NHK札幌放送局

紅葉に染まる大雪山、守る人々

ほっとニュースweb

2021年10月8日(金)午後6時48分 更新

『紅葉に染まる大雪山、守る人々』紅葉の名所として知られる大雪山国立公園。 「北海道の屋根」ともいわれ、山岳公園として日本最大の面積を誇ります。 総延長300kmにもなるとされる広大な大雪山系の登山道を守るべく、活動をしている人々を取材しました。 

秋の紅葉 “見たことがないほどの美しさ”

標高1400メートルにある「高原温泉沼めぐり登山コース」は、紅葉したナナカマドやモミジが、コース内に点在している沼の水面に映り込む絶景もみることができます。今年は特に紅葉の色づきがよく、登山歴30年近くの熟練の登山者でもみたことがないほど、美しい秋の絶景が広がっています。

大雪山系の自然を存分に楽しむことができる紅葉の時期には、年間登山者の半数にあたる約2000人の登山者がこのコースに入り、周辺の環境には大きな負荷がかかってしまいます。

山を守る大雪山・山守隊

 こうした中、登山道や山の環境を管理しているのが、岡崎哲三(おかざき・てつぞう)さんです。高校卒業以来26年間、大雪山の登山道を整備してきました。現在は一般社団法人「大雪山・山守隊」を結成し、助成金や団体の会費を活用しながら、他の整備員と共に山の管理をしています。

自然の形に合わせた登山道整備をする

これまでは登山道を直すときは「土木工事」の考え方が主流でした。規則正しい配置の階段や、コンクリートや石畳路面など、およそ自然界に存在しない構造物をもとにした施工が多かったと岡崎さんは話します。これに対し、岡崎さんは自然の地形に合わせて登山道を整備する「近自然工法」という方法を実践しています。この方法により、登山道を歩きやすいようするだけではなく、登山道周辺の生態系も保全できます。

施工前、荒廃が進んだ登山道。植物も生えなくなってしまった。
施工から10年経った同じ場所。地形に合わせて石の階段を作り、植物も復元した。

答えは自然の中にある

岡崎さんが恩師にかけられた言葉に岡崎さんの原点があります。20年前に岡崎さんはこの言葉の持ち主である故・福留脩文(ふくどめ・しゅうぶん)さんに出会い、近自然工法を学びました。 

登山道整備の師匠 故・福留脩文さん

福留さんの言葉からどんなに崩れた登山道でも、道をよく観察し、知識とアイディアを持ち寄って施工をすれば、その自然は復元する可能性があると知りました。 

岡崎さん
「自然の中にあるシステムや行動をよく観察して、施工に取り入れる。そうすることで、大きく崩れた登山道も復元する可能性が見えてきます。実際に施工を続けて、自然が治っていく様を見ると、近自然工法が国立公園や自然復元に取り入れられるようにしなければいけない、と強く思います。」

岡崎さんは普段から登山道をよく観察し、特殊な道具がないときでも石や木片を使いながら道を整えます。

取材中、登山道に垂れ下がった枝を見つけました。岡崎さんは、近くから運んできた石で茂みの根っこを持ち上げました。少しの手間とアイディアで、枝を切ることなく、登山者のスペースを確保しました。

ボランティアと共に進める登山道整備

自然と人間がともに歩む方法を考える岡崎さんに共感する人が多くいます。山守隊は登山道整備に使う資材の荷上げや実際の整備活動を多くのボランティアと共に行っています。取材中にも整備員と登山者が一緒に登山道を直していました。

山守隊を手伝う登山者
「ちょうど通りかかったら山守隊が登山道を直していたので一緒に手伝って、ちょっと直しました。やっぱり自然にほっといたらどんどん道が悪くなりますので、登る人も何か手伝うことがあればやるほうがいいかなと思います。」

山を楽しみながら良くしていく

協力者の中から実際に山守隊の運営に参加してくれる人も現れました。下條典子(しもじょう・のりこ)さんです。

大手アウトドアメーカーに勤めていた下條さん。学生時代から続けていた登山に没頭していましたが、あるとき「自分は山を楽しんでばかりで、環境を傷つけている一方なのではないか」と疑問が生じました。そうした中、岡崎さんに出会い、登山道整備をはじめました。

 下條さん
「山を楽しみ続けているだけでは、登山道が崩れていく一方です。この素晴らしい景色を自分だけではなくて、まだみたことがない人や後世に伝えるためにも、同じ気持ちの登山者と協力して、山の保全を続けていきたいです。」

山に生きるのは人だけではない

撮影中、取材班の歩みを突然岡崎さんが静止しました。

岡崎さん「静かにして。ヒグマかもしれない。」耳を澄ますと、近くの茂みからガサガサと音が聞こえます。大雪山系の登山道はヒグマの生息地域。登山者がヒグマの存在に気がつかないまま5mの距離で遭遇することもあります。
現場に一気に緊張感が走ります。
岡崎さんはヒグマにこちらの存在を知らせるために大きな声を上げます。今回茂みにいた動物は、幸いなことにシカの親子でしたが、山で活動している間は油断禁物です。実際に高原温泉沼めぐり登山コースでも、今年93件のヒグマ報告が寄せられています。

登山道に設置されたカメラがとらえたヒグマの写真

人とヒグマの共存を模索する

こうした現状を受け、岡崎さんは下條さんや他のメンバーと共に登山者にヒグマ対策もレクチャーしています。人とヒグマが適切な距離を保ち、共存する環境を実現するために、コース内の巡視も行っています。

登山者にヒグマ対策をレクチャーする下條さん
岡崎さん
「現在は人とヒグマの距離がすごく近くなってしまい、様々な場所で問題が起きています。その部分だけみてしまうと、ヒグマとの共存は無理なんじゃないかって思ってしまうかもしれません。けれども、人間が自然に入るのはやめようと言うつもりは全くありません。人間が自然を知ることで、人の生活にも自然が本当に必要なんだなっていうのが一番わかるはずだからです。そのために登山道があり、山を歩くことができると思っています。登山道整備をしながら、ヒグマが山で遊んだり子育てをしながら生きている様子をこの山で見てきました。人間とヒグマが適切な距離をとることで、この登山道がヒグマとの共存を考える場所になってほしいです。」

生態系を保全する登山道整備に加え、岡崎さんは山に生きる動物たちと人の共生も考えています。

深刻化する山のトイレ問題

岡崎さん達は登山客に利用してもらう携帯トイレブースを作るための木材を運び上げました。 岡崎さんは決まった場所がないと、登山者が用を足しに登山道を外れてしまい、そこに生きる希少な高山植物が踏まれてしまうと指摘します。

道を外れた登山者によって出来た道

実際に大雪山国立公園では、登山中のトイレのあり方が大きな問題となっています。登山者が排泄をするために登山道以外の場所を歩くことで高山植物が減少しています。またこのような踏み分け道の伸張により、土壌の流出も起きています。岡崎さんが整備を進める高原温泉沼でも、登山者が茂みに入り、植物が踏まれた後がありました。こうした問題を防ぐためにも、登山者は決められた場所で携帯トイレを使い、登山中の排泄物を持ち帰ることが求められています。

ティッシュや排泄物が山に残され、環境を汚染する

携帯トイレブースの設置を

専門の業者に携帯トイレブースの建設を委託すると、建設費が非常に高額となってしまうため、岡崎さんは自らトイレブースを設計し、総重量200kg以上の資材を他の整備員やボランティアと運び上げました。登山者が多く訪れる紅葉シーズンに間に合わせるべく、作業を急ぎます。

地形をよく観察し、近くの沢から調達した石などで水平を整えながらトイレを設置します。降り出した雨の中、山の環境を守るためにも、登山者にとって快適な携帯トイレブースの設置を目指します。作業を始めて5時間、木の香りがする携帯トイレブースが完成しました。

岡崎さん
「気持ちよく使える環境を整えるっていうのが、管理に携わっている物としての役割だと思うので、適当な物を作ったから使ってちょうだいっていうよりも、いい物を作ったので自由に使ってくださいの方がいいのかな。」

国立公園の新しい管理の仕組みが必要

こうした整備活動をする岡崎さんは広大な国立公園を管理する新しい仕組みが必要だと話します。
現在、国立公園は「協働型管理運営」という方式をとっています。多くの場合、山の整備は民間の事業者やボランティアや自治体などがそれぞれの持ち場を担当しているのが現状です。およそ300kmある大雪山国立公園の山道は岡崎さんのような整備員や避難小屋が各地で整備を行ってきましたが、それだけでは管理が行き届きません。

 岡崎さん
「管理者によって登山道にかける予算も違うし、方針も違う。国立公園と一言で言ってもその中の管理は結構バラバラ。管理者である行政も登山者も民間団体も研究者もいろんな人と一緒に一丸となって、国立公園を運営できる仕組みを作ることが大事だと思います。」

岡崎さんの原動力

登山道整備に奔走する岡崎さんの原動力は一体何なのか?
わたしの問いかけに岡崎さんは穏やかに答えてくれました。

「原動力は怒りですよね。好きな自然がどんどん崩れていくのに、整備による復元が追いついていません。本当はこの自然を後世に残していかないと行けないのに、それができていない状態です。」
「この大雪山があって、雪が降り、川が流れて、そこに土が流れて、田んぼなんかもできている。山って楽しいだけではなくて、生活している人は山と関わっている。そういう意味を込めて、山に恩返しをしたいです。」

今ある自然を愛し、慈しむからこそ、見えてくる厳しい現実。
自分たちにできることは何か、岡崎さん達の姿勢から問いかけられていると思う取材でした。

 
(取材・撮影)前川フランク光カメラマン
札幌放送局
放送日10月1日

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