G7首脳が広島に残した直筆の芳名録 原爆資料館 視察で何を誓う
- 2023年05月21日
G7広島サミットでは、初日の19日、G7とEUの首脳9人が広島市の原爆資料館をそろって訪れ、約40分視察した後、被爆者と対話しました。その際、資料館の芳名録に肉筆で記帳した内容が公開されています。
首脳たちは広島の被爆者たちが求めた原爆資料館の視察や被爆者との対話で何を感じたのか。首脳肉筆の芳名録のメッセージと被爆者の思いをまとめました。
広島の原爆資料館とは

原爆資料館は、戦後、原爆被害の実態を世界に伝えようと昭和30年1955年に開館しました。「本館」と「東館」からなり、被爆者の遺品をはじめ、原爆の被害を物語る約2万2000点の資料が収蔵されていています。

改築やリニューアルを経て、現在は、黒焦げになった弁当箱や動員中に犠牲になった学徒の制服、被爆した瓦やガラス瓶などの実物の資料が展示されています。また、壊滅的な被害を受けた広島の街や全身に大やけどをした被爆者の写真なども展示されていて、訪れた人たちに原爆被害の実態を伝えています。
「世界に広く訴える最後のチャンス」
サミットの開催前、被爆者たちは、
▽原爆資料館の展示を時間をかけて見学することと、
▽被爆者の証言を聞くことを要望してきました。
背景には7年前、アメリカのオバマ元大統領の広島訪問があります。オバマ大統領の原爆資料館の滞在はわずか10分。ロビーでいくつかの展示資料に目を通しただけでした。また、被爆者とはことばを交わしたものの、被爆体験を聞くこともありませんでした。
被爆者の平均年齢は去年の時点で84歳を超えていて、今回のサミットを「世界に広く訴える最後のチャンス」ととらえている被爆者の方も多くいます。
40分間の視察 被爆者との対話も

G7広島サミット初日の19日、各国の首脳らは原爆資料館を訪れました。G7の首脳がそろって原爆資料館を訪問したのは初めてです。外務省によりますと、岸田総理大臣が展示の内容を説明し、各国の首脳は広島市在住の被爆者、小倉桂子さんと対話したということです。原爆資料館では、各国の首脳などが訪問した際にメッセージを記す芳名録に記帳することが慣例となっていて、今回、首脳たちが肉筆で残した芳名録が公開されました。


岸田総理大臣
「歴史に残るG7サミットの機会に議長として各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」


フランス マクロン大統領
「感情と共感の念をもって広島で犠牲となった方々を追悼する責務に貢献し、平和のために行動することだけが、私たちに課せられた使命です」


アメリカ バイデン大統領
「この資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思い出させてくれますように。世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!」


カナダ トルドー首相
「多数の犠牲になった命、被爆者の声にならない悲嘆、広島と長崎の人々の計り知れない苦悩に、カナダは厳粛なる弔慰と敬意を表します。貴方の体験は我々の心に永遠に刻まれることでしょう」


ドイツ ショルツ首相
「この場所は、想像を絶する苦しみを思い起こさせる。私たちは今日ここでパートナーたちとともに、この上なく強い決意で平和と自由を守っていくとの約束を新たにする。核の戦争は決して再び繰り返されてはならない」


イタリア メローニ首相
「本日、少し立ち止まり、祈りを捧げましょう。本日、闇が凌駕(りょうが)するものは何もないということを覚えておきましょう。本日、過去を思い起こして、希望に満ちた未来を共に描きましょう」


イギリス スナク首相
「シェイクスピアは、『悲しみを言葉に出せ』と説いている。しかし、原爆の閃光に照らされ、言葉は通じない。広島と長崎の人々の恐怖と苦しみは、どんな言葉を用いても言い表すことができない。しかし、私たちが、心と魂を込めて言えることは、繰り返さないということだ」


EU ミシェル大統領
「80年近く前、この地は大いなる悲劇に見舞われました。このことは、われわれG7が実際何を守ろうとしているのか、なぜそれを守りたいのか、改めて思い起こさせます。それは、平和と自由。なぜならば、それらは人類が最も渇望するものだからです」


EU フォンデアライエン委員長
「広島で起きたことは、今なお人類を苦しめています。これは戦争がもたらす重い代償と、平和を守り堅持するというわれわれの終わりなき義務をはっきりと思い起こさせるものです」
対話した被爆者「長く話をした 質問もたくさん」

各国の首脳に対してみずからの被爆体験を英語で証言した小倉桂子さん(85)は8歳の時、爆心地から2.4キロ離れた自宅近くで被爆しました。小倉さんは首脳たちとの対話について「海外から来た人は原爆投下の瞬間について知りたいと思い、ぴかっと光ったとき、真っ白で何もみえない、爆風で立ってられず、地面にたたきつけられたということを伝えました。そのとき見たもの、心で感じたことをそのまま語りました」と話していました。
話を聞いた各国首脳の様子については「興味を持って聞いてもらい、かなり長く話をさせてもらいました。内容は言えませんが、質問もたくさんしてもらいました」と振り返っていました。
その上で「互いに相手の話を聞きながら外交の力でロシアによるウクライナへの軍事侵攻をやめさせて欲しいです。絶対に核を威嚇に使ってはいけない。核のない世界のために広島から一歩を踏み出す宣言をお願いしたいです」と訴えました。
「いかに実現していくかだ」

各国首脳が記帳した芳名録の内容について、14歳のときに被爆し、母親を亡くした広島市佐伯区の森下弘さん(92)は、「核保有国の首脳たちを含め、非常に理想的というか、立派なことを書いている。これをいかに実現していくかが問題でこれから実践してもらいたい」と話していました。
核軍縮に焦点 単独の首脳声明「広島ビジョン」発表
G7各国の首脳らは19日、首脳宣言とは別に、核軍縮に焦点をあてた単独の声明「広島ビジョン」を発表しました。
「広島ビジョン」の冒頭でG7首脳らは、原爆投下の結果として広島と長崎の人々が経験した、かつてない破滅と、極めて甚大で非人道的な苦難を想起させる広島に集い「核兵器のない世界」の実現に向けた決意を再確認するとしています。そして、原爆投下以降、核兵器が使用されていないことの重要性を強調した上で、ウクライナ侵攻を続けるロシアによる無責任な核の威嚇、ましてや、いかなる使用も危険で受け入れられないと非難しています。
また、中国による透明性や有意義な対話を欠いた核戦力の増強への懸念を示すとともに、透明性を確保していくことが重要だと指摘し、核戦力の客観的データを公表していない核保有国にデータの公表を求めています。さらに、北朝鮮の核・ミサイル開発については、国連安保理の決議に従い「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄」という目標への決意を改めて表明するとしています。
そして世界全体で核兵器を減らし続けていかなければならず、NPT=核拡散防止条約は国際的な核不拡散体制の礎石であり、堅持されなければならないとしたうえで、岸田総理大臣が表明した核廃絶に向けた日本の行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を歓迎すべき貢献だとしています。さらにFMCT=兵器用核物質生産禁止条約を求める国連総会の決議採択から30年目にあたるとして、政治的関心を再び集めることを求めるとしています。
このほか、CTBT=包括的核実験禁止条約の早期発効もまた喫緊の課題だと指摘します。そして「われわれが望む世界の実現に向け、道はいかに狭かろうとも世界的な取り組みが必要だ」と強調し、世界各国のリーダーや若者に広島・長崎への訪問を呼びかけています。