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【チエノバ】荻上チキ「性暴力という概念を見直していく必要がある」

2017年07月21日(金)

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 2017年7月6日放送
 WEB連動企画“チエノバ” 性暴力被害

2017年6月16日、性犯罪に関する改正刑法が国会で可決・成立しました。これまで女性に限っていた強姦罪の被害対象者が性別を問わない形となるなど、明治40年の制定以来110年ぶりの大幅改定となり、今後の運用に注目が集まっています。しかし、そもそも100年以上も前に作られた法律がそのままにされてきたのは何故なのか。今回改正された刑法はどういったことをカバーできているのか/できていないのか、などについて、チエノバコメンテーターの荻上チキさんに聞きました。

荻上チキ

 

―― 明治40年の制定から110年ぶりの大幅改定となった性犯罪に関する刑法ですが、100年以上も前に作られた法律が今まで適用され続けてきた背景には何があると思いますか。

まず、“性”というのは、実は非常にジェンダーギャップ(男女格差)があるテーマだということが一つ挙げられます。刑法制定時は、男女の性に対する意識や意味合いが今とは違っていました。女性は結婚相手以外の人と性交をしてはいけない「姦通」といった概念もあり、そもそも性について告発することが許しにくいような状況がありました。
それに加え、性暴力の被害にあった人が告発をする場合、たとえば司法や警察、弁護人も含めて男性中心でずっと行われてきた経緯があります。そのため「被害者の声が蓄積され、それが運動となって世の中を変えていく」という構図を、社会側が削いでいくという状況にあったんです。“社会を変えがたい状況”が続いていたために変わりにくかったんです。
社会自体が性暴力をものすごく過小評価する、あるいは女性個人の問題に矮小化して告発しにくいような状況を放置していた結果、今のような状況になったんですね。逆に言えば今回の改正によって、むしろ告発というものがより社会に出やすい状況を作ることで、さらに社会を変えていきましょうというような段階にようやく立ったということだと思います。いま何か新しい社会に辿り着いたというよりは、ようやくこれからの議論ができるような状況に、まず一歩近づいたということになります。


―― “男性”が作り、運用する法律に、“女性”の視点が欠落していたために、今まで刑法改正の必要性も認められてこなかったということですね。他にはどういったことが挙げられますか。

長らくの間、性が“権利の問題”ではなくて“規範の問題”として取り上げられてきたことが挙げられると思いす。“性”が、家父長制や家族といった“あるべき規範”に縛られて議論をされてきたということです。
一方で、個人の権利として、例えば子どもを産むこと・産まないこと、誰と交際するかを自分で決めること、「ノー」という権利、「イエス」という権利もあることは、なかなか認められてこなった。そういうことが言えるようになってきたのって、やっぱりまだまだ最近になってからのことですよね。つまり、相手を選ぶだけじゃなく、適切に拒むことも同じように時間がかかっていたわけです。そういうときに、性暴力という「ノー」を乗り越えてまでやってきてしまった性的な行為に対して、非常に告発しにくい状態が今までありました。だから、「あってはならないことがおこってしまった」という“規範”の観点から、個人、被害者が責められるということになってしまっていました。
でも、そうではなくて“個人の権利の問題”として問いただせば、本人が望まない性交は、それ自体が暴力であるという結論におのずと辿り着きますよね。そういった観点がまだまだ浸透していないがために、現代でも二次被害、二次加害ということが発生するのだろうなと思っています。


―― “あるべき規範”に縛られ“個人の権利”が軽視される状況が、まだまだ続いているといえますね。改正された刑法でも、そういった概念がまだ色濃く残っている部分が見受けられます。ただ、今回の改正では附則がつき、3年後をメドに実態に即して見直す、ということが盛り込まれました。今後に向けて、どういったことを見直していくべきだと思いますか。

一つは“権利と合意”という観点に基づいて、性暴力という概念を見直していくということだと思います。
今回の改正では「暴力・脅迫が行使された場合において、性暴力という要件を満たす」というような草案の文言が残ってしまいました。被害者・支援者の団体は、その文言の削除を求めていたのですが、それはまたこれからの課題ということになりました。そこにあるのは、社会の偏見がそのまま法文に表れているということですよね。「嫌よ嫌よも好きのうち」じゃないけれど、明確に「ノー」と言ってるのに、後で「イエス」になるんだったらいいだろう、というようなプロセスの問題に矮小化されてしまっている。
そうではなくて、相手を尊厳を持った一人の人間であると認識し、互いの性は到達する合意のポイントである、そういったような概念を社会的に高めていくことも必要ですね。それに法律の改正も、もう一度必要だと思います。また、運用面で適切なヒアリング、アドバイス、調査、情報の共有、そういったことができるような体制づくりが必要になってくると思います。

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「性暴力被害」に関する情報・相談窓口
 お役立ち情報 性暴力被害
 ※相談窓口・支援機関の情報、過去の放送一覧、放送時に寄せられたみなさんからのメッセージなどをまとめています。

コメント

性的虐待の中には、夫婦間の問題も含まれますか? 結婚してお互いに唯一のパートナーとして約束をした相手を裏切って、片方だけが他者との自由恋愛に走る行動は、もう片方に対する精神的虐待になりますか? また、そのような夫婦間の故意のトラブル状態を子どもたちに知られるような状態をひきおこすことについて、トラウマを残す虐待だとは思いませんか? 母を裏切った父を許せないだけでなく、私自身も恋愛を不潔な不倫行為にしか思えず、悩んでいます。

投稿:ポポロ 2018年03月08日(木曜日) 22時51分