1972 SAPPORO VR Project
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VR制作プロフェッショナルに聞く VRの作り方

「1964 TOKYO VR」や「1972 SAPPORO VR」で、実際にVR作りを統括しているNHKエンタープライズの伊達吉克。普段は主にNHKの番組でCG制作や映像演出を担当している伊達にテレビやVRへの熱い思いを聞きました。

伊達吉克

新たな映像演出への挑戦に、“やり過ぎ”はない

―最近はどんなお仕事をされていますか?(※インタビュー実施は2月中旬)
伊達:
最も時間を割いているのはNHKスペシャルシリーズ「2030未来への分岐点」の制作です。今年1月から放送していまして、全5回シリーズの3回目を現在制作中です。若手俳優の森七菜さんがナビゲーターを務め、世界が直面している環境問題をルポ。世界規模の課題の「分岐点」といわれる2030年。この10年の間に、どうすれば危機を回避し、持続可能な未来を実現できるのか、「温暖化」「水・食料問題」「プラスチック汚染」の観点から考えるという番組です。私は映像演出を担当しています。ボリュメトリックスキャンとCGの技術を駆使して、森さんを100年後の日本にお連れしました。


ー「ボリュメトリックスキャン」で100年後の日本?どんな技術ですか?

伊達:
通常はお芝居をカメラで撮影すると、完成した映像は撮影したカメラの視点でしか見ることができませんよね。でもこの技術は、人や場所含めその空間をまるごとデータ化し、映像の視点は後から360度自由に設定できるというもの。以前、ワールドカップサッカーの放送で、カメラ位置にとらわれず、自由な位置や角度から試合観戦できるという「自由視点」の技術が話題になりましたよね。その精度を上げて、ドラマに導入したものと考えていただけると分かりやすいと思います。


ー少しイメージが湧きましたが、もう少し詳しく教えてください。

伊達:
今回は、森さんにお芝居して頂いて、その様子をボリュメトリックスキャンを用いてデータ撮影しました。まずは150台のカメラで森さんを撮影。撮影した映像を1つに合成すると、どの方向からでも、服や髪の毛等の細かい動きまで森さんを再現できるんです。そして100年後の世界をCGで描き、そこにデータ化した森さんを合成します。カメラワークも自由自在なので、現実にはあり得ないようなことでも実現可能です。バーチャルな映像ですね。でもかなり精度は高いので、遠目に見るとCGなのか本物なのか分からないと思いますよ。


ー特殊な映像演出をされているのですね。他にはどんなことを?

伊達:
他には「インフォグラフィック」と言って、データや情報を分かりやすく視覚的に表現するというのも大事な仕事です。ニュース番組でも、よく情報をグラフやイラスト化した説明CGを目にすることがあるかと思いますが、今回の「NHKスペシャル」では、インフォグラフィック単独でも小作品になるような、それだけで見ても分かりやすく面白いコンテンツにしようと思い制作しました。
例えば、第1回「暴走する温暖化 “脱酸素”への挑戦」では、温暖化で水位が上がる影響で、現在日本にある海岸の80%が、90年後には無くなってしまうという情報をお伝えしました。普通は、グラフで見せたりしますよね。それでも伝わるけれど、本当の意味で見る人の心には響かないのではないかと。環境問題を解決するには、人が行動を起こすしかありませんので、視聴者の心に少しでも引っ掛かる映像にしたいと考えていました。試行錯誤の末、海岸を空撮し、それをCGで90年後の様子に変化させて見せることにしました。


ー確かに、よく見るのは数値や絵、図で表現するものですよね。

伊達:
そうですね。通常はできるだけ情報を簡素にそぎ落とし、大事な情報をより分かりやすく伝えるよう心がけています。でも今回は、あえて実写を交えました。映像としてイメージしやすい方がより視聴者の心に刺さるのではないかという思いからです。その分手間もかかりますし、そこまでする必要あるの?と思われる方もいると思います。でも僕らはそうは考えていません。“テレビ離れ”と言われて久しいですが、テレビは自分たちが言いたいことだけを言うのではなく、視聴者の心を動かし、見たいと感じてもらえる映像を見せたいという僕らなりの危機感からくるアクションです。NHKスペシャルシリーズ「2030未来への分岐点」では、地球や日本の未来を語っていますが、テレビの未来を描けるかという点においても重要な局面だと思っています。僕らがやっていることの全てが正解だとは思いませんが、テレビも今こそ新たなチャレンジしていかなければと常々考えています。



VRを“自宅で楽しむもの”から、“皆で楽しむもの”に



ーテレビの映像演出の新たなチャレンジをされているんですね。今回の「1972 SAPPORO VR」もそうですが、VR領域でチャレンジを続けられているのも同じ思いからでしょうか?

伊達:
私がNHKに入局したのは、昔NHKの映像を見て自分でもこういう新しい映像を作ってみたいと思ったのがきっかけでした。以来入局して25年間、多様な企画でCG制作を数多く担当してきました。正直、若い頃はこなすのに必死になってしまっていた時期もあって反省もありますが、かつての私と同じように、私たちがつくる映像をみてこのテレビ業界を志してくれる方が少しでも増えたら…そんな思いで新たな映像表現にチャレンジし続けています。
VRを始めたきっかけは、皆さんにNHKに触れていただく接点をつくりたいという理由からです。若い世代の中には、積極的にテレビを見る習慣が無くなっている方も多いですよね。決まった時間にテレビの前に行くのではなく、ついているテレビが面白かったら偶然見るという…そんな感じなのかなと。その一方で、映画等はお金を払って決まった時間に決まった場所に行きますよね。NHKでも、同じかそれ以上の価値を感じてもらえる体験を提供したい。その1つの手段として、VRを使ってみようと考えました。


ー渋谷を舞台にした「1964 TOKYO VR」の制作にも携わっていると思いますが、大切にしていることは何ですか?

伊達:
VRはかなり一般化してきているので、ご自宅でゴーグルを買って楽しむ方も多いと思います。今はオンラインでつながることもできますし、友達同士それぞれの自宅で離れてVRゴーグルを装着したとしても、バーチャルな空間で近くに感じられますよね。
でもあえて、この「1972 SAPPORO VR」はイベント会場(今後のイベント予定はHP等でお知らせします)に足を運んで体験してもらいたいと思っています。会場では、複数台のゴーグルを用意していますが、同時にストーリーが再生されるシステムを構築しています。皆で一緒に体験すると、ゴーグルは別々に装着していても、周囲のリアクションが聞こえてきたりする。よりワクワク感が増しませんか?今や家でもできるVRを、あえて会場に集まって、皆で一斉に体験し、感動を共有する。その方が、皆さんの心により深く刻まれるのではないかと考えています。VRという一見デジタルなツールですが、アナログな温かみを損なうことのないようにと思っています。そして、わざわざ来てよかった、体験して良かったと思って頂ける様な、満足度の高いコンテンツになるようにというのはもちろん大前提で。長くテレビ業界で働いてきましたが、人の心を動かしたい、感動を最大化したいという思いは変わりません。



皆さんからお寄せいただいた500枚以上の写真が、VRに



ー初歩的な質問なのですが…そもそも写真からVRをつくるって、そういう仕組みですか?

伊達:
通常のVR制作はCGを作る工程とほぼ同じですが、今回は作り方が全然違います。皆さんからお寄せ頂いた写真を分析し、建物を1つひとつ形作っていきます。具体的にどんな分析をするかというと、写真がどんなカメラレンズで撮られていて、どんな角度から、ターゲットとの間はどれくらいの距離感で撮影されているか、地道に見定めるんです。
でも、どうしても写真だけでは補えない部分もあります。そんな時は、昔大河ドラマを担当していた頃に習得した「セットエクステンション」という技術を応用します。セットが足りないところをCGで補い、景色がずっと奥まで続いている様に見せる手法です。

VR作業風景
VR作業風景

そしてその技術と同じく不可欠なのが、建築の知識と想像力。NHKの番組でも、古い建築物をCGで再現することは多々ありますのでその時も同じですが、当時の建物の特徴を勉強しています。1970年代の札幌の建物はこういう特徴がある、という知識を持っていると、写真からは情報が足りない部分があったとしても想像して補うことができます。
そして、その予測が正しいかは、当時の航空写真に重ねることで確認し調整していきます。すると面白いことに、大きく外れることはほぼありません。この流れを地道に繰り返してVRを作っています。写真が多ければ多いほど得られる情報も多いので、VRがより緻密になっていくんです。


流れをまとめますね。
① 皆さんから写真が届く
② その中から、カメラの画角が最も分かりやすい写真を選ぶ
③ その写真をパソコンに取り込み、建物の高さや建物同士の幅等を細かく予測していく
④ セットエクステンションの技術も活用して不足情報を補いつつ、平面の写真を立体化する
⑤ 航空写真を重ねて、確認し調整する
⑥ 他の皆さんの同地点の写真から、不足している情報を補ってより詳細に作りこむ


ー今回は500枚以上の写真を皆さんからお寄せいただきました。緻密なVRができそうですか?

伊達:
正直「1964 TOKYO VR」を制作したときよりもたくさんの写真をお寄せいただいて、とても驚きました。こちらの制作が追い付かないくらいです(笑) 皆さんのお陰で緻密なものができると思いますので、楽しみにしていただきたいです。


ー「1972 SAPPORO VR」は何人で作っているのですか?

伊達:
9人です。でも先程工程をご説明した通り、同じ場所を複数人で担当するというのが難しいので、1人ずつ違う地点や、場合によっては建物ごとに担当を分けて作っています。

すすきの交差点VR作業風景



ー今は、何割くらい完成していますか?(※インタビュー実施は2月中旬)

伊達:
50%くらいです。鋭意制作中です。


ー制作していて「1964 TOKYO VR」と違う点はありますか?

伊達:
渋谷は道も狭く複雑なので、見えている狭い範囲をどんどん作りこんでいくとゴールに近づいていく感覚があったのですが、札幌は見通しが良いので、1つのエリアが完成してもなかなか前進した感覚が得られないんです(笑) まだまだ長い道のりだなと感じるというか(笑)
札幌は区画が整備されていて、街が美しくつくられているので、VRの作り方も全然違いますね。



過去を知ることが、未来へのヒントになる



ー北海道の皆さんに、「1972 SAPPORO VR」をどのように楽しんでいただきたいですか?

伊達:
自分たちが住んでいた街が、自分が産まれる前どうだったか、言い伝えを聞くだけでなく、ぜひ自分で“歩いて”“体験”していただきたいです。過去を振り返ることで、未来へのヒントが得られるのではないかと。そして、過去を“体験”することで少しでも過去に興味が湧き、当時を知る世代から話を聞くきっかけになってくれたらうれしいですよね。 自分の子どもや孫の世代にも、今の日本や地球環境って残っているのかなと心配で。少し大きな話ですが、皆が安心して生きていける世界を残したいんです。街の変化に気づけなかったら、知らぬ間に10年後、街ががらりと変わってしまっているかもしれない。知っているか知らないかは大きな違いがあると思うので、きちんと知るお手伝いができたら、VRは1つの手段として有意義なのではないかと思っています。1人でも多くの方に体験していただきたいです。


ー最後に、テレビ業界への思いや若い世代の皆さんにメッセージがあればお願いします!

伊達:
私は普通の人が10年かけてやることを1年、半年…は大げさかもしれませんが、とにかくスピード感を持って何事も習得していきたいし、どんどん新しいことにチャレンジしたいという思いで25年テレビ業界におりました。振り返ると、NHKに入局した当時の自分が想像もしていなかった世界をたくさん見ることができました。表現の自由さは無限大です。組織や会社と聞くと息苦しさを感じる人もいるかもしれないけれど、そういう場所でしかできないこともたくさんあると思います。楽しみや可能性もたくさんあるので、ぜひこの業界を志してくれる人も増えてくれたらうれしいです。

取材後の伊達さん

伊達 吉克
1989 年 NHK 入局。NHK 放送技術局にて、バーチャルスタジオやリアルタイム CG の開発を担当。 「紅白歌合戦」NHK スペシャル「地球大進化」「病の起源」「宇宙の渚」 大河ドラマ「葵-徳川三代」「北条時 宗」「功名が辻」などのテレビ CG 映像制作に従事

2015 年から NHK エンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーとして4K8K 等高精細映像制作支援シ ステム「nep infin(i ネップアンフィニ)」、地球規模のビックデータを CG でわかりやすく可視化する「D.T.E.(Data Transfer Engine)」のなどを開発。さらに NHK スペシャル「シリーズ古代遺跡透視」では、ミュオン素粒子を 使用したスキャンピラミッド計画(名古屋大と NHK 共同開発チーム)に参加し「nature」にて論文を発表した。