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【チエノバ】夏苅 郁子「私の姿が"小さな道しるべ"になれば」

2017年04月12日(水)

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 4月6日放送(4月13日再放送)
 WEB連動企画“チエノバ” 精神疾患の親を持つ子ども
 
ご出演の夏苅郁子さんにメッセージをいただきました。

写真・夏苅郁子さん《夏苅郁子さんプロフィール》精神科医。幼いころ、母親が統合失調症を発症。5年前に体験を公表し、講演などを行う。


――今回の出演依頼を受けてから放送に至るまでは、どんなお気持ちでしたか?

企画のお話をいただいた時から、葛藤が始まりました。
今、自分はとても落ち着いていて、家庭も持ち、穏やかな人生を送っているはずだ。それなのに、わざわざ過去の暗い話を蒸し返さずともいいのでは?・・・こうした問いを自分に発している自分を、もう一人の自分がしっかり見ていました。「あなたは、今は落ち着いていると言うけれど、実はまだ触れられたら壊れそうな自分がいることを知っているんじゃないの?」・・・

本当に、その通りです。子ども時代の長く続いた生活の後遺症は、そんなに簡単には取れるはずもありません。私は、まだ回復の途上にいるのだと改めて認識しました。
でも、いつかきっと堂々と「どこからでも、かかってこい!」と過去に言えるようになるだろうと予感しています。そんな回復途上にいる自分の姿を私の仲間達に見てもらうことで、私より後ろを歩いている人達の「小さな道しるべ」にはなれるかもしれない・・・そう思うようになりました。道しるべになることで自分も前に進めそうな気がして、不安を抱えながらも「やってみよう」と決心しました。

それからは、カキコミ板を読むのが日課となりました。「そうだよね!」「分かるよ!その気持ち」「辛いね・・」、何度も頷いたり、時には涙を流しながら読みました。
カキコミを読んで意外だったのは、番組の中ではあまり触れませんでしたが、少数ながら肯定的な気持ちを述べている方もいたことです。圧倒的に、まだ過去と闘っている方が多い中で、本当に少数ですが「明日は晴れる」的な意味合いのカキコミをされている方がいたのです。
私は、仲間たちの道しるべになろうと思ったのですが、逆に読んでいて暖かい気持ちにさせてもらいました。人は、望む・望まないに拘わらず、気付いていなくても人に影響されて生きていると改めて思いました。

――生放送はいかがでしたか?

放送前、スタッフの方々と入念に打ち合わせができたことは良かったです。
スタッフの方々は、私と同じ境遇ではないので、私が言うことを理解できない点もあるのは当然です。それを率直に「なぜ、そう思うのか?」と聞いてくださったことで、私は「ここなら、話してもいい」と思えました。
人の苦労は追体験できません。でも、話を聞く側が真剣に「理解しよう」と努めてくれることは、大きな支援の一つです。

生放送なので、後から「こう言えば良かった」「ああも言えば良かった」と反省の連続でしたが、ライブならではの一発勝負の真剣さは凄く良かったです。録画では得られない緊張感は、決して悪いものではないと思いました。

――スタジオでの議論の中で、印象に残った点はどんなことですか?

どの場面も印象的だったのですが、特にチキさんがおっしゃっていた「たまたま・・・運次第・・・」「感情のシェルター」などの言葉です。
当事者さんや家族・支援する側は、すぐに行政や福祉制度を変えてほしい、とそこに繋げてしまいがちですが、それは容易なことではありません。
そこはそこで訴えつつ、身近な人が一緒に遊んであげる、勉強や悩みを聞いてあげる、おいしいご飯を食べさせてあげる、などの「誰にでもできる」支援なら明日からでも可能です。直接「精神疾患」と関わろうとしなくても、子どもの身近なところに支援がある、と言う考えは、私が伯母さんを通して学んだことと共通します。自分が普段思っていることを、違う言葉で表現してもらったのは、嬉しかったです。

――放送中、ツイッターでもたくさんの反響が寄せられました。

今回は「子どもの立場」を取り上げたので、当事者さんの子育てについては触れられませんでした。当初、私はその点が気になり、「育てる側の気持ちも入れたほうがいいのでは?」と考えました。寄せられたツイッターの中にも、同様のご指摘がたくさんありました。
そうしたご指摘を読んで一時は気持ちが揺れ、あまりに辛い体験を言い過ぎたのか?と動揺もしました。しかし、350件を超えるツイッターが寄せられたことは反響が大きかったということです。子どもにも親の立場にも配慮した内容だったら、これほどインパクトはなく、反響も少なかったのではないかと思います。
30分の枠の中で、子どもの置かれた状況を精一杯伝えたことは意義があったと思います。実際に、今もリアルタイムで過酷な状況を生きている子どもがたくさんいますから。
ぜひ、次回は「当事者の子育て」についても番組を作ってほしいと願います。

――今回、改めてご自身の過去を振り返ってみたことはいかがでしたか?

結構、悲惨な生い立ちだったと改めて思いました。「よく生き延びてきたな」と・・・
生き延びてこれたのは、専門家の力ではなく、チキさんがおっしゃっていた「病気に直接には関わるわけではないけれど、何気ない感情の交流や体験」を私と共にしてくれた人達のおかげです。そうした出会いは、運任せであってはいけないとつくづく思います。

時間があれば、「私は今、幸せになっています」ということを、もう少し強調したかったです。
通常の家庭で育った子どもより、普通の家庭のありがたさ、平凡であることの大切さが分かる人間になったと思っています。だから、私は自分の手で築いた今の家族を、とても大切にできています。

最後に。出演してみて良かったです。
私の人生に大きな意味があることを、教えてもらいました。
これからも、誇りを持って生きていきます。


▼関連番組 2017年4月6日  『ハートネットTV』WEB連動企画“チエノバ” 精神疾患の親を持つ子ども
出演者インタビュー 荻上チキ「連鎖を断ち切らないといけない」
▼「障害者の家族
」に関する関連番組や相談機関をご紹介しています お役立ち情報】障害者の家族

コメント

朝日新聞の「ひと」という欄で夏苅郁子さんのことを知り、ネットで色々見ているうちにここにたどり着きました。コメントをしようと思ったのはelmさんの投稿を読んだことです。
 私は大学3年生で21歳の時に自殺未遂。その後、躁状態になり20代に合計4度精神病院に入院した経験を持つものです。最初の自殺未遂で運ばれた病院で知り合ったある方がクリスチャンで、その後、私の生涯の恩人となる出会いでした。出会ってから10年後に私も洗礼を受け、クリスチャンとなりました。現在、4人の子供(19~8歳)の母親で50歳。 
 今、結構ドキドキしながらキーを打ってますが私も夏苅さんと同じ思いで発信を思い立ちました。私は平凡な主婦ですが、精神病から回復した者として同じ境遇にある人たちにとってただ発信してゆくことだけで希望の光となれることは自覚してます。だから身近なところでは話してきました。でも、こうしたネットでの発信はずっと抵抗を感じてきました。
 なので伝えたいことは山ほどありますが、「壊れた私…」を手に取って頂ければ求めている方には更に必要な情報・人との出会いが与えられると思いますのでこの辺で。長々すいません。 
 elmさんや生きずらさを抱えている、未来を担う全ての若者たちに届きますように…。   

投稿:keiko 2017年12月09日(土曜日) 09時47分

私も未だに冷凍保存から40数年、自力で溶かしはじめている最中にいます。、夏苅先生の言葉をまるで自分のことのように聞きいっておりました。共感できただけでこんなに気持ちか楽になれるとは。でも私にはまだ語り場がなく、解凍された水も足元で溜まる一方で、捌け口を探しています。両親も口止めから最近では知らないと言い切り、母の精神疾患はなかった事に。さらに過去を私のただの妄想だと思い込ませられています。両親の対応に困り果てています。もう高齢ですし、私がこのまま抱えて我慢するしかないのか…悩んでいます。

投稿:はる 2017年04月15日(土曜日) 18時49分

この放送が始まる少し前に、未治療の母が双極性障害 I であること、そして6年前から鬱病の治療を受けていた私は双極性障害 II であることが判りました。
それまでは、過去の苦しみは早く忘れて前を向いて今の幸せを味わえばよいのだ、いつまでも苦しむ自分が弱くてだめなのだと自分を責めてきました。でも、勇気を出して新しく精神科医に診ていただいたことで、やっと自分の苦しみは正しかったのだと思いました。
病名が判かったことで、今まで感じたことのない安心感を感じています。
自分が癒されないところから、母を受け入れようと必死にやってきましたが、それは無理だったのですね。
まずは自分の苦しみを受け入れて自分を助けるところからなんだとしみじみ感じています。

投稿:Miri 2017年04月14日(金曜日) 09時53分

自らの体験を社会に向けて発信された勇気はきっと多くの人を救うと思います。
私は中1の時に精神疾患を持つ母を自死で亡くしまた。
それまで、奇妙な行動に付き添い、子供ながらに無意識下で恥ずかしいと言う気持ちを抱えていました。
その母が突然自死と言う形で亡くなり間もなく父まで病死し、親戚の家に養子として育てられました。
私は現在、50歳です。
母の事をちゃんと話せるようになったのは本当数年前の事です。
それまで、数十年、蓋をしてきました。
それが原因で現在うつと不安障害を患い、とても苦しい日々を送っています。
私自身が精神障害者となり、分かった事は日本は差別偏見がまだまだあると言う事です。
なかなか、カミングアウト出来る雰囲気はありません。
それでも、最近、私はどう思われても良いと思い、自らの事を友人知人に話すようになりました。
そうしたら、想像以上に似たような境遇の人が居る事に気がつきました。
精神疾患と言う見えづらい障害で困り果てている人が少なからず居ると言う事を知ってもらう為には、結局、この番組のように、世の中に向かって発信していくしかないのかなと思いました。
分かってもらうのはとても困難だと思います。何故なら、こういった事は同じ経験をしたものにしか分からないからです。
それでも、発信していき、そのSOSを拾ってもらいたいと思います。
こうした事が普通に話せる日本の社会になって欲しいと思います。
定期的に精神疾患…見えない障害に関して取り上げ続けて欲しいと思います。
それが、私達にとっては一つの光りとなると思います。
私達はなりたくてこうなった訳で無いことをどうか知ってもらえたらと思います。

投稿:ライズ 2017年04月14日(金曜日) 02時14分

全く同じ状況ではありませんが、私も親との関係で結構辛かったです。12歳から教会に一人で通いました。でも教会に来る理由を聞かれると、親のことだとは言えず、暫くしてからまた行く、ということを繰り返しました。誰にも心の内は話せませんでした。神様に祈りつつ自分を責めていました。今の状況を何とかしたい、親のせいではなく自分のせいであるなら努力して自分を変えれば状況を変えられるわけです。そして絶対に親を恨むまい、それが当時の私の精一杯でした。3年前に母が亡くなり遺言書や母の書いた文面を読みました。私に対する怒りと憎しみに埋めつくされた文章を読み、本当に溜め息が出る思いでした。やはり悲しいですね。

投稿:elm 2017年04月13日(木曜日) 16時07分

ご自分を一番に考えて欲しいという前提の上ですが、可能であればこれからもずうっと発信し続けてほしいと思いました。
ご自分の負担にならない範囲で。

存在自体が支えになるという方だと思いました。
沢山の声を出すこともできない人たちに希望の光を見せてくれる方だと。

投稿:ユイ 2017年04月13日(木曜日) 13時13分