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広島の被爆者、坪井直さん死去1年 引き継ぐネバーギブアップ

  • 2022年10月26日

長年、国内外で核兵器廃絶を訴える運動の先頭に立ち続けた被爆者の坪井直さんが亡くなってから、10月24日で1年。坪井さんの志を受け継いだ人たちからは、改めて坪井さんの死を悼む声や核兵器廃絶に向けた決意の声が聞かれました。
                 (NHK広島放送局記者 小野慎吾 福島由季 諸田絢香) 

広島の被爆者として、「ネバーギブアップ」という言葉とともに長年、核兵器廃絶の運動の先頭に立ってきた坪井直さんは、去年10月24日に96歳で亡くなりました。坪井さんは、広島の被爆者でつくる広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の理事長を務めたほか、2016年にはアメリカの当時のオバマ大統領と直接、言葉を交わし核兵器の廃絶を訴えるなど、国内外で活動を続けてきました。

原爆慰霊碑に向かう箕牧智之理事長

坪井さんのあとを引き継ぎ、広島県被団協の理事長を務める箕牧智之さんは、平和公園を訪れ、坪井さんの名前が記された原爆死没者名簿が納められている原爆慰霊碑に花を手向けました。

箕牧智之理事長
長い間平和活動に取り組まれ本当にお疲れ様でしたと、慰労の思いを込めて献花しました。世界で核の脅威が高まる中、坪井さんのネバーギブアップという言葉を改めて大切にし、どうすれば核廃絶が実現できるかを考え続けていきたい。

坪井さんの後輩教師 松井久治さん

坪井さんは、かつて教師として原爆の恐ろしさや平和の大切さを語り続けてきました。坪井さんが亡くなって1年となり、後輩の教師からも改めてしのぶ声が聞かれました。松井久治さん(68)は、数学科の元中学教師で、新人時代に勤めた広島市の翠町中学校で当時、教頭だった坪井さんと出会いました。数学科の先輩教師でもある坪井さんからは、子どもたちと同じ目線で向き合うことの大切さを教わり、けんかやいじめなど身近な争いをなくすことが平和への第一歩だと考えるようになったといいます。坪井さんの命日を前に、松井さんは広島市の御幸橋を訪れました。被爆した坪井さんが命からがら逃れてきた場所です。坪井さんに思いをはせながら、静かに手を合わせる松井さん。坪井さんの思いを受け継ぎ、現在、広島市の平和公園で修学旅行生へのガイドを務めています。

松井久治さん
自分の中ではまだ亡くなったという実感が湧いていない。ガイドをするにしても“坪井先生なら何て言うかな”と常に思う。教師としての土台を作ってもらった。平和学習も数学の教科の部分も生徒指導にしても、教師として定年退職を迎えられたのは坪井先生のおかげだと思っている。

しかし、坪井さんが亡くなったあと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などで核兵器使用の脅威が高まっています。

松井久治さん
もし坪井先生が生きておられたら本当に怒り心頭だと思う。“広島に来て、核兵器を使うとこのようなことになるんだとプーチン大統領にも見てもらいたい”と言われるのではないか。私も被爆2世だし、平和公園でガイドをさせて頂く機会も与えられている。原体験は絶対にしてはいけないが、追体験で広島で起こったことを若い世代に伝えていく。核兵器の怖さを知ってもらう活動をこれからも続けていきたい。

坪井さんと松井さんが出会った翠町中学校。10月21日の文化祭で、坪井さんが訴え続けた「ネバーギブアップ」にちなんだ作品が展示されました。この中学校では、40年余り前、教頭だった坪井さんや、松井さんたち教師、それに生徒が一緒になって、原爆の犠牲となった前身の国民学校の児童の遺族の証言などを集めて冊子が発行され、現在も平和学習の教材として活用されています。学校で行われた文化祭で、ことしは坪井さんが訴え続けた、「ネバーギブアップ」にちなんだ作品が展示されました。全校生徒と教職員合わせておよそ700人が紙に一人ひとり名前などを書いて貼り合わせたもので、高さ3メートル60センチ、幅7メートル60センチの大きな厚紙の中に、「ネバーギブアップ」を日本語にした「不撓不屈」の文字などが浮かび上がるデザインとなっています。

作品の企画・制作に中心となって取り組んだ稲田礼さん

文化図書委員長で3年生の稲田礼さん
文化祭と坪井さんの命日が近いということで平和に関する発信をしようという話になり、思い浮かんだのが不撓不屈という言葉だった。作るのは大変だったが、一人ひとりのピースが集まって平和を表す作品ができたのでとてもよかったなと思う。坪井さんが亡くなられて、次世代に伝える私たちが意味を理解して、継承していく活動を続けていかないといけない。坪井さんの活動をむだにしないように、私たちが世界へアピールしていく必要があると思う。

翠町中学校 並川聡之教頭

翠町中学校 並川聡之教頭
坪井先生の精神が、子どもたちにしっかりと根づいていると思う。平和への取り組みを諦めないということも含めて、子どもたちが夢に向かって諦めない、一生懸命頑張るということにつなげてほしい。

高橋悠太さん

福山市出身の大学生で、国内外で核兵器の廃絶を訴える活動を続けている高橋悠太さんは、中学3年生の時に坪井さんの被爆体験を聞き、冊子にまとめました。高橋さんはロシアのウクライナへの軍事侵攻が続くなか、坪井さんが亡くなってからの1年を振り返りました。

高橋悠太さん
核兵器がなぜいけないのかというメッセージを大きな説得力とともに語ることのできる人だった。このような世界情勢で坪井さん始め、被爆者の人の存在の大きさをひしひしと感じる時間だった。

また、ことし8月にアメリカニューヨークで行われたNPT=核拡散防止条約の再検討会議にあわせて核兵器の廃絶を訴えようと高橋さんが現地を訪れた時にも坪井さんのことを思い起こしたといいます。

高橋悠太さん
核兵器に関して全く反対の立場をとる国に向き合うというのは並大抵のことではないと感じたが、坪井さんたちがこれまで頑張って訴えてきたことを考えると、勇気をもらい、励まされることがあった。自然と、坪井さんだったらなんて返答し、どう振る舞うか考えていました。私は私のオリジナルな言葉を坪井さんとの出会いの中からどんどんつむぎ出していきたい。これからも折に触れて精神的な支えになってくれると思います。私の心の中に生き続けている。

「ネバーギブアップ」。諦めず、意見が違う相手とも、対話をしようと言い続けてきた坪井さんの思いは、たくさんの人に引き継がれています。

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