広島の若者 被爆者の思い支えにG7サミットと向き合う
- 2023年05月09日
G7広島サミットを前に、広島の若者が署名を集め、3月に外務省に提出しました。サミットで、首脳たちに「被爆者と面会してほしい」「資料館を十分に見てほしい」と要望したものです。署名を集めたのは、この春高校を卒業した岡島由奈さん。ある被爆者の思いを心の支えに、活動を続けてきました。
(NHK広島放送局ディレクター 長岡伶奈)
“核兵器廃絶の議論に生かして”署名集める
この春、大学生になった広島市の岡島由奈さん。インターネットを通じて友人と2人で署名を集めてきました。このなかでは、サミットで広島を訪れる各国の首脳に、被爆者と面会して直接、証言を聞くことや、原爆資料館を十分な時間をとって見学して核兵器廃絶の議論に生かすよう求めています。署名の数は4月26日時点で2万2688筆に上っています。
岡島由奈さん
被爆者の方たちがご存命の間に首脳たちが一堂に集まるのは最後の機会だと思いますので、なんとしても被爆者の方たちの心からの訴えを胸に刻んで核兵器廃絶の議論を進めてほしいです。
岡島さんが「原爆」について考え始めたのは小学生の時。軍司令部のあった広島城に向かう途中で被爆した、軍人だった曽祖父のことを知ったことがきっかけでした。
岡島由奈さん
曽祖父はこの原爆ドームの奥のほうで亡くなったんだと思います。きっと曽祖父が黒焦げになったんだろうとか考えました。自分の血のつながった人が原爆で亡くなっていると知って、少しずつ原爆のことを自分ごととして考えるようになりました。
高校生の時には、「平和大使」として国内外に核廃絶を訴える活動をしてきた岡島さん。しかし、周囲からの思わぬ反応に直面します。「核廃絶をうたうのは平和ボケだ」など、SNSで批判的なコメントが多く書かれていたのです。
岡島由奈さん
内申点稼ぎじゃない?とか核廃絶なんか出来るわけないという批判的なコメントがネット上では多く見られて、ショックでした。
心の支えはもう1人の“おばあちゃん”
「自分の活動はむだなのかもしれない」。自信が持てなくなり、親しい友人にも活動について話すことを避けるようになっていました。そんな時心の支えになったのが、以前から交流を続けてきて「もう1人のおばあちゃん」と慕う被爆者の存在でした。ボランティア活動を通じて知り合った高見藤枝さん、95歳。高見さんは17歳の時に被爆し、左目と両足に大けがを負いました。コロナ禍で会えないなか高見さんからもらった手紙に、岡島さんは勇気づけられました。
「もう忘れんさいと言われた時の胸のうち」「あっさり死んでいたら、今こんな思いをしなくてよかったのに!」手紙には原爆の恐ろしさが忘れられてしまうのではないかと不安がつづられていました。
岡島由奈さん
やっぱり原爆のせいで私の人生は変わってしまったという、原爆に対する憤りと悲しみはいつも書かれていて・・・。あとは頑張ってねってたくさん書いてあります。
いまは施設で暮らす高見さん。新型コロナの制限もとけた4月12日、岡島さんは高見さんを訪ねました。ゆっくり話すのは3年ぶりです。「ゆーなちゃん、元気?」「元気です!!」「大きくなったなぁ。うれしい!」。会話がはずみます。岡島さんは、手紙で励ましてくれた高見さんに感謝のことばを伝えました。
高見さんのことばがグサグサ自分に刺さって・・・。本当にあのとき高見さんが話して下さったおかげで今の自分があると思っているので、感謝の気持ちでいっぱいです。
しっかり後を守ってちょうだい!もう二度とあんなもんが落ちんように。
岡島さんはサミットを前にどうしても聞きたかったことがありました。
もしG7の首脳たちに会えるとしたら、高見さんだったら何をお話したいですか?
戦争しないでください!ということを言います!どこの国もみんなかわいい子どもや大事な親を抱えているのだから。ピカドン!私らが受けた時はピカドンっていうの。それで歩けんようになって・・・。もうあんな目には誰もあってほしゅうない!
岡島由奈さん
痛みや苦しみを知る当事者の声が一番人の心を動かすと思うので、本当に首脳たちには被爆者の方と会って証言に耳を傾けてほしいし、具体的な議論をこの広島サミットでしてほしい。
高見さん自身も岡島さんの存在が支えになっていました。いつも手紙を読み返してるといいます。
高見藤枝さん
こういう手紙をもらったらうれしくて1週間は胸へ抱えています。まだまだ100までも200までも生きてこの子のあとを見にゃいけんと思って一生懸命です。
この春、大学生になった岡島さん。これから平和や国際政治について本格的に学びたいと思っています。
岡島由奈さん
高見さんはもっともっと外に出て、証言活動をしたいはずなのに、ご高齢でできません。でも今の自分は行こうと思えばどこにでも行けます。本当にいまの自分ができることをやっていくべきだなと感じます。