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外国人と医療通訳 第2回 円滑なコミュニケーションで医療の質を上げる

2017年12月12日(火)

画像:外国人と医療通訳 第2回 円滑なコミュニケーションで医療の質を上げる

国人と医療通訳
第2回 円滑なコミュニケーションで医療の質を上げる

外国人にも理解できる説明を医師から引き出す 
患者の命を支えるという使命感がある
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Webライターの木下です。

今回はMICかながわで、医療通訳をやられている2人のベテランスタッフへのインタビューです。

岩元陽子さんは、MICかながわの副理事長。医療通訳派遣のコーディネーターであり、自身も英語の医療通訳です。横浜市の金沢区で20年前に国際交流グループを立ち上げ、外国人の支援を長年にわたってやってきました。MICかながわの創設期からのメンバーです。

佐藤ぺティーさんは台湾出身。中国語の医療通訳です。台湾で日本の大手電機メーカに勤めていて、日本人と結婚し、その後来日。いまは日本に帰化しています。ぺティーという名前ですが、欧米人の血が入っているわけではなく、中国名が読みづらいので、帰化する時に日本人にもわかりやすい名前にしました。2004年に新人研修を受けて、2005年からメンバーに加わりました。


外国人にも理解できる説明を医師から引き出す


岩元陽子さん岩元陽子さん


 木 下 
:医療通訳の現場での具体的なお話をお聞きしたいと思います。最近は日本語の上手な外国人も増えてきていると思いますが、それでも、通訳をされていて、やはり日本語の壁は厚いと思われますか。

 岩 元 :確かに日本語が上手な外国人は増えてきていると思います。それで問題ない場合もありますけど、かえってトラブルになることもあります。全然日本語がわからない人よりも、中途半端にわかっている人の方が、実はあぶない。「わかりましたか?」と医師が訊ねると、「はい」と答えるので、医師はわかっているものと思い込みますが、実は聞き流しているだけということがあります。また、前後の文脈から類推して勝手な解釈をしている場合もあります。日常会話ができるレベルの語学力と、医療の専門用語を理解する語学力とは大きな開きがあります。

 木 下 :具体的なエピソードがあれば、教えていただけますか。

 岩 元 :かなり日本語ができるペルー人で、通訳は要らないと思われていた人がいました。腎臓が悪く、定期的に受診していた医師から「このままでは、透析が必要になる」と言われたのですが、その医師の忠告を真剣に聞く様子がありませんでした。深刻さがわかっているのかどうか、病院側も不安になって、いちど通訳を入れてみることになりました。すると、「透析」というキーワードが伝わっていなかったことがわかりました。
 医師は、知らない言葉があれば、訊ねるだろうと思っていたのです。しかし、その患者は腎臓が少し悪くなっている程度としか思っていなかったそうです。「透析」という言葉を、通訳がスペイン語で伝えると、途端に状況を理解して、泣き出したそうです。そして、それ以降、治療に真剣に向き合うようになりました。

言葉の問題だけではなく、医療に関する常識が国によって違う場合もあります。例えば、「糖尿病」という言葉を聞けば、日本人ならどんな病気でどんな治療が行われるか想像がつきます。でも、外国人によっては、その病気がどれほど深刻なものなのか、一般常識になっていない場合もあります。糖尿病という病名を聞いたことさえ、ないかもしれない。だとすると、通訳者は必要に応じて医師にかみ砕いた説明を求め、専門的で難解な医学用語や医療方針であっても、外国人にうまく伝わるような配慮をしなければなりません。

 木 下 :言葉を訳すだけではなく、その意味をきちんと理解させるということですね。

 佐 藤 :通訳が入ると、患者はすごく話しやすくなります。日本語では、言いたくても言えなかったことが言えるようになります。医師も、通訳がいなければわからなかった症状の詳細を質問できるようになります。「今日はいろいろな話ができてよかった」という患者さんやお医者さんの言葉を聞くのが、私たちは何よりもうれしいのです。


患者の命を支えるという使命感がある


佐藤ぺティーさん佐藤ぺティーさん


 木 下 
:医療通訳者に向く資質のようなものは、何かありますか。

 佐 藤 :一般的に必要なのは語学力と専門知識。それから、MICかながわでは、医療通訳者の行動規範を設けていまして、それをきちんと守れる倫理感も必要とされます。例えば、患者の秘密をもらさない守秘義務、約束の時間を守る時間厳守、相手に不快感を与えない清潔な服装、プライベートに踏み込まず距離を置く態度などですね。

 岩 元 :医療通訳者の中には、会議通訳の仕事もやっている方もいます。会議通訳の際には、二人きりになる場面はあまりないと思うのですが、医療通訳の場合は、診察を待つ間に二人きりで話す機会が多くあります。そういう時に、患者が話しやすい態度を保って、相手を思いやる気持ちをもつことも大切だと思います。

 木 下 :患者が病気と直接関係のない、身の上話を始めることもあるのではないですか。

 佐 藤 :いままでの人生の後悔とか、患者さんからいろいろな悩みを聞かされることはあります。通訳として一応耳を傾けますが、安易な情報提供やアドバイスは控えています。例えば、在留資格のことを聞かれたとして、知ってはいても情報提供はしません。それは、答えるべき人がいますから、そこにつないでいきます。私たちの役割はあくまでも、医療者と患者の間をつなぐことです。

 木 下 :もともとはボランティアだったそうですが、現在通訳料はどれぐらいになりますか。

 岩 元 :3時間で 3240円。ただし、交通費込みです。3時間がひと枠になっていて、3時間を1分でも超えたら、6時間まで 6480円になります

 木 下 :時給が7、8千円近くなるビジネスの会議通訳などの料金設定よりは、かなり低い額ですね。それで交通費も込みですか。しかし、専門性という点では、会議通訳と変わりないですよね。

 岩 元 :確かに有償ボランティアのような料金ですけど、この費用を負担するのは病院なのです。一部患者に負担いただくこともありますが、料金が高くなれば、病院は医療通訳を依頼するのを控えるようになってしまうと思うので、それが悩みの種です。実現は難しいでしょうけど、国民健康保険を適用できるような制度にしてもらうのが理想だと思っています。

 木 下 :医療用語などについての勉強はどうされているのですか。

 佐 藤 :きちんと事前準備しないと、現場に行って、初めて聞いてもわからないことも多いので、日頃の勉強が大切です。人それぞれでしょうけど、現場では30分の仕事であっても、その30分のために費やす勉強は、何時間にも及びます。ときには研修を受けに行くこともありますが、そのような費用はすべて自己負担になります。患者さんの命を支える仕事ですので、継続的な勉強は使命感としてやっています。

 木 下 :医療通訳を社会に普及させていくことで、医師と患者の意思疎通がスムーズになり、結果的に医療費の削減につながるということはあるのでしょうか。

 岩 元 :厚生労働省は、医療通訳の費用対効果を調査しているところです。ただ、医療通訳によってこれだけコストが違ってきますという数字を出すのは難しいと聞いています。でも、医療通訳を付ければ、無駄な診療や検査、医療的なトラブルも間違いなく減ると思います。

 



木下 真

 

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