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見えない困難を抱える人のための"お願いタグ"を開発

2016年01月19日(火)

WebライターのKです。

障害者や難病患者などの中には、一見しただけでは、当事者であることがわかりにくい人たちがいます。そういう人は見た目に症状は表れていなくても、活動に制約があるために、不愛想だとか、怠け者だとか、自分勝手だとか、さまざまな誤解を受けることがあります。

そんな見えない困難を抱えている人たちのために、ヘルプマークなどのタグをカバンやベルトなどにつけて、誤解を受けないようにする試みが全国に広がっています。そんな中、武蔵野美術大学4年生の菊池彩水(あやな)さんは、卒業制作として独自の表示タグを開発しました。


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菊池さんの開発した表示タグ。色はオレンジ・青・黄の3色。
ピクトグラム(絵文字)とメッセージで周囲に理解を求めます。

 

菊池さんは、片耳難聴で、右側の耳がまったく聞こえません。見えない障害のある当事者です。生活上は大きな支障はありませんが、人との関係で誤解を受けることがあると言います。右側から話しかけられると聞こえないので、「無視している」と思われたり、聞き耳を立てていると「真顔が怒って見える」と言われたり。そんな自身の体験から、表示タグにはかねてから関心をもってきました。そこで当事者たちの意見を聞きながら、使い勝手の良い表示タグを自ら作ってみようと考えました。

菊池さんのタグの名称は「PLEASE TAG」。“ヘルプ”や“SOS”など、いろいろな名前が候補として浮かびましたが、「助けて」よりも「お願い」の方が気軽な感じがして気持ちにフィットしました。


20160119_002R.JPG菊池彩水さん。武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科の4年生。

 
5.5センチ四方の2つのアクリル板にベルトを着けて、1つのアクリル板にはピクトグラム(絵文字)を貼り、もう一方にはメッセージを書き込む仕組みです。油性ペンで書いたメッセージは自由に消すことができて、繰り返し使うことができます。周囲に当事者であることを知られたくないときには、メッセージが見えないように、二つに折りたたむこともできます。


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マグネットを利用してタグを閉じます。
「SOS MEMO」には緊急連絡先のメモが入っています。


「PLEASE TAG」の大きな特徴は、当事者がしてほしいメッセージをタグに書き込むところにあります。菊池さんは表示タグに障害名や病名が表示されるだけでは、満足のいく効果は望めないと考えました。言葉であってもマークであっても、障害名や病名だけ示されたのでは、その人がどんな援助をしてもらいたいかは詳しくはわからないからです。「発達障害」であることを示すことよりも、「大きな声でいきなり話しかけられるのは苦手です」と相手に伝える方がより実用的だと考えたのです。


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昨年秋の試作品。
ツイッター上で公開して当事者たちから意見を寄せてもらいました。

 

構想したのは1年前。その後難病患者会の方たちなどの話を参考にして、昨年の秋に試作品を完成させました。そして、菊池さんはツイッター上で公開し、意見を募りました。ツイッター上では「片耳美大生」と名乗っているので、最初に反応してくれたのは聴覚障害者の人たちでした。続いては、発達障害の人たち、そして精神障害の人たち、妊婦さんからの反応もありました。

出てきた意見としては、「もっと目立つように大きくしてほしい」「メッセージは消して何度でも使えるのがいい」「緊急連絡先を書いたメモがほしい」「いろいろな色があると楽しい」などさまざまでした。これらの提案を取り入れ、改良を加えて、今回の作品ができあがりました。

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ピクトグラム(絵文字)は数を増やし、より具体的でわかりやすい表示にしました。

 

東日本大震災の避難所では、見えない障害のある方たちが大変肩身の狭い思いをしたそうです。地域で暮らしているときには、近所の親しい人たちはその人の障害を理解していました。しかし、初めて顔を合わせる人たちばかりの混乱する現場では、一目で障害者とわからない人は、もたもたした要領の悪い人、常識をわきまえない人と誤解されるケースが少なからずあったと言います。例えば、すべてのインフォメーションが声によって伝えられるので、「これは女性と子ども優先です」と言われた食料を取りにいった聴覚障害者の男性が、周囲の冷たい視線にさらされるというようなことが起きました。

菊池さんの「PLEASE TAG」は、そんな災害現場での活用も期待されます。「PLEASE TAG」の良いところは、親しくならなくても、その人がどんな援助を必要としているのかがすぐにわかるところです。緊急時にはきわめて重要なことです。さらに、障害者や難病者に限定されずに、けが人、術後の回復途上の人、妊婦や高齢者など、誰であっても使うことのできる応用範囲の広さも魅力です。当事者からは、メッセージに一言書き添えると、お礼の気持ちを一目で示せるのでうれしいという意見もありました。

作品の完成をツイッターで報告すると、「これほしい」「どこで買えるの」と言った返信が数多く反ってきたと言います。まだ商品化の話はないそうですが、菊池さんは耐久性や見やすさなどにさらに改良を加えて、何とか社会に広めていきたいと考えています。



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「PLEASE TAG」は服につけたり、バッグにつけたり、ベルトにつけても使えます。


▼関連番組
 
こちらの番組では、「ヘルプカード」について紹介させていただきました
 ⇒2014年7月29日放送『ハートネットTV』
   WEB連動企画“チエノバ” ―バリバラコラボ企画・「発達障害」を中心に― 番組まるごとテキスト

コメント

私も、発達障害の、精神障害を、持っていて、タクシーの運転手やっています。
一見して見ても、分からないと思います。
ミスすると、お客さんから、強く怒られることが、あり、そうすると、物凄く動揺してしまい、かなり、落ち込んでしまいます。
後、動作が、どんくさいと、怒られることが、あります。
そこで、乗ったお客さんに、分かるように、何か、いい表示番など、あったら、嬉しいです。

投稿:秀隆 2016年03月21日(月曜日) 08時53分

ぜひ商品化お願いします!

投稿:やまよし 2016年02月22日(月曜日) 15時16分


素晴らしい作品だと思います。是非、商品化して欲しいです。
障がいのある方は、自分の思いを伝える事が出来ない方が
多くいると思います。
障がいの有無に、関係なく共に支え合い助け合って行ける
そう言う社会を目指して行きたいですね。

投稿:さっちゃん 2016年01月25日(月曜日) 06時13分

不自由で不便で難儀しているけれど障害と言うはおこがましい。(故障とでも言えばいいのか?) そんな自分にとってこのTAGは心にピタリとはまりました。
障害・故障・老齢だけでなく、若い元気な方々だって辛い事情の時はあると思います。

先日twitterのお知らせを読み、卒業制作展に伺い実物を触らせて頂きました。さすが美大の方の作られただけあってセンスの良さが光ります。 これ、オシャレとしてだけでもバッグに付けたいなあと思います。是非、市販されますように願っています。

投稿:tempo 2016年01月23日(土曜日) 13時42分

はじめまして、自分はこの武蔵野美術大学4年生の菊池彩水さんが作ったものに大変興味をもちました。

簡単ではありますが、1ついくらくらいするのかと思い・・・

投稿:morisu2 2016年01月22日(金曜日) 20時56分

pleaseタグ、どこかで購入できるのでしょうか?
もし購入できるならどこで購入できるのか教えてほしいです。
本当は自治体や病院で配布してもらえたらいいですよね。

投稿:ぽれぽれのき 2016年01月21日(木曜日) 19時23分