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ひろしまの逸品⑨熊野筆

  • 2023年05月08日

G7広島サミットをきっかけに、世界の人に知ってもらいたい地元のすぐれた逸品を紹介します。今回は、広島を代表する伝統的工芸品「熊野筆」を紹介します。

(広島放送局記者 福島由季)

化粧筆は世界的に評価

化粧筆セット

熊野筆と聞いて、化粧筆を思い浮かべる人も多いかも知れません。2011年に国民栄誉賞の表彰式で、サッカー女子の日本代表「なでしこジャパン」のメンバーに記念品として贈られたほか、2016年の伊勢志摩サミットでは、海外から来たメディア関係者などに記念に贈られるなど、世界的にも評価されています。この熊野筆の原点は、書道筆にあります。

江戸時代 農閑期の行商がきっかけ

広島県西部に位置する熊野町で筆作りが始まったのは、今からおよそ180年前、江戸時代の終わりごろです。農地が少なかったこの地域で、農閑期に収入を得るため、奈良や和歌山から筆や墨を仕入れて販売していましたが、現地で筆づくりを学んで帰った人たちが村の人に作り方を広めていきました。その後、広島藩が工芸を推奨したことから、一大産地に成長。現在はおよそ70の事業者が、化粧筆や書道筆、画筆などを作っていて、筆の生産量は全国で最も多くなっています。

動物の毛の特性を生かす

伝統工芸士の作業

熊野筆は、力強い文字を書ける筆や繊細な文字を書ける筆など、さまざまな表現ができる筆があります。これを支えているのは職人の技術です。熊野筆に使われている動物の毛は、シカやウマ、ヤギなどおよそ20種類。同じ動物でも、体の部位によって、硬い毛や柔らかい毛など、毛の質が異なります。例えば、馬の毛では、尾の付け根に生えている毛は弾力があり、力強い線が書けることから、毛先の部分によく使われます。一方、光沢がある胴の部分の毛は筆の一番外側の「衣毛」(ころもげ)に使われます。さらに、毛が取れた季節や性別によっても質感が異なります。職人たちは、鍛え抜いてきた目や指先の感覚を頼りに、筆の種類に応じて毛の種類や量を考え、バランスよく組み合わせます。職人として1人前になるには10年以上かかるといいますが、その中でも優れた技術を持ち、筆づくりの名人として認められた「伝統工芸士」は現在15人います。

(熊野筆伝統工芸士会 實森康宏会長)
「いろんな毛を混ぜながら、どの辺に使うかによって、筆の毛の強さを調整します。選ぶ毛や使い方が異なれば、まったく違った筆が仕上がります」

横文字も書きやすい小筆

熊野筆事業協同組合では、G7広島サミットをきっかけに、職人の高い技術が詰まった書道筆を世界に発信したいと考えています。特にPRしたいのが、外国の人でも扱いやすく作った小筆です。ペンのように使うことができるように、持ち手の「軸」と毛を短くしました。これによって、横文字やアルファベットを書きやすくしました。私も使わせてもらいましたが、鉛筆のように持つことができ、筆が安定して毛が短いので文字がつぶれにくく、書きやすいと感じました。墨だけでなく、絵の具やインクも使えるといいます。

熊野筆事業協同組合 竹森臣理事長

(熊野筆事業協同組合 竹森臣理事長)
「化粧筆は割と世界的に広まっているんですけれど、書道筆はまだ世界に広まっていません。面白い芸術的な文字や、味のある文字を書くことができるので、魅力を多くの人に知ってほしいです。サミットでは各国の取材陣もたくさん来られるので、発信していく一番いいチャンスではないかと思っています」

  • 福島由季

     広島放送局記者

    福島由季

    2021年入局 広島出身。書道教室に15年通い、熊野筆は生活に身近な存在でした。

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