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不登校などの小中学生を支援 広島県教委「最適な学びを」

  • 2022年04月29日

    学校に通いづらさを感じている子どもたちがいます。いろいろなことにチャレンジし、好きなことや得意なことを見つけてほしい。広島県教育委員会が新たな居場所を作りました。その名も「SCHOOL“S”」。子どもたちにとってどのようなところになるのでしょうか。

    (広島放送局記者 亀山真央)

    SCHOOL“S”って何?

    「SCHOOL“S”」のオープニングセレモニーが開かれたのは4月。広島県教育委員会の平川理恵教育長はこうあいさつをしました。

    平川教育長
    「SCHOOL“S”は新たな学校のあり方の模索です。楽しそうでわくわくする環境の中で子どもたちが自分の得意なこと、好きなことを再発見したり、突き詰めて自分らしさを発揮したりしながら学びを深めていってもらいたいという思いを持っています。そのためには子どもたちとともに思い悩み、伴走する大人がいることが重要だと考えています」

    「SCHOOL“S”」の“S”は、①児童・生徒が(Students)②自分で選んだ(Select)③秘密基地のように(Secret)④ワクワクする特別な(Special)⑤場所(Space)という意味の5つの英単語の頭文字を取っているといいます。でも、なぜこうした場所を作ったんでしょうか。

    SCHOOL“S”背景は

    県教育委員会は、東広島市にあった不登校などの支援施設をリニューアルし、新たな支援体制を整えました。背景の1つは、不登校の子どもたちが多くいることです。令和2年度の不登校の小学生と中学生の数は県内であわせて4434人に上り、過去5年間の統計を見ても、その数は増え続けています。県教育委員会はこのことに課題意識を持ち、1人1人の学びを支援し社会とつながることができる場を作ったのです。

    どんなところ?

    「SCHOOL”S”」は施設の環境にもこだわりました。コンセプトは“リビングルーム”。「プレイルーム」と呼ばれる部屋には、白と緑のストライプのおしゃれなソファーが置かれています。

    「天文学」「植物」「生物」「郷土」…。さまざまな分野で分けられた本棚があります。図書館のようにぎっしりと本が詰まっているわけではなく、ゆったりと置かれて圧迫感がありません。子どもたちがリラックスしながら自分の興味を深める空間を目指したといいます。「学習室」にある白い机と椅子は、動かすことができます。皆が同じ方向を向いて先生の話を聞く一般的な教室とは違って、子どもたちが向かい合ったり窓際で外を向いたり。自分のペースで勉強してよい場所となっていました。

    どんな学習をするの?

    1番大切なのは、学習の内容です。この日は、SCHOOL“S”の体験会も行われました。

    建物の外に出てみると、古くなった木工製品を紙やすりで削る授業が行われていました。何をつくってみようとか、具体的な目標はありません。削り方について先生が指導することもありません。授業は2時間余り。子どもたちは表面を削ったことで現れた木目をなでたり、見つめたりして、ギリギリまで夢中になって木材を削り続けていました。授業が終わったあとも削っている子どももいました。

    名誉校長 中邑賢龍さん

    授業を担当したのは、SCHOOL“S”の名誉校長、中邑賢龍さんです。東京大学先端科学技術研究センターのシニアリサーチフェローで、子どもたちの学習支援に詳しい“校長”です。

    中邑 名誉校長
    「ヤスリは『こうかけなきゃいけない』って教えてないんですよ。『とりあえず磨きなさい』って言うだけ。そうしたら、子どもたち色んな方法を試し出すんですよね。『あ、これでうまくいった』と自分が納得いく方法を自分で見つけ出せるような、そういう場所にしていきたい」

    SCHOOL”S”では、こうした体験授業のほかにも特徴があるといいます。

    ①自分で時間割を作って学習すること。
    ②オンラインでの参加ができること。

    まず①ですが、週のはじめに自分で1週間の時間割をつくります。学校では決められた時間割に合わせてクラス全員が同じ内容の学習を進めるので、大きな違いです。さらに授業の中には、リモートでの工場見学やクラブ活動の時間、それぞれの興味や関心を探求できる時間などが用意されています。それぞれが選んだ教科を、自分のペースで進められる仕組みとなっています。次に②ですが、オンラインで自宅などから授業に参加することができます。SCHOOL“S”の先生たちとオンラインでつなぎ、タブレット教材で勉強したり、相談したりできるというんです。自宅が遠い子どもや外出が難しい子どもの支援もできるようになりました。

    先生は“伴走者”

    体験会に参加した子どもたちは、歴史や算数など、自分で教科を選び、タブレット端末を使って勉強していました。先生は、その様子を見ながら、時に会話し手助けをしていました。先生を務める指導主事の藤井圭さんは、中学校で数学の教員をしていて、いまは県教育委員会の職員になっています。先生の役割について聞いてみました。

    藤井さん
    「自由度が高いプログラムで子どもたちの興味や関心に応じて学びを進めていきますし、個々で違った活動が展開されるので、戸惑いは確かにありました。ただ、教科の学習を進めるうえでも活動を通して学んでいくことは大事なんじゃないかと思っています。子どもたちと一緒に考えながら、伴走しながら、まずはその子たちがどんなことに困っているのか、どんな学びをしたいのか、どんなことに興味があるかとかそういうことを一緒に発見してどんどん深めていきたい。そして、いずれは社会に出て行く子どもたちなので、社会的な自立ができるように、支援していきたいなと思っています」

    参加した親子は

    体験会に参加した中学生は「また来たい」と話していました。

    参加した中学生
    「すごい雰囲気も良くて、過ごしやすそうなところでした。紙やすりで机を削ったり、磨きをかけたりする体験がすごく楽しかったです。普段の学校だと、数学とか国語とかそういう勉強だけど、ここに来ることで、学校じゃ学べないようなことが学べるからすごくいい場だと思います」

    父親
    「いろんな選択肢ができることはすごくいいことだと思います。送迎が難しい人や遠方の人もオンラインで気軽に少しの間だけでも利用できるということもいいなと思います」

    SCHOOL“S”での学習内容などは、子どもたちが所属している小学校・中学校にも共有されます。こうした情報をもとに、各学校の校長が「出席日数」として判断することもできるようになっています。また、学校に通いづらさを感じている子どもたちだけでなく、環境に悩みを抱えたら気軽に相談できる場所としても運用していきたいとしています。

    多様な学び あっていい

    名誉校長の中邑賢龍さん。SCHOOL”S”の意義をこう話します。

    中邑 名誉校長
    「今の子どもたちって学びに制限が多いと思うんですよ。これやっちゃだめ、あれやっちゃだめって。実はもっとやっていいことってたくさんあるんだけど、そこに制限がかかっている。それを1回取り払ってみようと。みんなで一緒に学ぶことができるっていうのはいいことだと思うんですよ。それができる子は。だけど、そうじゃない学びも、もう1つの学びとしてあっていい。自分にあった学びを実現できる場所として、ここを使えるようになって欲しいなと思います」

    1人1人の学ぶペースや方法が認められる。大人たちが寄り添い、子どもたちが自分らしく成長して自分の可能性を見つけられる。SCHOOL”S”がそんな居場所になることを期待しています。

     

     

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