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外国人と医療通訳 第4回 滞在日数や来日した理由で異なる症状

2017年12月14日(木)

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国人と医療通訳
第4回 滞在日数や来日した理由で異なる症状

南米出身の日系人の支援をしたかった

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Webライターの木下です。

第4回は、日本で数少ない外国人専門の精神科医療機関「四谷ゆいクリニック」の阿部裕さんへのインタビューです。阿部さんは医療通訳ではなく、精神科医で同クリニックの院長。スペインに留学経験があり、南米出身者などを中心に、精神疾患の治療に当たっています。また、異なる文化の中で生きる人々の精神医学問題について研究する「多文化間精神医学会」の理事長でもあります。


南米出身の日系人の支援をしたかった


外国人専門の精神科医療機関「四谷ゆいクリニック」


木下
:外国人専門の精神科クリニックというのは、他にもあるのですか。

阿部:調べたわけではないですが、たぶん私のところと、私のところにいた医師が3年前に開業して始めたクリニックぐらいしかないでしょうね。

木下:なぜ、外国人専門のクリニックをつくろうと思われたのですか。

阿部:外国人の診察を行うようになったのは、1989年にスペインのマドリード大学に留学して、翌年の12月に日本に戻ってきてからです。そのときは、栃木県の自治医科大学にいたのですが、前年に入管法が変わったのを知らなかったので、急にペルー人やブラジル人が外来患者としてたくさん来ることに驚いていました。そのときの治療体験を通じて、南米出身の日系人の支援をしたいと思ったのが、きっかけですね。日本人は他の医師でも診ることができますが、英語に通じた医師を除けば、外国人を診察できる医者はいなかった。それで自分がやろうと思ったのです。クリニックを開業したのは、大きな病院では自分の思ったような治療ができないと考えたからです。

木下:このクリニックの外来に来られるのは、南米系の人たちが中心ですか。

阿部裕さん阿部:2006年から2016年までの10年間で外国人の初診患者数は1351人になりますが、そのうち759人が南米系の外国人です。在留外国人には、アジア系の人も多いですが、クリニックを利用するのは、圧倒的に南米系です。私がスペイン語を話すこともありますが、たぶん本国との距離も関係していると思います。中国人も、フィリピン人も、ベトナム人も、症状が重いようなら、数時間で戻れる距離ですから、本国に帰ってしまいます。でも、南米に戻るのには24時間以上かかりますし、航空運賃も高い。なかなか戻れません。それで、日本に留まって、治療を受けることを希望するのだと思います。

木下:患者は東京の在住の人ですか。

阿部:関東圏が中心で、一番多いのは神奈川県で、次が東京都ですね。地元で見てくれるところがないからと言って、愛知県や静岡県などの遠方から日系人が来られる場合もあります。

木下:みなさん、日本語は話せるのですか。

阿部:難民の中には話せない人もいますが、日系人、留学生、技能実習生は、ある程度日本語を学んでいますから、日常会話ぐらいはできる人が多いです。

木下:どんな心の病で、クリニックを受診されるのですか。

阿部:滞在年数や来日した理由によって異なります。日本に来られて間もない人は、言葉が通じないことやカルチャーショックから急性の心の病にかかりやすいですが、治療を受ければ、比較的短期に回復します。一方、すでに5年以上暮らしているような人の場合、日本人と同じで、家庭や職場の人間関係から長期にわたる精神障害を患うケースが多いです。
また、留学生や労働者として来日した人と難民は異なります。留学生や労働者は日本での生活環境が原因で発症するケースになりますが、難民の場合は、もともと本国で迫害を受けていたりしますので、そのトラウマがPTSDとなり、さらに入管で辛い目にあって、二重三重に心の傷を負っているケースがあります。

木下:アルコール依存症もありますか。

阿部:あるでしょうけど、アルコール依存症で受診しようという外国人はあまりいません。日本人ほどアルコールに依存することを病気と考えていないと思いますし、外国人のカウンセリングを行えるような心理療法士はほとんどいませんから、治療しても、継続しないと思います。




木下 真

 

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