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【変わる障害者雇用】第8回 治療と職業生活の両立で改善する精神障害 後編

2015年07月23日(木)

WebライターのKです。

 

後編では、桜ヶ丘記念病院で実施されているIPSプログラムによる支援を受けて、リカバリーの体現者となった患者さんたちをご紹介します。お二人とも「精神障害者でも立派に働くことができること」を社会に示したいという希望をもっています。

 

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中村孝さんは現在62歳。桜ヶ丘記念病院に入院したのは32歳の時で、統合失調症と診断されました。それまでの職業はコンピュータのシステムエンジニア。大手電機メーカーの研究所に勤めていました。
発病当時は、自分のことを誰かが話しているという幻聴、理由もないのに誰かが後をついてくるという追跡妄想、仕事の邪魔をされているという被害妄想など多様な症状がありました。

 

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入院する前は何をするにもおっくうでしたが、病院で生活リズムを整えることで症状が落ち着きを見せました。その後入退院を3度繰り返し、仕事に復帰したのは13年前になります。経済的にも困窮するし、家にいても暇なので働きたいとずっと思っていました。最初の就職が決まった時には、「また社会の一員になれる!」と、心の底からうれしかったことを覚えています。

中村さんの仕事は老人ホームの清掃です。最初の職場では、精神障害者であることを隠していたのですが、薬を飲んでいることを見咎められて、居づらくなり、退職しました。そこで、11年前には障害者であることをオープンにして、求職活動を行い、清掃会社に就職し、9年間勤めました。業務縮小のため59歳の時に退職せざるをえない状況になりましたが、「精神障害者であることを明かしても、もう一度、かならず就職先は見つかる」という信念のもと、IPSプログラムを利用しながら、ハローワークに根気よく通って、いまの老人ホームに再就職することができました。
いま中村さんは、桜ヶ丘記念病院の精神保健福祉士の中原さとみさんが事務局長をするリカバリーキャラバン隊という任意団体のメンバーとなり、リカバリーの魅力を伝える活動を全国で行っています。
「人と交わって仕事をすると病気の治りも早くなるし、薬も減らすことができます。仕事をしていると病気のことを忘れることができます。働くことはリカバリーになるのです」
中村さんにとっては、仕事とともに、このキャラバン隊の活動も大きな生きがいとなっています。

 

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稲垣直也さんは45歳。22歳の時の失恋が原因で、34歳の時に統合失調症を発病し、5回の短期入退院を繰り返しました。もともとの仕事は内装業。現在はアーティストとして自分の作品の販売をやっています。

 

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発症後、作詞家を夢見るようになり、歌の歌詞を書き続け、いまは短い詩を色紙などに手書きする独自のスタイルの作品を制作しています。その作品のひとつ「だめなときこそ」は、2010年にNHK教育テレビの番組「きらっといきる」で1年間スタジオに飾られ続けました。
相田みつをさんの作品に似ていると言われることがあるそうですが、相田さんの作品が人間愛を問いかける厳しさがあるのに対して、稲垣さんの作品はつまずいた人間への共感と優しさに満ちあふれています。

 

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稲垣さんは自分の作品を、道草ばっかりしている自分にちなんで「道草の湯」と呼んでいます。自分の言葉に触れた人が、温まってくれる「心の温泉」になればという願いが込められています。
最近はギャラリーに出展している作品やグッズが毎月のように売れるようになるなど、自信につながる出来事も起こってきました。

「自分が唯一続けてきたことで、人の役に立ちそうなことはこれぐらいだから。どこかの誰かが“心をぽかぽかと温めてくれたら”うれしいです。自分を責めない生き方をみんな見つけてほしい」
IPSは精神障害をもちながらも充実した人生を送れるように、チームで応援する就労支援プログラムです。稲垣さんは作品づくりを通して収入を得ながら、みんなが元々持っている力をうまく発揮できるように、社会参加をサポートする活動もお手伝いしていきたいと思っています。


【変わる障害者雇用】第8回 治療と職業生活の両立で改善する精神障害 前編はこちらをクリック。

 

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