NHK札幌放送局

私は“AI脚本家”です。函館発ベンチャー企業の挑戦

道南web

2022年4月13日(水)午後5時32分 更新

ことし3月、ある映画が公開されました。
トマトが食べられない少年の背中に植物の芽が生えるという少し不思議なストーリーのこの映画。
実は脚本を手がけたのはAI=人工知能。創作への分野に進出しはじめたAI。
その実力とは!?

“AI脚本家”の映画とは

 ことし3月、大阪で開かれた映画祭で公開された「少年、なにかが発芽する」。脚本を手がけたのは、AIです。

主人公はトマト嫌いの少年。母親が作ったトマトパスタや、学校での給食で出されるトマトが食べられません。するとある日、少年の背中から植物の芽が生えてきます。

トマトを食べさせようとする母親と少年のストーリーで、ややホラーテイストともとれる内容の30分ほどの短編映画。

AIが手がけた脚本を基に製作された映画が公開されるのは国内で初めてです。

観客
「まさか少年から本当に芽が生えてくるとは思わなかったから、おもしろかったです。AIが考えていたのであればすごいというか人間と変わらないというか、発想が人間超えちゃっているかもしれないですよね。突拍子もないことを考えるのが、すごいなと思いました」
映画製作関係者 多和田紘希さん
「見終わったときに、どこまでAIがやったのかとか、いろんな質問が寄せられました。観た人が脚本家のAIを想像してくれるのがうれしいです。このアイデアがAIなんじゃないか、AIだからこういうストーリーなんじゃないか、みたいなことを考えることは今までの映画史で1回もなかったことなのですから」

“AI脚本家”は函館発!

“AI脚本家“を開発したのは、函館発のベンチャー企業「Ales」です。開発の中心を担ったのは「公立はこだて未来大学」の特任教授、松原仁さんです。松原さんは「第2次AIブーム」とも言われた1980年代からAI研究に携わり、将棋好きの人なら一度はプレイしたことがあるであろうパソコンゲームの「AI将棋」の開発などに携わってきました。

今回のAI脚本家で松原さんが目指すもの、それはこれまで難しいとされてきたAIの“創造性”への挑戦です。

松原さんは10年前から、ひとつの挑戦をしています。

「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」

一風変わった名前のこのプロジェクトは“AI小説家”を誕生させようと始めたものです。短い小説作品「ショートショート」の名手、星新一さんの作品全編を分析し、AIに小説を創作させるという研究です。

6年前には「コンピューターが小説を書く日」というタイトルの短編小説を「星新一賞」に応募し、1次選考を突破したことがメディアにも取り上げられ話題となりました。

今回の“AI脚本家”はそれに続くAIによる創造性への挑戦です。

松原さんは作品が直接読み手に届く小説よりも、映画監督など人が手を加えて作品を完成させる脚本の方が、AIの発想の活用の幅が広がると感じたと振り返ります。

松原仁さん
「AIを人間に近づけたいと思っているけど感性や創造性というのは難しい。
だから、今のAIの進展とか使い道を見て、監督などの人間の手も加わる脚本がいいかなと思いました。
ちょっと人間が補ってあげればいいコンテンツになる可能性があるかなと」

“AI脚本家”の仕組みとは

(仕組み①)

そして開発に挑んだのが、今回の“AI脚本家”「フルコト」でした。

「フルコト」は「ディープラーニング」と呼ばれる、膨大なデータをコンピューターに学習させる手法で多くの小説や脚本などを読み込みます。そして、「海」という単語に対しては「泳ぐ」「青い」など類推される単語を学んでいきます。

(仕組み②)

単語のつながりを学習したAIに対して、人間が60文字程度のあらすじを入力します。AIはこのあらすじを起承転結に4分割し、さらに分解して長いストーリーを生み出していきます。これはプロの脚本家も行う「箱書き」という方法です。

(仕組み③)

さらにAIは、ことばごとにイメージする感情をプラスとマイナスで分析していて(プラス=安心する・喜ぶ・笑顔など/マイナス=怒る・泣く・しかめっ面など)、この感情の値を設定することでストーリーに起伏がつけられるようにもなっています。

“意味”を見いだすのは人間の役割

今回の映画製作に関わった多和田さんはこのAIを活用して、「トマト嫌いの少年が、トマトを食べられるようになる」などといったあらすじをAIに入力する作業を繰り返しました。

AIは瞬時にストーリーを生成していきますが、ストーリーとして成り立たない支離滅裂なものも多く、試行錯誤を繰り返しました。中には、少年が主人公なのに突然、「やさぐれた青年」が登場するなど、驚きもあったといいます。

こうした作業の中、多和田さんが注目した1文がありました。それは「少年、なにかが発芽している」という一文です。

多和田紘希さん
「これは使いたいなというのが出てきて。ちょうどAIらしい破綻具合で、想像できなくもないし、支離滅裂とは言えないぐらいのアイデアでした」

この1文を含んだ文章を軸に映画を製作することにしました。しかし、映画製作は脚本を元に映像やセリフを肉づけしますが、脚本家がAIの場合は意味やねらいを聞いたり議論したりすることはできません。そのため、人間が想像力を膨らませて、映像やせりふを考え映画の完成にこぎ着けました。多和田さんは、AIの存在によって、新たなアイデアが引き出されたと語ります。

多和田紘希さん
「AIに向き合うことで、これは思いつかなかった発想だったというのは、自分が一番分かるんですよ。僕としてはやっぱり自分が思いつかなかったことのほうがおもしろく感じるんですね。自分の中に引き出しがあると、人がよく言うじゃないですか。でも自分の引き出しの中身なんて、ちゃんとすべてを見つめた人なんていないと思うんですよ、目で見れないわけだから。そういうものが引き出しを開けてくれるのがこのAIという印象です。いわば、インスピレーションを与えてくれる存在です」

今後は、学ばせる作品を増やすなどして、AIの精度を上げて、2時間ほどの映画の脚本をつくれるようなシステムにしたいとしています。

松原仁さん
「創造性という、人間にはあってAIにはないと思われるものに、踏み込むきっかけとしては、結構いいところいってるのかなと思います。でも脚本を生成するAIとして見た場合は、まだまだ。脚本もどきをたくさん出して、人間のサポートをしているというところから、いつか人間の琴線に触れるものが多く出てくればいいなと思います。AIの脚本だとこんなぶっとんだ変わった映画ができるとか、変わった小説ができるのか、変わったアニメができるとか、我々が楽しむコンテンツの幅が増えればいいなと思います」

目指すAIの最終形は“鉄腕アトム”

松原さんが「AI×創造性」にこだわる理由には、少年時代に見たアニメ・「鉄腕アトム」の存在があります。

松原仁さん
「僕がすごい印象に残っているシーンが、アトムがいじけるシーンなんですよね。人間が何か美しいって言ってるのが僕にはわからないんだよ。所詮、僕は人間になれないんだっていう、いじいじするシーンがあって、子供心に『これはすごいことを言ってる。感情を持っているのではないか』と。そのシーンがずっと強く残っています。それが私の原点です。ちゃんと我々がAIやロボット研究をすれば、感情を理解できるアトムのようなお友達で、味方のものができるというのは信じているし、それを示すためにも、「AI×創造性」の研究に挑戦し続けて、アトムにこだわりたいなと思いますけどね」

松原さんはみずからが携わったAI将棋が発展を遂げたように、AIが創造性の分野でも飛躍できると考えています。

松原仁さん
「将棋AIは40年ほど前の学生時代に将棋の研究していたときに『僕いつか誰かが作ったプログラミングで、名人に勝つ』と言っていたんですけど、周りの人はみんな剣もほろろで。『そんなこと起きるわけないよ』と。でも、今の現実を見たら、できたじゃないですか、40年がたって。このフルコト(開発したAIシステム)が40年もかからずに、創造性を持ったと言えるようになってほしいとは思います」

西田理人(函館放送局記者)
2017年入局

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