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不登校の子どもをめぐる基礎情報 第6回「進学先としての通信制高校」

2015年12月11日(金)

WebライターのKです。

今回は、不登校を経験した中学生の進学先や高校で不登校を経験した子どもの再入学先として選択されることの多い、通信制高校についての基礎情報をお届けします。

 
 通信制高校

通信制高校は自宅学習と通学を組み合わせながら、レポート(小テスト)提出とスクーリング(面接指導・授業)や定期試験を受けて高校卒業資格を取る高校です。生徒の6割は不登校経験者です。その子どもたちは、フリースクールなどでなじんだ自由な学習スタイルを継続発展させるためや新たな生活をスタートさせるきっかけとして通信制高校に進学します。

公立が3割、私立が7割
通信制高校は全国で237校、内訳は公立が77校、私立が160校。生徒数は、公立約6万7千人、私立11万4千人、総計18万1千人が在籍しています。(2015年「学校基本調査」)。

全国規模の広域高校が増えています
公立の通信制高校は、各都道府県に1か所以上設けられていて、その都道府県内に暮らす子どもを入学対象としていますが、私立の通信制高校では、複数の県から生徒が入学することができます。3つ以上の都道府県から生徒が入学できる通信制高校を「広域制通信高校」と呼び、私立の通信制高校の半数以上を占めています。広域制の通信高校の多くは、各地に生徒が通学できるサテライト拠点を置いています。通信制高校では、インターネット授業、CD収録授業、NHKテレビ・ラジオの高校生講座などが正規授業として認められていて、それらのメディアも有効に活用されています。

不登校経験者に受け入れやすい学校制度
通信制高校が不登校経験者にとって、利用しやすい理由は大きくは3つ。ひとつは、週に何日登校するかを自分のペースで選ぶことができて、通学を強制されず、自宅で自由にしていられる時間が確保できること。もうひとつは「単位制」です。日本の学校は、大学以外は、「学年制」を取っていて、同じ年齢の子どもたちが、同じ学習内容を同じ学年で学び、履修がすむと全員で次の学年に進むやり方です。しかし、通信制高校は、大学のように、最終的に74単位を履修しさえするなら、3年間でどのような履修計画を立てても構いません。「クラスのペースに合わせなければ」というプレッシャーを感じることなく、学校生活を送りたい不登校経験者の子どもたちにとっては、受け入れやすいスタイルです。

3つめの理由は、不登校経験者がたくさんいるのでコンプレックスを感じなくてもすむことです。通信制高校に行って、中学校のときとは打って変わって、たくさんの友達を作り、学校生活をエンジョイする子どもたちもいます。

 

個別対応で不登校経験者をサポート
通信制高校は基本的にクラス単位ではなく、個人単位で学習が進みます。不登校経験者は、中学時代に未学習だった内容の学び直しをしたいという希望もあるので、習熟度別クラス編成や少人数クラスでていねいな指導を受けられるのはメリットです。新たな学習に関しても全日制などに比べて、年間の学習量は少ないので、ゆとりが生まれます。

一方、不登校経験者ではあるけれど中学時代の学習には問題はなく、できれば大学に進学したいと思っている生徒にとっては、通信制高校の学習量では物足りません。しかし、そのような生徒に対しても、個人単位で学習を進める通信制高校のメリットを生かし、個別に高度な学習内容を提供して対応します。私立の通信制高校などでは、予備校や学習塾と提携して、受験勉強へのサポートを行っている高校もあります。通信制高校の大学進学率は2割以下で決して高くはありませんが、難関大学に進学する生徒もいます。

通信制高校の課題
私立の通信制高校は、この10年で2倍以上の数に膨れ上がっています。学校法人によるものが7割以上ですが、2004年度に構造改革特区法で認められてから株式会社による広域通信制高等学校も急激に増加しました。しかし、質が追い付かず、不適切な添削指導やレポート提出などを容認する教育上問題のある通信制高校が増えてきたとして、文部科学省も調査に乗り出しています。

平成23年度の文部科学省「学校設置会社による学校設置事業調査結果」では、不適切な活動事例として、「当該学校の教員でない者や校長の監督権が及ばない者が添削指導や試験を実施している」「添削指導をマークシート方式など機械的に採点ができる課題で行っている」「自由な成果物の提出を試験の代わりとしている」「試験問題が毎年同じ」などが挙がっています。

平成26年度の文部科学省の「高等学校の広域通信制課程に関する調査結果について」では、「複数の県にまたがるために所管の都道府県でも県外の施設の実態が把握できず、不適切な教育活動があっても対応が難しい現状があること」や「サテライト施設の取り扱いが全国的に統一されていない」ことなどが指摘されています。

通信制高校は、不登校経験のある子どもたちにとって大きなニーズがあり、全日制高校よりもハイレベルの学習ができたと高い評価する保護者もいるだけに、今後の質の改善が求められます。

 

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