NHK札幌放送局

「私の声を残したい」高校生たちが追ったALS患者の親子の絆

ほっとニュースぐるっと道東!

2023年5月2日(火)午後6時00分 更新

第69回NHK杯全国高校放送コンテスト、テレビドキュメント部門で 優勝したのは北海道帯広三条高校の作品「Say」。失われゆく声を残そうとする ALS患者の女性と介護をする「ヤングケアラー」の高校生の息子を追った約8分間のドキュメンタリー作品でした。 『ありのままを伝えたい』。作品はどのように作られたのか?制作した生徒たちを取材しました。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)
▶声帯を含めた全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病

「Say」


作品に込めた思い

テレビドキュメント部門で優勝した作品「Say」を制作したのは、帯広三条高校の放送局の生徒たち。その名の通り、放送局では、アナウンスや番組の制作などを行っていて、現在は9人が所属しています。

「放送室」と書かれたドアを開けると、所狭しと並べられたトロフィーや賞状が目に飛び込んできました。

早くも圧倒された気持ちで部室の奥へと入っていくと、そこには手慣れた様子でカメラや編集ソフトを操作する生徒たちの姿が。

活動を少しのぞいてみると…

見て下さい、この真剣な表情。

試写が終わると、テロップのタイミングやナレーションの入り、質問と答えの間などに関する意見が飛び交い、生徒たちが細部にまでこだわって作品を作り上げていることがわかります。部室の一角には、さらにそれが伝わるものが。

ホワイトボードにびっしりと書かれた文字。書かれているのは「Say」の構成表です。

「番組を映像として見ることも大切ですが、こういう風に構成でおかしくないかなって何度もチェックしていました」

教えてくれたのは、帯広三条高校3年、鈴木沙有理さん。「Say」を中心となって制作しました。


仁美さんとの出会い

鈴木さんが「Say」を制作するきっかけとなったのは、病気で失われていく声を残そうとするALS患者の女性の新聞記事でした。記事を読み、「ALSの問題と声を残すという取り組みを主軸にしたドキュメンタリーを作ろう」と思った鈴木さんは、取材を申し込みます。

女性の名前は佐藤仁美さん。

鈴木さんは、仁美さんと初めて会った時は「緊張でいっぱいだった」と言います。そんななか、母親である仁美さんの介護をしている同じ高校生の謙太郎さんの存在を知ります。そこで、鈴木さんはALSと声を残す取り組みに加えて「ヤングケアラー」の問題、3つをテーマにドキュメンタリーを制作することに決めました。


「ありのまま」を伝えたい

「仁美さんや謙太郎さんの思いに触れて、私自身も言葉に言い表せないような感情になって、泣きながらインタビューしていたこともありました」と鈴木さんは振り返ります。お互いにまっすぐに向き合って取材を重ねることで、仁美さんや謙太郎さんとの間には、少しずつ信頼が生まれていきました。

鈴木沙有理さん
「仁美さんが『沙有理ちゃんが来てくれたから元気が出たわ』とか『私の娘のようなんだよね、沙有理ちゃんは』と言って下さったり、謙太郎さんも『制作頑張って下さい』と励まして下さったりとか。本当に皆さんの暖かい人間性のおかげで、信頼関係を築くことができたんだなと感じています」

ただ、ドキュメンタリーの制作では悩むこともあったといいます。

鈴木沙有理さん
「例えば、仁美さんの生理の介護を謙太郎さんがなさっているというインタビューの話だったりとか。進行していくALSの症状の理不尽さに仁美さんが涙を流すシーンなど、本当に使わせていただいていいのかなって」

その時、背中を押したのは仁美さんと謙太郎さんへの思いでした。

鈴木沙有理さん
「お2人の暖かい人間性や前向きな言葉に触れて、私自身もすごく元気をもらいました。だからこそ、私ができることは、ありのままの姿を伝えることだと思ったんです。ありのままを伝えることが、ドキュメントとして大切なことなんだと気づいたんです」

悩んだ末に出した答え。

作品を振り返って、鈴木さんは「『ヤングケアラー』という言葉だけは知っていても、その現状だとか、仁美さんのようなALSの方のお気持ちだとかは、当事者のお2人でしか話せないことや場面があると思います。それをありのまま伝えたからこそ、たくさんの方の心に残る作品になったんだと思います」と話していました。


「放送局」から「放送局」へ?

8月19日。この日、放送局は大事なお客さんを迎えようと準備をしていました。そのお客さんとは…。

そう、佐藤仁美さんです。鈴木さんたちが制作した「Say」が「NHK杯全国高校放送コンテスト」のテレビドキュメント部門で優勝したことをお祝いしたいとの思いからやってきました。「全国大会優勝記念!」と書かれた大きな胡蝶蘭が贈られると、生徒たちからは歓声があがっていました。仁美さんは、鈴木さんから優勝を記念した特製のDVDと取材での思い出や感謝の言葉をつづった手紙を受け取ると「本当にありがとう」とうれしそうに応えていました。

今回の優勝に対して、仁美さんはどう感じているのでしょうか?聞いてみると…。

「鈴木さんを自分の娘のように感じていたので、優勝したと聞いたときは涙が出るほど嬉しかったです。高校生が作ったとは思えないほど立派で、見たときは圧倒されました。生徒たちのこれからの活躍を期待しています」と終始温かな表情で話していました。

ドキュメンタリーの制作やコンテストを通して、鈴木さんは「社会的に弱い立場にある人の声や世の中に伝わらなければならない情報を伝えたい」という気持ちが強くなったといいます。マスコミ関係の仕事への就職も考えているという鈴木さんは「メディアを通じて人々の思いを伝えることで、少しでも貢献していけたら」と晴れやかな表情で話していました。

2022年8月31日
帯広放送局 嘉味田朝香

帯広三条高校が優勝 NHK杯全国高校放送コンテスト
高校生の作品に出演した難病女性 放送コンテスト優勝を祝福
NコンWEB
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