの表現ではないでしょうかね。本当思うだけでいい、家庭の中で、みんなで盛り上がってくれるだけで、生産者の皆さんはうれしいんです。

ーーー食卓で会話にでるだけでもいい?

そうです、会話に出るだけで。昔から言われてますけど、新聞読みながら、テレビ見ながら、いまだとスマホを見ながらだと、食事が作業になってしまう。“ながら食べ”は駄目よって言われてますし、それはそうですよね、食事というものが認識できなくなる、ただ口に入れて運ぶ作業になっちゃう。まあそれでもいい人もいるかもしれません。
でもやっぱりもっと食を楽しむためには、僕の推奨したい“ながら食べ”があります。それは、“ちゃんと知りながら”、家族とか仲間とかとみんなで“楽しみながら”、“感謝しながら”の“ながら食べ”です。生産物、野菜たちも命ですよね、お肉も魚も命です。お米だって小麦だって命。私たちは命をいただいてるという、感謝をしながらいただく。そうすると食事ってとっても、楽しくおいしくなるんですよね。しっかりとこの“ながら食べ”をしていただいて、食べ物へのラブ、農家さんへのラブ、酪農家さんへの思いをしっかりとそこで、ちゃんと育ててほしいなと思います。
そんな思いがこの舞台には詰まってるし、やがてはどこか学校で、この「AGRIman SHOW」をやりたいですね、そんな風に思っています。ちょっと学校でやるには大がかりかもしれないですけどね。

森崎さんの「AGRIman SHOW」の札幌公演は、3月18日から2日間、札幌市のカナモトホールで上演される予定です。

2023年3月9日

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