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難病カフェ 第3回 難病をオープンにして暮らせる社会を

2017年03月03日(金)

 

Webライターの木下です。

第3回は、千葉県成田市で、難病カフェ「N-Cafe」を始めた小倉久恵さんにお話を聞きました。N-Cafeの「N」は難病の頭文字です。


 19歳のときに難病のSLEを発症

 

201702_3_nanbyou001.JPG主宰の小倉久恵さん


小倉さんの病気は、膠原病の一種で、体の関節、皮膚、臓器などさまざまな組織に炎症が起きる「全身性エリテマトーデス」という難病です。この病気は、英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。日本全国に6万人~10万人の患者がいるとされ、男女比は1:9で、女性に圧倒的に多い病気です。

小倉さんが病気を発症したのは、22年前の19歳のときでした。就職したばかりで、なれない仕事による疲れが出たのかと思っていましたが、激しいだるさに襲われ、病院にいくと、血小板が異様に減少していて、即入院となりました。最初は突発性血小板減少性紫斑病と診断されましたが、5年後には、全身性エリトマーデス(SLE)と確定診断が下りました。初めて聞く病名でした。

「体力がなくて、疲れやすいのです。ふつうの人がやれることが100%だとしたら、私のやれることは70%。それが限界です。無理をすると、体がだるくなったり、痛みが出始めます。突然、息もできないぐらいの痛さに襲われ、夜中に救急車を呼んだこともあります。現在、パートの職場では週に1回は平日の休みをもらい、力仕事や日差しを浴びる仕事は、免除させてもらっています」


 悩みを相談し合い、情報交流する場を求めて


小倉さんがN-Cafeを始めたのは、昨年の4月からです。同じ病気の仲間と話をしていたときに、患者会だけではなく、生活の悩みを相談し合ったり、情報交換する場がほしいねと話したのがきっかけです。とくに就職に関しては切実にそのような場を求めていました。小倉さんは過去に勤めをいったん辞めたときに、新たな職を探そうとしましたが、職業生活の相談ができる仲間がまったく見つかりませんでした。膠原病の患者会にも足を運びましたが、近い年代の患者とは出会えず、悩みを共有することはできませんでした。

「新たな仕事を見つける方法」「仕事を続けていくための工夫」「病気をカミングアウトするタイミング」「カミングアウトによって待遇が悪化したときの対処法」など、仕事に関する悩み事はとても多いのにもかかわらず、そのような相談に乗ってくれる場所はなかなか見つかりませんでした。


 就職問題は難病患者にとって最大の生活課題


現在、全国のハローワークには、難病患者専門の「難病患者就職サポーター」が配置されていますが、各県に1人いるだけです(東京は2人)。指定難病患者だけでも150万人、指定難病以外の難病患者や確定診断されていない患者を含めれば、数百万人と推測される全患者数に対して決して十分な数とは言えません。また、その存在も社会に広く知られていません。

小倉さんの知り合いの難病患者就職サポーターによれば、障害者に比べて、難病患者の雇用については、企業の採用担当者の理解はまだまだ進んでいないと言います。「手帳をもたない難病患者を雇っても、雇用率に換算されないとしたら、企業に何のメリットがあるのか」と問われることが多く、適切な配慮さえあれば、ふつうに働ける人たちなのに、障害者の雇用よりもはるかに及び腰であるのが現状だと言います。医療費の負担が大きい上に、仕事を得ることが難しく、就職問題は難病患者にとってきわめて大きな生活課題となっています。

そんな厳しい現実に負けないためにも、N-Cafeでは、生きるための知恵をみんなで共有していこうという気持ちがあります。楽しいおしゃべりをしながら新たな仲間と知り合うことも大切ですが、市の障害福祉担当者や社会保険労務士などの専門家を講師に招いて、求職活動や障害年金などについての勉強会にも力を入れています。情報を知らないばかりに、行政の支援を受けられない人も大勢います。そのような事態に陥らないように、自分たちで積極的に専門知識を身につけていく必要があると考えています。

小倉さんは、周囲に病気のことを伝えるのは難しいと言います。同じ難病の仲間であれば、当たり前に話せることも、難病を知らない人には、必要以上に重いことだと受け止められてしまって、人間関係が変わってしまうことがあると言います。また、就職の際にも、病気をオープンにしたために就職口が狭まってしまう可能性もありますし、隠して就職して、後にわかって、トラブルとなるケースもあります。しかし、現在N-Cafeでは、病気のことはできるだけオープンにするように勧めています。

昨年施行された改正障害者雇用促進法では、企業に合理的配慮を求めていますが、これは障害者だけではなく、難病患者にも適用されます。難病や障害をオープンにしても不利にならない社会の実現に向けて、社会はすでに動き出しています。小倉さんも、社会から適切な配慮が受けられ、難病があってもふつうの暮らしを続けられる社会の実現をめざして、仲間とともに社会に働きかけていきたいと思っています。

 

木下 真

 

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