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災害時の高齢者・障害者の避難 「2倍の死亡率」を繰り返さないためには?

2018年03月09日(金)

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東日本大震災から7年。実は、この震災で亡くなった人の6割以上が60歳以上の高齢者でした。さらに障害のある人の死亡率は、住民全体の2倍だったことが分かっています。自力で避難が難しい人が逃げ遅れたことが原因の一つだと考えられています。同じことを繰り返さないためにできることはあるのでしょうか。

 

障害者の死亡率は2倍 しかし・・・

 

「障害者の死亡率は、住民全体の死亡率の2倍」。
これは、NHKが東日本大震災で10人以上が亡くなった東北3県の沿岸部自治体を調査して、明らかにした数字です。避難のときに手助けが必要な、在宅の障害者や寝たきりの高齢者などが逃げ遅れたと考えられています。
http://www.nhk.or.jp/heart-net/themes/saigai/#data03

今後も南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模な災害が起きる可能性が示唆されるなか、国は2013年に災害基本法を改正。各自治体に、高齢者や障害者などの"避難行動要支援者"を把握するための名簿作成を義務づけました。さらにその名簿をもとに、一人一人について、具体的に支援者を決め、避難を支援するための"個別避難計画"をつくることを推奨しています。

しかし、その取り組みは、なかなか進んでいないのが現状です。

NHKが2015年12月~2016年1月にかけて行ったアンケートでは、「名簿は必要な人をカバーできていない」と回答した自治体が77%にものぼりました。また、要支援者対策の課題として、「支援者の確保が難しい」が74%となり、「個人情報の開示が壁となっている」や「支援対象者の絞り込みが難しい」などを大きく上回りました。

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「災害と障害者」に関する自治体アンケート
調査期間:2015年12月~2016年1月
調査対象:「南海トラフ地震防災対策推進地域」「首都直下地震緊急対策区域」に指定されている市区町村
回答数 :自治体数923 回答661(71.6%)
http://www.nhk.or.jp/heart-net/themes/saigai/anq_jichitai.html


また、2018年2月に、NHKと同志社大学の立木茂雄研究室が共同で、全国47都道府県に調査したところ、個別避難計画の策定率は、全国で11.2%と低い数字でした。

 

川西市の取り組み 支援者不足が課題

 

なぜ、個別避難計画の策定は進まないのでしょうか?

人口およそ15万の兵庫県川西市。そのうち、市の名簿に登録されている「避難行動要支援者」は3,300人。同市では、その情報を各地区の自治会と共有し、個別避難計画を作るよう呼びかけてきました。個別避難計画の見本では、支援を希望すると手をあげた一人一人について担当者を決め、避難経路を記入するよう求めています。

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しかし、個別避難計画を作っているのは、「市の対象者の1割程度」(川西市福祉政策課 足立正樹さん)。避難計画の策定が進まない背景には、住民の高齢化と支援者の人手不足があります。

市内で最も大きな地区の多田グリーンハイツ自治会も模索してきた自治会の一つです。この地域の高齢化率はおよそ42パーセントで、要支援者名簿の登録者は400人以上。そのほとんどが80歳以上の人たちです。

「個別避難計画は支援者の負担になるので、なかなか作りにくいところがあってね。支援者も高齢化で、足の悪い方とか、避難誘導するのは負担が大きいんです。」(多田グリーンハイツ自治会 災害時要支援者支援制度 推進委員長 滝利喜さん)

去年、支援者となった一人、亀甲妙子さん。地区の調整役も頼まれた亀甲さんは、希望者全員に担当がつくよう試みましたが、「責任が重い」と断られ続け、結局充分な数の支援者が集まりませんでした。人数不足を補うため、亀甲さんは1人で5人もの支援を担当することになりました。

「現実的じゃないですよね、自分でも分かってるんですよ。こんな不確かなリストを出して大丈夫なのかなっていうのはありました空欄みたいなものですもの。」(亀甲さん)

自治会では、支援に名乗りをあげた住民を対象に、個別計画作りの勉強会を開催。しかし避難誘導の責任があることが分かると、295人いた支援者の半分以上が辞退を申し出ました。そこで自治会は、支援者の役割を安否確認のみとし、避難誘導までしなくてもよいと方針を変更しました。

「避難誘導しないということであれば、なんとか引き続き支援者と登録していいですよという声になってきて。本来はせめて1対1、1対2という形を望むんですけど、なかなか支援者にも手をあげていただけないというのが現状です。」(滝さん)

支援を希望している森田紀久子さん(81)は、右足の骨変形性関節炎で自力での避難に不安を抱えています。亀甲さんが決めた森田さんの支援担当者は櫻井正人さん(73)です。自治会では役員にも声をかけるなどして、支援の輪を広げようとしています。


櫻井「こんなとこ、力貸して欲しいとかありましたら仰っていただけたら」
森田「ありがとうございます。やっぱり災害のときが一番困ると思います。そんなときに腰が抜けちゃってパニクっちゃうだろうと思いますので」

亀甲さんは、必ずしも避難の誘導までは約束できないことを、森田さんに伝えました。

「5人は亀甲さんしんどいと思います。櫻井さんも年をとられて3人担当されたらウエイトが大きいと思います。見ていただきたいけど、私より身体の悪い人がいっぱいいらっしゃるからね。私、今はまだね、なんとか自分で自分の生活やっているから、なるべくならご迷惑かけないようにしていきたいな」(森田さん)

国は要支援者1人に対し、1人あるいは2人の支援者をつくことを推奨しています。しかし、障害者や高齢者の避難について研究する同志社大学教授の立木茂雄さんは現実には難しいといいます。

「災害時だけの取り組みだと考えていると、あてにできる人が限られてきてしまいます。根本の問題は、普段お世話をされている、例えば福祉のプロの方々といざと言うときの防災の取り組みが分断されている点にあります。」(立木教授)

 

別府市の取り組み 福祉のプロの力を活用

 

平時と災害時のサポートを分けて考えず、福祉のプロの力をもっと活用する。こうした考えから、福祉のプロを巻き込んで個別避難計画を作るという自治体の取り組みが始まっています。

別府湾をのぞむ大分県別府市は南海トラフの巨大地震で、津波の発生が心配される地域。「個別避難計画」の策定が求められるなか、市は防災推進専門員として村野淳子さんを雇いました。

村野さんは、当事者と、支援ができる人を結びつけるコミュニティソーシャルワーカーの役割を担います。

まず、注目したのが福祉の専門職。高齢者の日常のケアプランを作るケアマネジャーと、障害者のサービス利用計画を作る、相談支援専門員に災害時の計画も作ってもらいます。

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「明らかにその当事者の方の情報を日常から持ってらっしゃる。改めて調査をしなくても、日常の業務のなかでその人の情報を持っているから、この方が安心して移動して安全な場所まで行く行動をとるためには、どんなことが必要なのかということが代弁できる。そういう方々に関わってもらわないと、直接の災害から移動して避難してっていうことの計画はできないと思ったんですね。」(村野さん)

相談支援専門員の首藤辰也さんは村野さんからの依頼を受け、個別避難計画作りに初めて挑戦することになりました。

今回、個別避難計画を立てるのは知的障害があるゆみさん。首藤さんは、ゆみさんとは10年来のつき合いで、障害の特性や生活の様子をよく知っています。心配なのは、ゆみさんが自宅で被災した場合。自宅があるのは海抜2.2m。津波の被害にあう危険の高い場所です。

チェックキットを利用しながら、避難時の心配事を一つ一つ確認し、ゆみさんの母親から転びやすい、長距離の移動は厳しいなどの聞き取り。その情報をもとに、個別避難計画を考えます。課題は、高台へ避難するときの坂道の移動。計画には、必要な支援に加えて、本人がすべき備えについても記入しました。

ゆみさんの計画について、地域の人の意見を聞く会議を開くことになりました。参加したのは、自治会や自主防災組織の人など12人。コミュニティソーシャルワーカーの村野さんが、調整役として声をかけました。

相談支援専門員の首藤さんが作った個別避難計画では、あえて避難誘導する担当者は決めていません。特定の誰かに責任を負わせるのではなく、地域全体で必要な支援を考えてもらうためです。

首藤「歩行はできるんですが、転びやすいという傾向がある。長距離を歩いたことことがないので、どういった方法が一番いいか相談させてもらおうと思っています」
村野「一応車いすに乗せるのはお母さんは抵抗ないと仰ってたんですけど、あの坂を乗せていけるかっていうと」
男性「うちにあるリヤカーは3~4人は乗れるんですよ。畳1枚くらいあるんで」
男性「ロープを1個持ってけば、ロープを持って1人か2人は前の方に行って」

地域の住民たちから次々にアイディアが出されます。

そして、年に一度の避難訓練の日。住民200人が参加し、ゆみさんも個別避難計画に基づいた避難方法を練習してみることにしました。

まずは、ゆみさんが乗り慣れている車いすでの避難を試します。家の周りの平坦な道では車いすを使えそうです。しかしこの先勾配のきつい坂道では車いすでの移動は困難。そこで、地域の人たちが出したアイディア、リヤカーの登場です。ゆみさんがパニックになったときを想定し、お母さんも乗りこみます。

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ゆみ「わーん」
母親「大丈夫。お母さんおる。行くよ」(走り出す)
ゆみ「ふふふ」

住民たちの協力で、高台の避難所へたどり着くことができました。

「実際に、訓練することによって多くの人に知ってもらって、あの方はこういうふうに支援したらいいんだな、と言うのを知っといてもらえる。みんなで考えていくという、人であったり地域を作っていくのが大事だと思います。」(村野さん)

 

「善意に頼らない仕組み」が必要

 

立木教授によると、別府市の取り組みが他の自治体のヒントになるポイントは2つ。まずひとつは、当事者と地域をつなぐコミュニティソーシャルワーカー。当事者でも当事者同士や隣近所のことを知らずに隔たりがあるため、その橋渡しをする役割です。そしてもうひとつは、普段から当事者の様子をよく知る専門職、相談支援専門員の活用です。

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「障害のある方々に関しては、相談支援専門員。介護保険の利用者は、ケアマネジャーと呼ばれている方々。こうした人は平時のサービスメニューを作っている。ならば、いざと言うときの個別計画は、こういうプロの人たちも一緒に巻き込んで、災害時のケアプランを作る。普段やっていることの延長として、災害時の取り組みを考える。隣近所に対しては、コミュニティソーシャルワーカーが働きかけ、調整会議の場で地域から2・3人出て支援する。こういう取り組みをセットで考えていけば、前に進むというふうに私たちは考えているんです」(立木教授)

しかし、相談支援専門員の活用には、課題もあります。日常の業務だけでも負担が大きい人もいるため、「(災害時計画の)必要性は感じるけれど、ジレンマを感じる」という声も出ています。

立木教授は、計画作りを進めていくには、こうした人たちの「善意に頼らない仕組み」が必要と指摘します。実際に、別府市で村野さんらが試みているのは、相談支援専門員が災害時ケアプランを作成すると、通常のケアプランの作成に加えて7,000円が上乗せされる仕組みづくりだといいます。

さらに、災害時の備えについては、当事者が必要な備えについて自分自身で気づき、自覚を持つことが大切と訴えます。

「当事者が自分の必要な備えについて、自分で気づいていただく。そうすると明日から、お隣近所の方々にご挨拶をするというのが必要な備えなんだと、そういう自覚を持っていただこうと。あるいは(自分の地域では)どんな災害の脅威があるのか知る。そういう脅威の理解をし、備えの自覚を持ち、防災訓練に参加することで、いざと言うときに行動できるという、自信を持っていただく。そういったことを通じて当事者自身が力を高めるプロセスとして、災害時ケアプラン作りを考えていただきたい。こんなふうに考えているんです」(立木教授)

2011年の東日本大震災から7年。自力で避難が難しい高齢者や障害者を誰が、どう支援するのか。難しい問題ですが、地域と当事者が一緒に考えていくことが大切です。

 

※この記事はハートネットTV 3月5日(月)放送『シリーズ 東日本大震災から7年 第1回 誰が助ける?どう助ける? ―高齢者・障害者の"個別避難計画"―』を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

コメント

東日本震災の被災者です、
津波の時、余裕があるかが疑問です。
現実、助けようとして共倒れになった場合もあったし、支援のプロでも、自身の安全を優先では?
それぞれ家族が有るわけだし

投稿:ゆうじ 2018年03月20日(火曜日) 09時14分