広島県呉市の酒蔵が始めたウイスキー造り
- 2022年06月17日
広島県呉市にある老舗酒蔵がウイスキー造りに挑戦しています。
「ジャパニーズ・ウイスキー」の人気が世界的に高まる中、コロナ禍の苦境を乗り切ろうと取り組んでいます。
目指したのは、“日本酒の酒蔵らしい”ウイスキーでした。
(広島放送局記者 渡邊貴大)
“酒蔵らしい”ウイスキー造り
独特の薄っすらと白く濁った、熟成前のウイスキー。
うまみを残すために、あえて濁りを残しました。
日本酒にも使われる「無ろ過」という製法で、
目指したのは”日本酒の酒蔵らしい”ウイスキーです。
呉市の老舗酒蔵「三宅本店」は、およそ1億円かけて作ったウイスキーの蒸留所を、ことし4月から本格的に稼働させました。
この酒蔵は150年以上の歴史があり、日本酒を全国の海軍鎮守府にも卸していました。
しかし、最近の売り上げは50年ほど前のピーク時と比べて、7分の1まで減少。
そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスでした。
去年の売り上げは感染拡大前と比べて、2割以上減った月もあります。
こうした厳しい環境の中で、活路を見いだそうとしたのがウイスキー造りでした。
「ジャパニーズ・ウイスキー」の人気が世界的に高まる中、
海外の取引先から「ウイスキーは造らないのか」とたびたび問い合わせを受けていたからです。
三宅本店 三宅清史さん
「それだけウイスキーが求められている、イコール、日本での量が足りないんだなと思いました。社員の生活も守らなければならないという危機感もあり、ここがラストチャンスだと思いました」
製法も原料も、ゼロからのスタート
ウイスキー造りは、日本酒とは原料も製法も異なります。
はじめは、全国のウイスキーの蒸留所を訪ねるところからスタートしました。
蒸留所を巡り、製造方法や必要な機材について自らメモを取って知識を蓄えました。
三宅本店 三宅清史さん
「日本酒と違ってお米ではないので、原料は何っていうところから始まりました。
樽も機械も、ものすごい種類がありましたので、どれを使えばいいものか。
蒸留所の設計を決めるところから苦労しました」
おととし、ウイスキー造りに必要な設備を整えましたが、はじめは思うようにいきませんでした。
特に苦労したのは、「蒸留」という作業。液体を蒸発させてアルコール度数を高める工程です。
この作業で重要なのが、「温度」と「圧力」の管理です。
同じやり方であっても、わずかな気温の変化でアルコールの度数に差が生まれます。
日本酒造りにはない作業だけに、3か月以上かけてさまざまな方法を試しました。
ここで生かされたのが、日本酒づくりの技術でした。
0.1度単位で温度を管理する日本酒づくりのノウハウを持つ社員が加わったことで、
毎日の気温にあわせた繊細な温度管理が行えるようになり、品質が安定するようになりました。
ウイスキーが完成するのは来年の春。
1本あたり7000円から8000円で販売する予定で、年間2万3000本の生産を計画しています。
完成はまだですが、日本酒の取り引きのあった海外の事業者からの予約でほぼいっぱいだということです。
三宅さんはウイスキー造りに手ごたえを感じ始めています。
三宅本店 三宅清史さん
「ウイスキー事業は酒蔵のブランド価値を将来的に高めていってくれる柱の1つになってくれればと思っています。追い込まれた崖っぷちを渡りきれるような橋を作ってくれるアイテムだと捉えています」
今後はウイスキーと日本酒の両輪で販路を拡大していきたい。
伝統にとらわれず、新たな道を歩み出した酒蔵の挑戦は始まったばかりです。