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広島県"備前焼" やっかいものの軽石で新たな表現に挑む陶芸家

  • 2022年05月13日

「これまでにない備前焼を追い求めて 陶芸家の挑戦」

千年を超える歴史を持つといわれる備前焼に、新たな息吹を吹き込もうと奮闘する陶芸家が広島にいます。今回、新たに取り入れたのは、海底火山の影響で沖縄に漂流した「軽石」。一体どのような作品が出来たのか。陶芸家の挑戦に密着しました。広島放送局 木村祥太

千年以上の歴史を持つ備前焼

「土と炎の芸術」の愛称で親しまれる備前焼。釉薬(ゆうやく)を一切使わず、1200度以上の高温で何日間も陶器を焼き締めます。窯の中で灰が燃えてガラス化したものが何層にもなって陶器の表面に付着することで、独特の色合いや模様が生み出されます。

土と炎の芸術と呼ばれる備前焼
香山善弘さん

備前焼は土をこねて作って、ただ焼くだけのすごくシンプルな焼き物です。窯の中で起こる偶然が、人にとって見てかっこいいなとか美しいなとか思うようなものに変化するのです。

伝統の中にも、自分らしさを追求する陶芸家

自然豊かな神石高原町で工房をかまえ、陶芸家として活動する香山善弘さん(57)です。ことしで備前焼の世界に入って27年目。長い歴史を持つ備前焼の伝統の中にも、新たな発見やスタイルを追い求めてきました。

香山善弘さん

窯の中で出る「窯変」というのはいつ見ても偶然の産物で、火だけでこんなになるってすごいなと何回焼いても思います。古いものの中に、新しいものを取り入れながら自分なりのものを作って、それを見た人がいいなと思ってくれるような、後世に繋がるものを一番に作れたらいいなと思います。

コロナ禍の逆境

香山さんはこれまで、自身の作品作りはもちろんのこと、広島県内外で陶芸教室を定期的に開催し、年間3000人を超える人たちに陶芸の魅力を伝えてきました。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大すると、以前のように陶芸教室を開くことが難しくなりました。香山さんの収入も大きな影響を受け、コロナ前と比較して10分の1まで減ってしまったといいます。また、窯焚きでは大量の薪を必要とするため、一回の作品作りで膨大なコストがかかります。コロナ禍の生活で収入が減ったことで、香山さん自身も陶芸家としての創作活動が思うように出来ない日々が続きました。

“新たな備前焼”を追い求めて

そんな中、新たな作品の題材に選んだのが、海底火山の噴火の影響で沖縄の海に漂流してきた「軽石」でした。

昨年11月に沖縄県石垣島を訪れた香山さん。そこにあったのは、大量の軽石が海に流れ込み、浜辺との境目が分からない状態の沖縄の海でした。香山さんにとって、親戚や友人が住む沖縄は毎年訪れる特別な場所。そんな沖縄の美しい海が軽石で濁った状態を実際に目にした時は、大きなショックを受けたといいます。

香山善弘さん

ニュースでは見たり聞いたりは多少していたんですけど、現場を目の当たりにすると想像以上の状態でした。

陶芸家として自分に出来ることはないか。500グラムの軽石を広島に持ち帰りました。そして、普段は不純物を取り除いて作る備前焼に、あえて軽石を取り入れた作品を作ることにしました。「作品を通して少しでも多くの人に、沖縄の海の現状について知ってもらいたい」という香山さんの思いが込められています。

軽石を細かく砕く香山さん
香山善弘さん

完成した作品が一人でも多くの人の目に触れることで、軽石の問題とか多くの人に知ってもらえたら良いなと思います。

軽石を活用して、これまでにない作品を模索する香山さん。どのようにしたら軽石の存在感を出しながら、美しい陶器に仕上げることが出来るのか。挑戦したのが、軽石を砕いたり削ったりせずにそのまま粘土に混ぜて作る方法と、ハンマーを使って細かく砕いたものを粘土に混ぜる方法でした。

細かく砕かれた軽石
香山善弘さん

作品に混ぜるには、やっぱり視覚的にも軽石が入っているというのが分かるほうがいいのかなと思いました。粉末にしすぎるとわからなくなるので、見た目にも分かった方がいいのかなとか、色々考えながら作っています。表面にたくさん(軽石っぽさが)出すぎてしまってもいけないし、かといって何も表情がなくても面白くないでしょうから。うまい具合に面白くなればいいと思います。

4年ぶりに挑む「窯焚き」

 

窯焚きを行う窯

試行錯誤をしながら行った型作りの後に取り組むのは、穴窯で行う「窯焚き」です。実は、この窯焚きに香山さんが取り組むのは、およそ4年ぶり。新型コロナの影響で、窯焚きのための資金集めが出来なくなっていたためです。

窯に並べられた軽石を使った作品

また、この窯焚きでは1週間以上、窯の中の火を絶やさないように薪をくべ続ける必要があります。個人作家の香山さんは、一人で窯の中の温度管理をする必要があるため、体力面でも簡単にできる作業ではないといいます。

香山善弘さん

三日三晩寝ずにやることがあるんですけど、もうふらふらですよね。だから起きてても寝てるみたいな、夢の方の世界にいるのか、現実にいるのかわかんなくなって、そんな状態になったこともあります。

窯の神様に祈りを捧げる

苦労して焼き上げた作品の出来栄えは

火入れから、27日目。期待と不安の中、窯出しの日を迎えました。蓋を開け、窯の中に並ぶ陶器の焼き具合を、一つ一つ丁寧に確認します。そこには、1000度を超える高温を2週間耐え抜き、表面にきれいな黄色の胡麻が付着した、美しい備前焼が並んでいました。

香山善弘さん

きっちり後ろまで焼けていましたね。一番後ろまで焼けていたので、すごくよかったです。思ったより湿気が多かったせいか、黒っぽい仕上がりになっています。

そして、今回初挑戦の「軽石」を使った作品も手に取り、焼き具合を確かめていきます。軽石を細かく砕かずにそのまま粘土に混ぜ込んだものは、表面にポツポツと軽石がはじけた跡が残り、存在感がしっかりと感じられる作品に仕上がっていました。

軽石をそのまま粘土に混ぜ込んだ作品
香山善弘さん

軽石のところがこういう風にボコボコへこんでいますよね。自然油が流れ込んで、ちぢれたような感じになっています。ポツポツとクレーターみたいになっていて、こういうのも面白いですよね。

また、たくさんの陶器がある中で特に目をひいたのが、鮮やかな青色をした作品です。「火前」と呼ばれる、窯の中でも温度が高い部分で焼かれたこの陶器は、窯の中で「窯変」を起こし、不思議な色に変化していました。

青色に「窯変」した作品
香山善弘さん

紫とか緑は見たことあるんですけど、この青は初めてで見ました。

「命を削る窯焚き」のその先にあるものとは

香山さんは、窯焚きだからこそ感じることのできる特別なやりがいを感じていました。

香山善弘さん

窯焚きはやっぱり面白い。しんどいし大変ですけど、やっていて面白いし格別です。大変な日々や限界のその先になにかがあると思います。自分の命を削りながらの作業ですけど、作った実感をすごく感じます。

伝統の中に、新しさを追求していく。陶芸家の挑戦は続きます。

香山善弘さん

100年後、200年後にこんなことやってた人がいるという風に、新しい伝統というか次を目指す人のきっかけに自分がなれればいいなと思います。これからも突き詰めていきたいです。

 

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