函館のシンボル、函館山。そのふもとに広がる人気の観光エリアで、ある問題が起きています。

函館市の観光名所、函館山。
世界三大夜景とも称される夜景を一目見ようと大勢の観光客が訪れる人気の観光地です。
その山のふもとにある「西部地区」と呼ばれるエリアでは、歴史的な洋風建築が建ち並び、風情ある町並みを眺めながら歩く観光客の姿が見られます。
<函館市西部地区20町>

近年、古民家を改装したおしゃれなカフェも相次いで開業していることもあり、若い女性を中心として人気が高まっています。
一方、その背後で進んでいる問題が、「人口減少」です。

西部地区は、北海道の開拓時代には行政の中心地として役所などが置かれ、その後も病院や銀行、デパートなど、多くの公共施設や商業施設が建ち並び、商店街も充実していました。
函館市の人口が最も多かった1980年には、西部地区の人口は4万4478人いましたが、2015年の調査では2万318人と54.8%減少しました。
市内でも人口減少のペースが早い地域になっています。
<函館市の人口>
1980年(国勢調査による)
市内全体 345,165人 ※函館市の人口のピーク
西部地区 44,478人
2015年(国勢調査による)
市内全体 265,979人(1980年比で-23.2%)
西部地区 20,318人(1980年比で-54.8%)
2022年(住民基本台帳による 6月末時点)
市内全体 246,014人(1980年比で-28.7%)
西部地区 17,733人(1980年比で-60.1%)

人口が減少するのに伴って、空き家の数も増加していきました。
生活に欠かせない施設も移転や撤退が相次いでいます。
市によりますと、ことし4月1日時点での市内全体の空き家の数は1326棟。
このうち、西部地区の空き家は394棟あり、29.71%に上っています。
市内全体をエリア別で分けると最も空き家の数が多くなっているのです。
<函館市内の空き家 2022年4月1日時点>
函館市全体 1326棟
西部地区 394棟(29.71%)
中央地区 332棟(25.03%)
東央地区 176棟(13.27%)
北東地区 181棟(13.65%)
北部地区 58棟( 4.37%)
東部地区 185棟(13.95%)
函館市は2019年に西部地区の住民に対してアンケート調査を行いました。
この中で、西部地区に「暮らしやすい」と答えた人は年代が上がるほど高い傾向が見られ、理由として「景観や町並みが美しい」とか「自然が豊か」など、地区全体の雰囲気に魅力を感じる人が多くなっています。
一方で、若年層では「ほかの地域へと移りたい」とか「できれば住み続けたいが難しい」と答える人が多く、「利便性が良くない」とか「高齢になったときに不安」といった理由を挙げていました。
実際に西部地区に長年住んでいる市民は、地区の変化をどのように考えているのか。直接聞いてみると衰退に不安な声が上がりました。
(70代男性)
「さみしいですよ、やっぱり。空き家も増えないでほしいし、お店も減らないでほしい」
(60代女性)
「お店とかも閉めているところがいっぱい出てきているし、銀行だってなくなったし、だんだんと不便になっています」
(50代女性)
「本当に買い物に困っています。五稜郭のほうや美原地区のほうにバスに乗っていくとかして買い物にいかなければいけません」
こうした現状を背景に、函館市は西部地区を再び活性化させようと、2017年から再整備事業を本格的にスタートさせました。
2019年には、再整備に専門的に取り組む「西部まちぐらしデザイン室」という部署を新設しました。
函館市の工藤寿樹市長は「函館市の戦後最大の事業になる」と力を入れていますが、再整備には大きな課題があると指摘しています。

函館市 工藤寿樹市長
「今の状態ままでは不動産売買の対象にならないような土地や家屋が結構ある。現代の暮らしの中ではいろいろと困難な問題が生じている」
工藤市長が課題としてあげる「不動産売買の対象にならないような土地や家屋」。
これらは「低未利用不動産」と呼ばれます。

低未利用不動産とは、道路に面していなかったり、狭かったりして、新しく家や商店を建てようとするには利用が難しい土地や家屋のことです。
北海道の開拓時代から長く生活が営まれてきた西部地区では、こうした狭小の土地や家屋が数多く存在していて、再整備を進める上で大きな課題となっています。
さらに、市によりますと、相続した人が不動産登記を行っていなかったり、所有者がすでに亡くなっていたりして、現在の所有者が分からなくなるなど、土地や家屋が放置されるケースも増え始めているということです。
函館市はこうした「低未利用不動産」を含む、市内にある空き家所有者に対してアンケート調査を実施しました。
その結果、「空き家を今後どうしたいか」という質問に対して、58%が「解体したい」と答えていて、さらに33%が「売却したい」と回答しています。
こうした所有者の意向を背景に、市は、この「低未利用不動産」について、所有者と交渉して土地や家屋の整理を行う方向で調整を進めています。

具体的には、土地や家屋を整理することによって利用価値が高くなる15の地点を再整備の優先地域として「重点整備街区」に設定し、毎年1地点か2地点ずつ、所有者を特定したうえで交渉を行い、整備を進める考えです。
最終的には利便性の高い地域へと再整備していくとしています。
函館市 工藤寿樹市長
「不動産として市場に流通させるためには、土地の区画をまとめていかなければならない。それが不動産業者では無理なんだろうと思っている。やっぱり市としてきちっと住民の理解を得て、その信用力をバックに事業を進めていく必要があるのかなと考えている」

さらに西部地区では、地区の魅力を高めようという動きも出てきています。
今月9日、元町公園ではマーケットが開かれました。
西部地区に店を構える飲食店やアクセサリーショップの運営者などで作る、有志の団体が企画したものです。
マーケットでは、子どもたちがアクセサリー作りに挑戦したり、地元の味覚を楽しんだりしていました。
最近、西部地区ではこうした住民参加の催しが開かれることが増えてきています。

さらに元町公園に保存されている「旧北海道庁函館支庁庁舎」の建物を活用した新たな事業も始まります。
「旧北海道庁函館支庁庁舎」は、1909年に道の支所として建築され、観光案内所や写真館としても活用されてきました。
来月には地元の洋食店が入居して、リニューアルオープンする予定です。
いずれの事業も仕掛けているのは、市などが出資して設立した第三セクター「はこだて西部まちづくRe-Design」の北山拓代表です。
北山代表は、市民が西部地区に訪れる頻度を高めることが重要で、利用者が増えることで商業施設を誘致できる土台になると考えています。

はこだて西部まちづくRe-Design 北山拓 代表
「函館西部地区の地域資源というのは、非常に魅力的なものだと思っています。それがうまく地域内外の方に発信されて、ブランド価値が上がっていく、エリア価値が上がっていくというような取り組みを、私たちが主体となって進めていきたいと思っています」
工藤市長は、空き家対策を進めて、居住者を増やすことで、結果として民間の事業者が進出し地域経済が活性化していくと考えています。

函館市 工藤寿樹市長
「新たに西部地区に魅力を感じて、住んでくれる人が増えてきています。商業施設やレストランは、人が地区に住めば商業施設や事業者は進出してくると考えています。市としても商業施設の誘致も同時並行的に進めていきたい」
函館発祥の地とも言われ、その歴史的な背景や雰囲気に多くの人が魅了される西部地区。
観光客にも人気の地区から“ひとけ”が無くなったとならないよう、行政だけではなく、市民も一体となって再整備を進めていく必要があると思います。
取材:川口朋晃
2013年入局、小樽支局を経て2018年から函館局に勤務。
市政や新型コロナウイルスの地域への影響などを中心に取材。
2022年7月21日
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