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発起人はスポーツ大嫌い。新たな競技を創り出す「超人スポーツ」とはなんなのか?

2015年06月01日(月)

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福祉のヤバいテクノロジー第5回は、「超人スポーツ」という日本オリジナルのスポーツを創り出そうとしている慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の稲見昌彦教授にお話を伺ってきました。

「超人スポーツ」は、身体とテクノロジーの融合によって、障害者と健常者、男と女、老若の区別なく、誰もが楽しめるスポーツを創ってしまおうという試みです。スポーツは大嫌いだったという稲見先生が描く未来は、「遊ぶ」というそのものを楽しませてくれそうでした。

それではインタビューをどうぞ!



聞き手大野(以下、大野):はじめまして。よろしくお願いします。

稲見昌彦先生(以下、稲見先生):よろしくお願いします。

大野:4月に超人スポーツ協会の説明会がありましたね。

稲見先生:6月2日には設立イベントがあります。7月にはみんなで新たなスポーツを創造するイベントがあります。

大野:10月には第1回超人スポーツ大会が開催されるんですよね?

稲見先生:はい、テストプレイになりますが、何かしらイベントはやりたいと思っています。今年に関してはきちんとしたプレイという形になるかは分からないです。

毎月何かしらの活動をしているのには理由があって、一番大切なことは、研究開発というよりはコミュニケーションを続けていくことだと思っています。研究開発は普段からエンジニアの方が頑張ってくれているので(笑)

そういえば、今年の新入生に対して、合宿研修でガイダンスをしたんですが、ブラインドサッカーをワークショップで取り上げた時の感触が非常に良かったですね。

大野:好評だったんですね。

稲見先生:好評というか、学生の反応を見ていてもプレイした後に話が弾むんですよね。

ブラインドサッカーを始める前に、目を隠しながら講師の方に説明を受けるんですよね。講師の方が「腕をこうやって上げてくださーい」と言いながら、プレイする人の腕に触れたりするんです。 でも、実際のプレイになると、講師の説明を受けた人が「こうしてほしい」ということをいかにパートナーへ伝えるか、コミュニケーションする必要があるので、意識して話すようになるんです。 そうすると、初めて会った人でも仲良くなったりするんですよね。ディスコミュニケーションにならないとコミュニケーションを意識しないということが分かります。

例えば、リハビリでもそうです。病気や症状が現れ、体が麻痺して初めて、脚をどう前に出すかというのを「意識」するんです。

身体は何かというと、無意識に動かせるのが身体。それが怪我とか麻痺等によって、意図通り動かないと突然意識する対象になって、意識しながら前に動かしたりとか、右側に動かしたり、どこに力を入れたらどう動くのかというのをやっていくのがリハビリの過程で、それが無意識にできるようになっていくと。

そういう意識しないといけない状態を目隠しというシンプルなものでも作れてしまうんですね。目の不自由な人が楽しくプレイできるスポーツだけじゃなくて、晴眼者の方もプレイすることで、新しい気づきが生まれたりします。

大野:ディスコミュニケーションにすることで新しい発見があるんですね。

稲見先生:コミュニケーションがエンターテインメントなんですよね。

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大野:話を聞いているだけでワクワクしますね。超人スポーツ協会設立の経緯を教えてもらえますか。

稲見先生:元々私の研究テーマとして、ロボットなどをやっているんですが、研究のモチベーションとして、技術の力で人間をどう拡張できるか、支援できるかということを考えています。

私は自動化ではなく、自在化という言い方をしているんですが、人がやりたくないことを勝手にやってくれるのが「自動化」で、世の中のものにはやりたくないことばかりではなくて。例えば、面白い遊びをしたい、面白い映画を見たい、というのは自分がやりたいことですよね。それを自分がどういう状態になってもできる様にするのを「自在化」と言っています。それはそれで色々と研究は進めていたんです。

そういう研究を続ける中で、一昨年の秋に、日本にオリンピックが来るというニュースがあって、その時は「日本にオリンピックが来るんだ」という純粋に受け身で、自分には関係ない話だなと思っていました。

たぶん街は変わり、スタジアムもすごいものができるかもしれないとは思いました。当然、自分がプレイヤーとして参加することはあり得ないですし、あくまでも他人事として考えていたんです。

ニュースがあってしばらくした時に、今まで自分がやってきた「人を支援する研究」と「スポーツ」が上手く組み合わせれば、オリンピックとパラリンピックが分けられていること自体に意味が無いように思ったんです。

それから、慶應義塾大学には留学生が30-40%いるんですが、彼らになぜ日本に来たのかと聞くと、大抵2つあって、1つが、日本の漫画やアニメなどのポップカルチャーが大好きだというのと、もう1つが日本はテクノロジーが進んでいる国だからという、この2つを日本で学んでみたいという考えがあると答えてくれます。もちろん、日本食が美味しいとか、景色が美しいというのもありますけどね。少なくとも若者に至ってはポップカルチャーとテクノロジー、この2つがメインなんだろうなと。

留学生は何かを学びに来ますが、オリンピックを日本で開催した時に、日本の選手を応援しに海外から来る人は少ないだろうと考えました。じゃあ何を見に来るのかというと、技術やポップカルチャーというのがスポーツと結びつくと、それは日本ならではの新しいコンテンツといいましょうか、「夢」にもなり得るかなと。

だから、誰もが参加できるボーダーレスで、テックポップスポーツという、日本発のスポーツができないかなと考え、この話を文書にまとめていろんな人に話をしてみたところ好評だったので、やってみようかなと思ったのが超人スポーツ設立の経緯になります。

大野:誰もが参加できるという「人機一体」というのは、どんな障害を持っている人でも参加できるということでしょうか?

稲見先生:最終的にはそういった方達も参加できるようにやっていきたいと思っています。もちろんそれは、技術的な難度が関わってくると思うんですけども、四肢が動かないという方でも、表情だけでプレイできるスポーツもあるかもしれませんし、それこそ脳波だけでロボットを動かせるブレインマシンインターフェイスを使ったスポーツも考えられますね。

大野:誰にとっても遊べるスポーツを作ればいいという発想ですよね。

稲見先生:そうです。そこが一番のポイントです。スポーツをちゃんと発明しようと。我々は今までやってきたはずだと。でもそれを忘れてしまっているんです。

小学生の頃とかは発明してきてたんです。缶蹴りがあって、ローカルルールが作られて、皆そうやって独自に遊びを進化させていたはずなのが、中学高校と進むにつれて部活の「スポーツ」になってから、今あるルールの中でいかにパフォーマンスを出すかという話になってしまって、いつの間にか決められたルールの中でどれだけ頑張るかという話になってしまうんです。

そうではなくて、ルールをもう一回作り直してみて、そのルールを変えるときに関連する技術があれば、全然違ったものが作れるかもしれない。

超人スポーツをやるときはプレイヤーがどれだけいるかも大切だったりするんですが、ちゃんとおもしろいスポーツが生き残る仕組みも必要なんです。

今あるスポーツというのは、長年の歴史を経て、プレイしても楽しくて、応援しても楽しいものが生き残ってきたと言えると思うんですよ。それを新しく作ってしまうのは、新しくゲームを作るのと同じくらいの大変さが必要で、それは何も考えないで作ると面白くないゲームが出来上がってしまうんですよね。だから、ゲームバランスも考えなければいけないですし、ちゃんと努力が活きて競い合うこともできて、トレーニングをすると自分の実力も目に見えて上がると。これをやる時にはゲームデザインの観点が必要で、超人スポーツ委員会にはゲームデザイナーの人にも何人か入っていただいています。

つまり、スポーツを発明するという新しいチャレンジをしています。

「超人スポーツ」が今はまだそこまで広まらないとしても、きっと22世紀くらいになった時に、彼らが普通にプレイしているスポーツは、21世紀の前半に日本で発明された「超人スポーツ」で、新しい伝統になってるといいなと、そういう願いはあります。

大野:海外だと、似たようなスポーツである「サイバスロン」との違いはどういう点になりますか? (※サイバスロンとは、スイスで開催予定の障害者とテクノロジーを掛け合わせた世界大会。詳しくは6月7日放送予定のサキどりでご覧下さい)

稲見先生:超人スポーツはサイバスロンと同時期に話が出てきたんですね。スイス連邦工科大学チューリッヒ校のロバート・リィエナー先生という、ロボットを中心としたシステムテクノロジーを研究されていまして、その方が障害者向けのコンペティション「サイバスロン」を作ろうと。

サイバスロンは、出場できるのは障害者だけであるのと、障害者を支援する技術をうまく競うようにしたいという形になっています。 超人スポーツは、障害者と健常者の区別を無くしてうまく遊ぶことができないかというのが、サイバスロンとの一番の違いになると思います。

大野:日本は高齢化の課題もありますね。

稲見先生:日本は福祉というのも課題先進国というか、人口減少は技術だけではどうにもできないので。いつまでも、なんらかの形で社会に参画できるのが大切だと思うんですよね。

自分の身体の衰えに関わらず、身体が衰えて外に出ないと心まで衰えてしまう。心がしっかりしてるうちに、誰もがいつまでも社会に参画できるようになると、きっと第2の人生、第3の人生を楽しめるんだと思います。

大野:オリンピック、パラリンピック、で超人スポーツと、3つ同時に開催されるのも遠くなさそうに思えてきました。

稲見先生:パラリンピックも最初は勝手に併催してただけみたいなんですよね。全然公式でもなんでもなかったのが、いつの間にかオリンピック公式になってしまったという(笑)

大野:ぜひ続けて欲しいと思います!そういえば、超人スポーツが健康に繋がる可能性もありますよね。

稲見先生:はい。話が逸れますが、実は私、スポーツって大っ嫌いで(笑)

私、早生まれなんですが、早生まれだと同級生でも1年くらい体の差ができてしまうので、何しても負けちゃうんですよね。あまり運動は得意ではないんです。水泳や野球をしていましたが、それも続かなかったんです。

でも、遊ぶのが嫌いなわけじゃないんですよね。将来をイメージしてみると、中学とか部活のクラブで、超人スポーツクラブができたりしたら、運動が得意な子だけじゃなくて、博士みたいな子だってみんながF1のチームみたいな感じになれば、それはそれで皆が活躍できる面白い場になるなと。

超人スポーツがスポーツの裾野を広げることができれば、体動かすようになったり、外に出るようになれば、純粋に健康増進になっていくんじゃないかなと思います。


超人スポーツ協会:http://superhuman-sports.org/(外部リンク・NHKを離れます)


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